Ⅰ-10 一族の掟……、鬼の掟……
「お、おい、お前ら、何を?」
鬼羅は、理由も分からず辺りを見回した。
男たちは呻き声ひとつ出さずに刃を腹に立て、真一文字に切り開き、抜き取ると、そのまま首筋を掻き切った。
男たちの首から鮮血が溢れ出し、生き残った者たちに豪雨のように降り注いだ。
鬼羅は全身血まみれ、まるで血だるまだ。
男たちは前のめりにうつ伏すと、ピクリとも動かなくなった。
呆然としている鬼羅に、邦盛が説明した。
説明を聞いて、鬼羅は深い溜息を吐いた。
「まあ、その作戦しかなさそうだが。しかし……」
鬼羅は、気味悪そうに周囲を見渡した。
「たかが宝ひとつのために命をかけるかねぇ~?」
「命をかけて宝を守るのが、わが一族の〝掟〟。宝のためならば、この命、投げ出すのも厭わん。それも、また宿命であろう」
信じられぬと鬼羅は首を振った。
「〝掟〟も、宿命も、俺にはそんなぼんやりとした大仰なものは分からんよ。俺が信じるのは、形あるもの」
鬼羅は親指と人差し指の先を合わせ、丸を作った。
「金だけだ。まあ、金さえもらえれば、俺は何も云わねぇが」
忝いと邦盛は頭を下げた。
邦盛は頭を上げると、鯨丸と由良を近くに呼び寄せた。
鯨丸は青い顔をして震えている。
由良は涙目で父を見た。
二人の頬にも、血のりがべったりと付着している。
邦盛は、片手で鯨丸の手を取り、もう一方の手で由良の頬を愛おしそうに撫でた。
「鯨丸、由良、大丈夫じゃ。鬼羅殿が、必ずお前たちを惟任日向守様のもとへ連れて行ってくださる。何も心配することはない。好いな」
由良の双眸から、ボロボロと涙が落ちる。
鯨丸は泣いてはいないが、目を真っ赤にしていた。
「泣くでない、二人とも。そなたたちも、阿佐一族ならば、宝のために死ぬることを誇りとせよ。鯨丸よ、そなたは兄じゃ、何があっても由良を守るのじゃぞ。由良は、兄に迷惑をかけぬようにな。そなたは甘えん坊じゃからな」
由良は邦盛に抱きつき、声もなく泣いた。
邦盛は、由良の背中を優しく摩ってやった。
「父上、鯨丸は阿佐一族の一員として、必ず役目を果たして見せます」
鯨丸の言葉に、邦盛は深く頷いた。
由良は、何か言おうとしたが、あまりの悲しさに声も出ないようだ。ただ口をパクパクとさせていた。
「由良、何も心配はいらん」、邦盛は由良の頭を撫でてやった、「ワシは、ここでそなたたちの帰りを待っておる。必ずな」
由良は、何度も頷いた。
必ずはないだろうと鬼羅は思った。
邦盛の顔には、すでに覚悟が見える。
下手な芝居を見せられたと、鬼羅は渋い顔を背けた。
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