Ⅰ-15 吊り橋の決闘!!
「人ニ名ヲ訊イテオイテ、オノレ!」
「別に、お前さんに答える名は持ってねぇってことだ。しかし、バテレンっていうのは南蛮の坊さんのことだろうが。その坊さんが鎧を着けて、そんな大鎌を持って人殺しとはねぇ。まあ、こちとらの坊さんも同じようなもんだが。それで、お前さん、何の用だ? まさか、さっきのお礼をしに来たわけじゃあるまい」
「オ前ニ用ナドナイ。用ガアルノハ、オ前ラガ担イデイル箱ダ。ドノ箱ニ、宝ガ入ッテイル!」
どうやら、この南蛮人たちも宝を狙っているようだ。
厄介な敵ができたなと、鬼羅は舌打ちをした。
「悪いな。はい、そうですかとは渡せねぇんだ。こいつには大金がかかっててね。大人しく帰ってもらえねぇかな……って、そっちも、はい、そうですかとは帰ってくれねぇか」
「ソノトオリダ。云ワヌナラ、力尽クデ奪イ取ルマデ!」
ルイスの大鎌が、鬼羅に向ってくる。
鬼羅は、それを傘で受ける。ただの傘ではない。鋼の骨組みに、鎖帷子を張った特殊な傘だ。
鬼羅は、傘を盾にしてルイスの攻撃をかわした。
攻撃をかわすだけでない。
反撃にも出た。
傘の柄を捻り抜き去ると、刀が覗いた。仕込み杖ならぬ、仕込み傘だ。
ルイスに切りかかる。
「クッ、ヤルナ!」
ルイスは、さっと後ろに飛び退き、体勢を立て直すと、再び大鎌を振って向かってくる。
鬼羅は傘で受け、刀を突き出す。
両人一歩も引かぬ攻防!
鯨丸と由良は、呆然と眺めている。
「おい、何している。いまのうちに逃げろ!」
鬼羅が声をかけると、鯨丸と由良ははっと我に返った。
二人は手を取り歩き出したが、鬼羅とルイスの戦いで橋が大きく揺れ、一歩も前に進めない。
再び、その場に蹲ってしまった。
「バカ野郎! 何してやがる、早くいけ!」
「でも、これじゃ……」
吊り橋が上下に撓るように揺れる。
ブチブチと嫌な音も聞こえてくる
葛の一部が切れかかっている。
「まずいぞ。このままじゃ……」
橋が落ちてしまう。
「くそっ、何とかしないと。えっ? やば!」
鬼羅は、吊り橋に突進してくる塊に目を瞠った。
フェルナンドだ。
猪のように駆けてくる。
「ルイス兄チャン、アッチデ遊ブノ飽キタヨ~~! ミンナ寝テバカリデ、相手シテクレナインダヨ~~!」
フェルナンドが足を踏み入れると、橋がビシシシシッと悲鳴を上げた。
「まずいって、おい、あれ、お前の弟だろう。あいつを載せるな、橋が落ちる」
さすがにルイスもまずいと思ったのか、振り返り、
「フェルナンド、オ前ハ来ルナ。ソコデ待ッテロ!」
と、焦ったように云った。
「エ~、何デ? ルイス兄チャンダケ楽シソウニ遊ンデズルイヨ。僕モ遊ブ!」
「うわ~、バカ、バカ、バカ、来るな!」
「ウワ~、バカ、バカ、バカ、来ルナ!」
鬼羅とルイスは、声をあわせて云った。
次の瞬間、橋が大きく弛んだかと思うと、
――ブチン!
鈍い音がした。
体が空中に投げ出される。
周囲の情景が、ゆっくりと上がっていく。いや、自分が落ちているのだ。
鬼羅は吊り橋の手すりをしっかりと握る。
「うぁぁぁぁぁぁっ………………!」
切れた吊り橋は、対岸の支柱を軸にして半円を描いていく。
目の前に崖が迫る。
鬼羅は、勢いよく全身を打ち付けられた。
「いてぇ~!」
下のほうからジャボンと大きな音がした。
「フェルナンド~!」
兄のルイスが、フェルナンドを呼んでいる。
下を見ると、フェルナンドが、
「ルイス兄チャン! 助ケテ~!」
と、川に流されていった。
ルイスは、宙ぶらりんになった吊り橋にしがみ付きながら、鬼羅を睨んだ。
「貴様、ヨクモ、フェルナンドヲ~!」
「おめぇの弟が勝手に落ちたんだろうが!」
「黙レ! 許サンゾ!」
ルイスが吊り橋をよじ上ってくる。
鬼羅も、慌てて吊り橋を上がろうとした。
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