第28話 魔法書庫
ゴン・ロークス(以下、ロークス)に連れられ、ラスベルたちは古い建物へ案内された。
そこはかつて大きな建物で重要ななにかを保存するために存在していたのだと分かるような構造をしていた。字はかすれているが魔法文字で書かれた壁や精霊たちから力を借りたマナの跡などが見て取れた。
何の建物だったのか時の流れによって変わった町ではラスベルの知識からは何一つ出てこない。
「ここは、かつて魔法書庫だよ」
ロークスは建物へ指しながらそう言った。
魔法書庫…魔法に関する書類や本、巻物などを補完するための建造物。許可があるものでしか立ち入ることができないとされ、許可がないものはまず入れないとされる。
そんな建物が他の建物と比べるとずっしりと立ち構えるかのように黒く立ち続けているのは異様で尊敬できる建物だった。
ラスベルはその建物に手を触れながら、建物の隅まで指をなぞっていく。
何をしているのか具体的にはわからない。けれど、ミリアからしたら、長さを図っているのか魔法としてどれだけのマナがあったのか、なにか気になる箇所があったのか調べているのかもしれないとそう思っていた。
「…入ろう」
「え、ええ」
ラスベルが隅まで移動する前に扉らしきものに手を触れながら、そういった。
先ほどまでの動作は何だったのか、わからないままラスベルに言われるまま、中へ入ることにした。
ラスベルを先頭にロークス、ミリアの順で移動する。
中は意外と暗く、視界は限界があった。
「ライト」
ミリアは呪文を唱えた。周辺が蛍のような小さく真っ白い光が照らし出された。ふわふわと浮かびながら無造作に動くその蛍に対して、ラスベルはその光を見つめたのち、薄笑いを浮かべた。
その意味がどういうことなのかよくわからないまま、ラスベルは何も言わず前に突き進んでいく。まるで、この先に何があるのかあらかじめわかっているかのような迷いがない歩き方だった。
「おいらのは目の毒だな」
ロークスは目を腕で隠すかのような動作をし、そういった。
怪物でも光は苦手なんだね。
怪物…いや、ロークスさんは…。
「ごめん、消そうか?」
「いや、ミリアは見えないのだろう。なら、そのままでいい。けど、おいらの前には近づかないでおくれよ」
ロークスはそう言い、ミリアにお願いをした。
うんと頷き、ミリアは笑った。
怪物は怖いと印象はあったが、ロークスさんは意外と怖くはなかった。
最初は怖いと思ってけど、こうやって話してみると意外にも親しい感じがして恐怖は消えてしまったようだ。
「…ついたぞ!」
ラスベルが立ち止っている。
ラスベルの傍らからひょっこりと顔をのぞかせ、ラスベルが見る光景を見渡し驚いた。
そこは、今まで暗かった闇でさえも打ち消すほど青くらせん状や線を何本も網のように練ったような模様が描かれ、そこから光を発しているのだ。
そんな光を見たミリアは思わず。
「…きれい」
と感想をこぼした。
「…そうだな」
ラスベルもつられる感じでそうこぼした。
「英雄がそう言うなら、ここはきれいなんだな…」
ロークスはそういった。きれいといった印象がよくわからないようだ。
種族によって感じ方や見た方は変わる。
ロークスの種族はよくわからない。
ロークスが『きれい』と表したのなら、ここは本当にきれいなのだろう。
うっとりと見つめていたとき、ラスベルが不意に横からそっといった。
「調べものをしてくる」
そう言って勝手に一人で奥へ進んでいく。
この先は階段が続いており、地下深く潜る感じになっていた。
「待って!」
ミリアはそう叫び、ラスベルの後を追う。つられて、ロークスも後を追っていく。
――この先、ラスベルやミリアは知らなかった。
この世界について、ある人物によって、変えられてしまったものがあるのだということを…。
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