Ⅰ-5 三好の焦燥
攻めあぐねている三好小太郎俊永(みよしこたろう・としなが)の下に、三人の南蛮人が尋ねてきたと、部下が伝えた。
「この状況を見ろ! 後にしろ!」
と怒ると、
「織田さまからの御使者とか」
俊永は、ピクリと頬を震わせた。
三人のうち、ひとりはバテレンだった。
襟元には白い花びらのような布を巻き付け、金糸を施した深紅のマントを身に着けていた。腰にはサーベルを携えている。髪は赤毛で腰の辺りまであり、首元の辺りで結んでいる。瞳は空のように碧い。鼻が高く、唇は曼殊沙華のように真っ赤だ。白い肌によく映える。
サルバドール・ピサロと名乗った。
サルバドールの後ろには、二人の南蛮人が控えている。
フランコ兄弟だ。
大鎌を持ったほうがルイス、巨漢のほうがフェルナンドだと紹介された。
フェルナンドは、顔に草鞋の跡が付いている。泣きべそ状態で、何度も鼻を啜り上げていた。
ルイスの足許には、三好兵の首が転がっていた。
俊永は、ぎょっと青ざめた。
「そ、それはワシの侍では?」
「邪魔ヲシタノデ斬ッタ。兵ノ躾グライ、キチントシタホウガ良イ」
ルイスは冷たく言い放った。
「ヌシらは、ワシに喧嘩を売りに来たのか?」
俊永は声を荒らげた。
「申シワケゴザイマセン、三好様。私ノホウモ、部下ノ躾ガナッテオリマセンデ」
サルバドールが頭を下げた。
「信長様の御使者でなければ、今頃ヌシらの首も、ワシの足許に転がっておるわ。まあよい、それで、信長様からは?」
「信長様ハ、一日モ早ク、宝ヲ所望サレテオリマス」
「なるほど、ヌシらは目付け役か」
「ドウトデモ」
「人事は尽くしておる」
俊永は苛立たしく云った。
「見ろ、あの屋敷を残すのみじゃ」
赤旗が靡く屋敷を指さした。
「ソレハ楽シミデス。信長様モ、コノタビノ三好殿ノオ働キ、サゾオ慶ビニナルデショウ」
「当然、そなたらもワシの見事な働きっぷりを最大の称賛を以って、信長様にお伝えせよ」
「モチロンデゴザイマス。デスガ、屋敷ヲ落トシタトコロデ、大事ナ宝ガナケレバ、信長様モサゾ肩ヲ落トサレルデショウ」
「ワシに抜かりがあると申すか?」
「裏山カラ、ヒトリ入ラレタ。モウ少シデ殺セルトコロダッタノニ、オ前ノ兵隊ガ邪魔ヲシタ」
ルイスは吐き捨てるように云い、足許に転がっていた侍の首を踏みつけた。
「いまさら援軍など無駄であろう」、俊永はルイスを睨み付けながら云った、「しかも、ひとりであろうが」
「ソコモトノ国ノ忍ビト申スモノ。ナゼ忍ビナノデショウ? モシカシテ、宝ヲ運ビ出スツモリデハ? 裏山ノホウモ気ヲツケラレタホウガ良イ。デナケレバ、信長様ニ良キゴ報告ガデキマセヌ。私、三好様ノ無残ナ姿ヲ見タクハナイデスカラ」
サルバドールは不敵に笑った。
俊永は頬を引き攣らせ、慌てて陣幕に戻った。
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