第24話 動き出す過去からの歯車

 遺跡は谷底から行けれると聞いたが、どこから行けれるのかは詳しい情報は得られなかった。


 お店の主人に訊くも、街の底にそんな都市伝説のようなものが存在しているとは思えないと胡散臭そうに言い放つだけで、詳しい情報は何一つ取れなかった。


 お金を使い果たした結果、回復薬を7瓶ほど、食料は3日分ほど買えた。とはいえ、どれくらいの時間が必要になるのか不明なので、これだけでは心細い。


 魔法本を収集したのはわずかだけ、もし危険な魔物が大量に出てくると考えれば、まずは魔法本をできるだけ、この街で集めた方がいい。


 ラスベルはさっそく街を歩き(箒のレンタル料金が払えないため徒歩で)出した。

 階層ごとにお店や品物の価格が変わっている。

 上に行くほど品物は高く、また人相も違っている。


 いかにお金を持っていそうな人たちが多くいたことが印象だった。


 下の階層に行くほどお金を持っていないほど見ずぼらしい人たちがいるのを見かける。どこの時代、どの国でも必ず見かける貧富階級は現代においても、解決はされていないようだ。


 魔法本を求めて2時間ほど歩いたころ、小さな図書館がビルとビルの間に挟まるかのようにすっぽりとはまっている。

 図書館というよりも、ただ本を並べただけの展示品だった。


 ガラスケースに収められた本はいくつかあるが、ラスベルが探しているような魔法本は見当たらない。ただ、収められている本はどれも古代語で書かれていた。


 店主と思われる小柄な男性に尋ねた。


「ここにある本? ああ、谷底に眠る遺跡で発見したというのだが、これが古代語で読めないのさ、解読できる学者はいまだに少なくてな、使い道がないので、ただこうやって、ガラスケースに収めるだけの見世物になってしまっている」


 店主はため息をつきながら、ガラスケースに人差し指を向けていた。

 ガラスケースに収められた本は店頭前だけではなく、天井にもあり、数はそれほどないにせよ、ラスベルにとっては懐かしい本がいくつかあった。


 料理レシピ、魔法レシピ、武器の作り方、熱帯魚の育て方、魔導士の心得、マナはどうやって作られているのか?、箒の乗り方 など様々…。


 魔法レシピは古代語でほぼ埋め尽くしほど映写が1枚もない本である。あの本は、かつてカティアが最初に著作した本であった。


 試しに読んでみたが、つまらないと一般人からは捨てられるほどのゴミ扱いだったが、ラスベルからしてみれば友が精神全霊込めた本を書き上げたのだと誇らしげに思えた本だ。


 中身は解読さえできれば、れっきとした古代魔法を扱えることができる本だ。けれど、現代の魔法や魔力、知識では扱うことはできないだろう。


 店主はガラスケースの一角を見つめているラスベルに気が付く。


「あれ、見たいのか?」


「まあ、できればね」


 ため息をつき、店主は慣れない手つきで、ガラスケースを長い棒のようなもので、ふたを開け、本を取り出す。


「ほらよ」


 本は確かに、著者はカティアそのものだった。

 中身を開くと、確かにカティアの字で書かれ、中身はぎっしりと古代文字で覆いつくされていた。


「読めないだろう?」


「これ、貸してくれませんか」


「まあ、いいよ。どうせ、解読できる人はおらんし、必要だというほどのお客もいないからな」


 店主はその本をこの街にいる間という期限で貸し出してくれた。

 ラスベルはそこに友人のカティアガイルかのように大事そうに抱え、暖かい表情で宿屋に戻っていった。


 ++


 宿屋はロードが前払いであと3日ほどは泊まれる。野宿する必要がないのは幸いだ。

 自室に入る際にアリスに出会った。


「嬉しそうだね」


「ああ、友の名残だ」


 本を大事そうに抱えるラスベルを見たアリスは『友の思い出を見つけたのか』と納得した。


「アリス、どうしたのその目の色は…」


 アリスの目の下にはすっかりと薄っすらと黒くなっていた。

 最近、魔法の勉強ばかりで寝不足なのと言いづらく、アリスはただ「なんでもない」と答えるだけだった。


「それじゃ、お休み」

「ああ、おやすみなさい」


 ラスベルとすれ違うかのように自室に戻るアリス。

 ラスベルは友の本を手に入れたことに喜ぶ一方で、アリスのことがやや気になった。


 部屋に戻るなり、ラスベルは本を開いた。

 友が残した本。


 中身はスカスカなところがある物の、友…カティア本人の字で書かれたものだった。懐かしいこととこの本についての内容を読むことに、この日は眠ることはできなかった。



 ―――


 夜分、小さな図書館に尋ねた小柄な少年がいた。名はヘルシと店主に言っていた。

 図書館の中にガラスケースに納められた本はいくつかある。そのうち空になったケースが1つだけあるのが気になった。


「あれ? あそこにあった本はどこに行ったの?」


 ああ、店主はいきさつを話した。


「へー、その貸し出した人の名前、教えてほしいな」


 店主は断った。貸し出した人の名を教えるなんて、そんな失礼なことはできなかった。


「そうか、ならいいや」


 小柄な少年はそう言い、図書館から出ていく。


「なら、燃えてね」


 小柄な少年がそういうなり、図書館は突然火を噴いた。それは、本から突然、ドラゴンのように口から火を吐くかのように本から吐き出されたのだ。

 ガラスケースに閉じ込められた本が燃えていくのを店主は何とか火を消そうと試みるも、棒で開けようとするも一向に開けることができない。


 その様子を見た、小柄な少年は「うろたえなくていいよ、どうせ、消えちゃうんだし」と、少年はなにか小声でつぶやく。


 すると突然、店主の鼻や耳、口から火が噴き出した。

 店主は穴となる穴を埋めようとするが、火が止まらず、そのまま焼けていくのをただ、小柄な少年は高笑いするだけで止めようともしなかった。


 小さい図書館が燃え尽き、店主も黒焦げになるのを見るも否や、すぐに立ち去っていく。

 無線のようなものを使って、誰かに報告した。


「任務完了しましたが、本一冊行方不明。この後、任務を続行し、本の行方を追う上に、その貸出人も抹消します 以上、ヘルス」


 小柄な少年ヘルスは無線を雲がかすむ地表へと放り投げ入れ、姿を消した。


 後日、火災となり、遺体として店主が発見されたことと、何者かによって本を燃やされたことにより、何者かの恨みによる犯行として警察とギルドが手を結び、捜索することとなった。

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