あなたは、ベスト・痔ーニストに選ばれました!

にのい・しち

今年の受賞者は?

「おめでとうごいざます! あなたは、”ベスト・痔ーニスト”に選ばれました!」


 目を痛めかねない、まばゆい黄色のタキシードに身を包んだ、坂〇忍に似ている、陽気な司会者は、俺に手を添え、カメラの前に紹介する。


 スポットライトの熱に当てられた俺は、上下グレーのスエットに身を包み、このようなきらびやかなステージに、出てよいのか戸惑う。


 ライトの強烈な光で、見づらいが、フォーカスを向ける、キャメラマンの向こうに、大勢の観客のシルエットが見える。


 司会者が、俺の尻に、そっと手を添えると、俺は全身が敏感に反応して、一瞬、痙攣するように震え、小動物の鳴き声ように短く発する。


「はぅ!?」


 司会者は、蝶ネクタイを捲いた、マイクを持ち、嬉しそうに進行を続ける。


「おめでとうございます。東京都在住の沢尻さん。あなたは、今年、最も素晴らしい痔を患った、”ベスト・痔ーニスト”に選ばれました――――今のお気持ちは?」


 そう言うと、彼は、その場でしゃがみ、俺の背中、腰より下へ、マイクを近付ける。

 俺は指摘する。


「あの……そこ、口じゃないです……」


 司会者は頭に、空いてる方の手を乗せて、笑いながら、ちゃらける。


「ははは! これは失礼しましたぁ~。割れ目があったので、てっきり、お口かと」


 そんなわけないだろ? どこの世界に、口と尻の割れ目を、間違える奴がいるんだ?


「ちなみに、沢尻さん。ご存じですか? お口の中の細菌と、お尻の中の細菌の数は、ほぼ同じなんですよ?」


 口と尻、間違えるかもなぁ……。


 俺は首を振る。


 まずい――――危うく、この司会者の、巧みな話術に引っかかるところだった。


 司会者は、ふざけたマイクを、今度こそ、俺の口元へ寄せる。


「今、あなたの病状はステージ4! ナイスなイボ痔です!」


 ステージ4? 痔にステージとかあるのか? しかも、ナイスなイボ痔って言われても、嬉しくないし……。


「沢尻さん。今のお気持ちは?」


 俺は率直な気持ちを伝える。


「……辛いです」


 司会者は無神経に返す。


「あははは! そうでしょ、そうでしょ! ――――では、このお気持ちを、誰に伝えたいですか?」


「誰にも知られたくありません」


「ははは! 解るなぁ~」


 解るなら聞くな!


 俺の後ろで、スタッフが世話しなく、二つの椅子を運び、席の位置を決めることに、戸惑っている。

 今の俺の病状からすると、背後の物音や、微々たる風圧すら、肛門に伝わり、痛みとして変換される。


 二席の位置が、決まるのを確認すると、司会者は再び、俺の尻に手を添える。

 まるで、割れやすい卵を、優しく包み込むように、触れた。


 今の俺には、その心遣いが、心に染みる。

 司会者は促す。


「では、沢尻さん。どうぞ、お座り下さい」


 俺は椅子に近付くと、着席することに、プレッシャーを感じる。


 俺は椅子のひじかけに、両手を付き、ゆっくり、ゆっくりと腰を下ろしていく……。


 この瞬間は、とても長い時間に感じられた。

 まるで、一秒と一秒の狭間を、彷徨っているかのような、俺の時間だけが、ここではスローモーションに感じられた――――。


「もう、YOU、座っちゃいなよ」


 司会者が俺の肩を掴み、重力よりも重くのしかかる。


 


 ――――――――――――ドン!!

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