第25話 エルフの少女ミリア
下準備を終え、いざ出発しようとしたとき、宿屋の出入口付近で、エルフ族と思われる少女に出会った。金色の髪に首筋までのショートヘア。耳は長く、夏の葉の色を模したと思われる衣服の色をしていた。両腕にはビーズがいくつか重なり合い、リング状に2,3回ほど回すように括り付けられていた。
「かくまってください!」
エルフの少女がそういうなり、宿屋に引きずり込み、少女をかくまった。
宿屋の外でドヤドヤと足音と声がした。
どうやら必死でこの少女を探している様子だ。
少し時間を置き、外の気配が無くなったのを見計らい、少女を連れてラスベルは外へ飛び出した。追っ手がいないことを信じ、小道に進み、人の中に紛れ込む。
歩きながら、下の階層へ降りられそうな場所を探しながら、少女と一緒に同行した。
「…あの」
「どうした?」
「先ほどは助けていただき、ありがとうございます。わたしの名はミリート・セルシウ・アーリと言います」
お礼を言い、自身の名を明かした。
聞いたことがない名前だった。
ラスベルがいた時代には他種族と仲良くなる機会などなく常に争う火種としてそれぞれ生きるための独立国家としていた。
噂やいろいろ聞いていたが、ラスベルにとっては研究だけで他種族の争いなど特に興味はなかったこともあり、現代において様々な種族とみてきたが、これと言って気にするほどまでの価値観はないと悟っていた。
「長いね」
名前が長いことを指摘した。
「そうですか…」
少し考える素振りを見せ、「みなさんは…ミリアと申してくれますので、ミリアと言ってください」と。
内心失礼だと思っていた。けど、正直に答えただけだと胸を張ることにした。
「…俺の名はラスベルだ。気軽にラスベルと呼び捨てにして構わないから」
「そう…なのですか、ラスベル…さん」
「ラスベルでいい」
ミリアは戸惑いながら、「ら、ラス…ベル」と口にした。
ラスベルはグッドと親指を立て、微笑んだ。
ミリアはなぜ追われているのか、事情を訊いた。
ミリアは昨日、この街に来たばかりだ。
初めての街、お連れも誰一人連れてこずに一人で来た。だけど、この街について早々、図書館に火をつけた犯人だと決めつけられてしまった。
「誰がそんなことを!?」
ミリアは違うと訴えた。けれど、燃えた後からエルフの仕業であるとされる貴族の証が出てきた。エルフ族を例えた葉っぱのような人の画と弓・杖をX(エックス)に交らせる紋章。エルフの中では王族・平民以下の族はこういう紋章を常に持つことを定められていた。
けれど、ミリアはこの日、その紋章を持つことなく、この街に訪れた。紋章がないこともあり、放火したのはミリアだと現場にいた刑事たちはそうでっち上げた。
違うと訴えた、けど、誰も信じようとはしなかった。
小柄なエルフがひとりだけこの街にいる。
こんな寂れた塔(ビル)が立つ街で、連れも親もおらずに一人で。それに、エルフやドワーフなど、長命寿は見た目から年齢を当てるのは難しいこともあった。
それだけではない、そこに集まっていた民間人のなかの小柄な少年が手を上げ、ミリアに指を指し、この人がやっていたところを目撃したとまで言い放ったのだ。
刑事はミリアを捉えようと、追っ手を指し向き、ミリアを捕まえようとした。ミリアは機転を発揮し、近くにいた旅人から煙玉を拝借し、逃れ――今に至るのだという。
その放火された図書館は、昨日にラスベルが本を貸し出してくれた本屋であることも知った。
「――まさか!?」
驚愕した。緊張が走る。
燃やされた? 古代本を飾った本を燃やす…。
ラスベルには考えられない事だった。
この本を読み終えた後は、他にもなにか情報があるかもしれないと隅に置いておいた本もいくつかあった。だけど、それが燃やされたのだというと、ラスベルがいま鞄に持っている本も燃やされる対象である可能性も高いと浮上する。
「ミリア、君は放火していないんだな」
「私は絶対していない! 絶対に…うぅぅ」
涙声になりながらそう訴えていた。偽りはない。現に発動していた嘘発見魔法も反応しないことから、ミリアが言っていることは事実だ。
ミリアを放火犯にし、本を燃やす行為をする犯人はいったい…。
そう考えつつ、このままではどのみちミリアを放置していたり、知り合いに託しても迷惑をかけてしまう。
「ミリア、一緒についてくるか?」
頷く。
「なら、この先危険な場所だ。もし、ついてくるのだったら、犯人も本も見つけ出してやる!」
ミリアは何度もうなずいた。
本もミリアも傷つけるなんて、ラスベルは内心怒りがこみ上げていた。
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