尻断 ――――ケツダン――――

「ぎゃやああああぁぁぁぁぁ!?」


 俺は、座る予定だった椅子から飛び退き、身体を腰から、くの字に曲げて尻を浮かせながら床にうつ伏せる。


 ―――――――これは――――涙?


 頰を伝う、生暖かい感触に、俺は自分が情けなくなった。


 俺は母親を求め夜泣きを繰り返す赤子でも、コンビニのエロ本を横目で見て、取り過ぎるのも気恥ずかしくなる十代のガキでもない!

 社会人だ! 痛みに負けない大人なんだ!

 そんな俺が、痔の痛みに耐えきれず、泣きべそをかくなんて……。


 恥ずかしい、悔しい、俺は、情けない自分に打ちひしがれて、泣きじゃくる。


 俺の情けない姿が、場の空気を一変する。


 司会者はマイクを降ろすと、うつ伏せり、突き出た俺の尻を真顔で見つめる。


 フォーカスを当てていたキャメラマンも、切なさのあまり撮り続けるのが、辛くなったのかカメラのレンズを下げる。


 司会者は静かに俺の尻に語りかける。


「尻沢…………沢尻さん……」


 ベタな間違えするなよ。


 彼は続ける。


「これで解りましたか? 痔はね。ほって置くと、大変なことになるんですよ?」


 その言葉を聞き、俺の涙は決壊する。――――まるで母を求め、泣き続ける、赤子のように泣いた。


 司会者は続ける。


「手術。受けますね?」


 あまりの痛みで声を失いつつも俺は、歯を悔いしばり、心の奥底から叫ぶように答える。


「――――うげまふ(受けます)」


 声は老人のようにしゃがれ、顔から流れ出た、涙と鼻水とヨダレ。

 この愛しさと、切なさと、心苦しさで床を汚す。


 司会者は、その言葉を噛みしめるように、静かに目を閉じ小刻みに首を立てに振る。


「解りました……やっと、手術を受ける気になってくれましたね……あなたに悪いと思いましたが、強情なあなたは、ここまでしないと手術を受けないので、荒行事をさせていただきました」


 厳しい面持ちから紅一点、司会者改め、肛門科の医師は仏のような笑顔を作り言う。


「大丈夫。私達、六本木肛門医院が、必ず完治させます」


 そう言うと医師は手を叩く。

 すると、スポットライトで見えずらかった、観客のシルエット達がうごめき、次々とステージに上がる。


 ステージに上がったシルエット達は、舞台照明に当たり、その全貌が映し出された。

 逆光に照らされて輝いているのではない。

 ’’彼女達’’は自らの美しさで輝いている。


 ナース服に身を包む女神のごとく看護師たちは、常人離れした容姿を持っていた。

 長く伸びた、鴨足のような美脚。

 砂時計のように、くびれた腰。

 水面に浮いたメロンのような、豊満なバスト。

 皆、ハリウッドセレブのような顔の作りで、日本人離れしている。


 さすが、六本木。

 女性看護師すらもレベルが桁外れだ。


 肛門医が再び手を叩く。

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