第26話 遺跡の怪物
塔の砦を潜り抜けたラスベルとミリアは、2人で危険ともいわれる底谷へ進んでいた。
多くの冒険者が挑み、破れ、死に、帰るものと様々。
けど、この危険な魔物が潜むこの地で、遺産を持ち出しに成功した人は少ないという。何よりも、ラスベルがいた時代の産物は確かにあったが、ラスベルの古代魔法が示した本や当時の記憶を載せた本はいまだに得られていない。
友――カティアが残してくれた本には、古代魔法がいくつか書き示していた。ご丁寧に、初めて見る人でもわかるかのように魔法の作り方、マナの消費量、効果範囲など。
現代人では、まだこの古代語を解読できるほどまで発達はされていないようである。しかも、カティアが残した本はかなり癖があり、古代語を理解していても、解読するのは並大抵ではできない代物かもしれない。
癖というか落書きに近い印象がある文字だった。
「この先に用事が…」
ミリアはそう尋ねていた。そうだとラスベルは答えると、肩を震えながら「ここは危険すぎます」と。
危険、そうだ。
「でも、この場所で私を犯人にした犯人とラスベルさんが探しているものがここにあるのですよね」
そうだと答えると、「なら、逃げません。本当は逃げたい一心だけど、上には…もう戻れませんし…」
頭上に遠くかすむ塔に目を向けながら、胸に拳を置きグッと力を入れていた。
悪いことをしたなと内心思った。
けど、ミリアが犯人じゃないというのにも証言が厳しいし、それに上に戻れば、本を焼いたであろう犯人と出くわす可能性もある。
本を燃やされるのも、ミリアを犯人扱いされるのも胸糞悪い。
「俺なりに、ミリアを守る。絶対に、俺から離れるなよ!」
頭を掻きむしりながらそう言った。
ミリアは強く「はい」とだけ答えた。
谷底――かつては街があった。
正確には市街地だった場所だ。
ラスベルがいた時代には、この市街地は平和そのものだった。
戦争から数十年経過したとはいえ、発展と進化を遂げ、異国にでも驚かされる毎日だったそうだ。
この街はその後、どうなったのかは記述がない。
それに、ラスベルが実験の段階では、すでにこの街は都市計画が発表されていたという。
都市計画は多分だが、この頭上にそびえたつ塔のことではなかったのだろう。
その証拠が出たのは少ししてからかつて図書館だったであろう、地下から発見された。
かつては図書館や食糧庫など、魔術や食料に関する事情は現在よりも厳しく、地下に保存することが義務付けられていた。
この時代のような本を守るためのカバーとなる魔術は既に存在していたが、術者が死んだり、本に込められたマナの暴走で本自体を失ってしまうことが多々あった。
そこで、政府はいつでも管理でき、術者が死んだときの対処方法として地下に保存し、時間の経過で本が虫に食われたりシケにやられたり、大気中のマナの量で応じていたマナの暴走をなくすことは限りなく抑えることができた。
けど、それでも管理は難しく。図書館の管理は食料の管理よりも厳しく、年中無休の人が配属されていては辞めるのを繰り返す施設だったが、今では、術者が死んでも魔法による防衛術のカバーは継続され、マナの暴走も大気中にあるマナの量が減ったことによりなくなった。
過去の人ではできなかったことが、現在の人たちの手によって発展しているのは心温まるが、なぜ〔古代本〕を燃やす輩が出たのかが一番怒りを覚えた。
〔古代本〕だって現在の本と対して変わらないはずだ。
それを燃やすなんておかしなことだ。
それに、現在のように防衛術でカバーする効果も既に切れている本だ。魔法による対抗もない。犯人は面白がっているのか? ふざけるなっという話だ。
現在人の考えることは素晴らしいと思ったが、過去と比べても大して発展していないのは嘆かわしい。人間の心は過去と変わらないのだろう。
「なにか…来ます…」
不意に立ち止り、ラスベルの裾を引っ張った。ミリアはこの先に何か異常なものが近づいてくる敬拝にラスベルよりも敏感に動いた。
「ああわかるぜ」
ラスベルの口調が変わる。
それはおそらく、ラスベルがいた時代からいる――太古の生物が、この地で暮らしいると。
姿を現したのは体長2メートルほど。
全身けむじゃくらだが、異様なほどの長い爪と鋭くにらみつける赤い眼球。
光もあまり入らないこの場所ではさぞ恐ろしく映っていたのだろう。怯えるミリアに対して、ラスベルは満身創痍だった。
ラスベルにとっはなじみの生物だ。それも、こんなやつに出くわすなんてなんという幸運なのだろう、内心ラスベルは嬉しすぎて笑いが止まらないほどだった。
「…だ、大丈夫?」
ミリアが心配するのも無理はない。
震えながら笑っているラスベルにミリアは動揺したのだ。
けれど、ラスベルはただ一言「すぐに終わるから」と、ミリアにそう告げ、一人怪物に立ち向かっていった。
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