第22話 箒や絨毯は資格がいるのですか?

 無人タクシーに乗り、子どものようにはしゃぐリンとアリス。発展した町を見下ろしながら感動するラスベルを黙って微笑むロードは、拳を頬に当てていた。


 窓の外は大きな窓のような穴がいくつかあり、各地の穴からはお店や家が一つずつあった。そこに放棄に跨った人や絨毯で移動する数人の人たちが行きかい、穴に向かって移動する光景がしばしば見受けられた。


 穴というよりもビルの窓をなくしたかのような形状に似ている。窓自体はなく、箒の人たちが入るたびに膜上のものが揺れることから、障壁のようなものをはっているのだろう。


 大きな鉄橋をいくつか超える。


「この鉄橋はなんなの?」


 アリスがふと質問した。


「ああ、箒や絨毯は資格がいるからね、資格がない人はあの鉄橋を渡って移動するんだ。まあ、箒があれば早く行けるんだけどね」


 ふーんとアリスは納得する。


「資格って言ったけど、箒や絨毯に乗るにも資格はいるの?」


 リンが手を上げてロードに尋ねた。ロードは丁重に問うた。


 ――資格は、ギルドが仕切っており、毎月の試験で合格すると箒に跨ぐ許可がおりる。箒は魔力を供給している装置があり、魔力が底をつかない限りは浮き続ける。


 魔力は本人から供給することもできるが操作が難しく、慣れない間はギルドから無料で配布される箒に乗って練習するという。


 魔力を供給する装置も高いため、あまり数はない。

 けれど、それでも箒に乗っていろんな場所に行きたいという人は後を絶たないという。


 と、いっても箒で乗れる許可はこの都市だけで、外に行くとまた違った資格が必要になるのだから、ここで資格を得る必要もない。それに、毎月更新しないと自動で破棄されてしまうから、長くこの都市で暮らさない人にはお勧めできない代物だ。


 絨毯は多人数乗れる特徴を持っているが、箒と比べると操作がかなり難しい。例えると、箒は自転車もしくはバイクのようなもの。


 絨毯は車、トラック、バイクのようなものだ。


 運転免許取るにしても人によっては安易、難しいといろいろとある。

 何よりも、絨毯は多くの命を預かるうえ、魔力の供給は送致だけでは補えないので、乗客する人たちの魔力を少しずつもらい移動することとなる。


 魔力は人によって違うから。多く流す人もいれば少なく流す人もいる。全く流さない人もいるからバランスが難しい。運転手だけが流していると数分も満たなず、地の底へ落ちて行ってしまうという問題が数年前から起きているのだという。


 それもあってか、絨毯に関する資格の難易度がかなり上がり、今ではよっぽどの人でないと乗る人はいないという。


 箒よりも絨毯の事故率は高いからだ。


 さて、資格は筆記試験と運転、魔力の供給量などを図られ、その中でも優秀者だけが資格を得られるという。年齢は関係なく、受けることはできる。


「――以上だ」


 ロードは話し終えると大変興味を持ったのか、リンはうるうると目をうかばせ、興味津々だった。もちろん、ラスベルも同意見だった。


「あ…でも、リンとラスベルは難しいかも」


 同時に「どうして」と回答が来るが、ロードは「有名人だから」とだけ答えた。


 リンとラスベルは互いの状況と過去の出来事を思い浮かべた。リンの魔女。ラスベルの古代魔法と古代人であること。


 それを踏まえると納得するが、「行きたい行きたい」という反応が返ってくる。これに関してロードは困り果てる。


 もちろん、これだけが理由ではないのだが、ロードなりにはっきりとした答えが見つからず、文句を言うラスベルたちをとりあえず黙ることしかできなかった。


 アリスは特に受けたい気持ちもなく、ロードの困り果てた様子をどうやってフォローするのか迷うばかりだった。


 少しして、最後の鉄橋を通り過ぎると大きな建物が前に現れた。何本も筋が入った線が霧の下から空の上まで続いており、線は途切れることなく、デコボコした壁や角をつなげるかのように伸びていた。


 無人タクシーはその建物に入ると、止まった。

 ロードが先に降り、ラスベルたちが下りるのを待った。


 周りは暗く、あたりが見えない。

 ここはどこなのか聞くと、ロードは単純に「空港だよ」と答えた。


 まず、ロードたちは無法者であり旅人だ。旅人はまず無人タクシーに乗り、空港に訪れて自分たちのパスポートを作る(ロードはこの町の勤務地でもあるため、パスポートは取得済み)。そのあと、ここの受付にいい、滞在期間を登録して、後は各自の自由となる。


 真っ暗闇の状態はあくまでパスポートを持たない人だけ。パスポートを持てば、周りも見えるようになる。これは、テロ対策のために魔法国家が援助してくれた装置で稼働している。


 真っ暗闇だけでなく魔法も使用不可にする効果もあり、暗闇とはいえ武器や敵意を発したものは素早く捕獲するという。


 ラスベルたちは観光気分だったため、特にパスポートをもらうまでは何も言われなかった。もちろん、途中で掲示板を発見し、そこにもラスベルやリンによる依頼に関するクエストは処分されていた。


「さて、パスポートも手に入れたし各自、自由にしましょうか」


 ロードが提案した。でも、一人だと寂しい。

 アリスは手を上げ、断ろうとしたところ、ラスベルとリンは先に手を上げ、「賛成」といった。アリスは慌てて手を上げてしまい、断るタイミングを逃してしまった。


 お金はロードが立て替えてくれるようで、少しだけ銀行から分けてもらい、そのあと軽く食事をして、自由行動となった。


 目的は、各自異なり、それぞれの物語が再び動き出す。


**おまけ**


 アリスは手に入れた資格もあり、お金となる仕事をギルドから依頼を受けることにした。そこにアリスと同じ魔導士と出会い、共に依頼を達成する方向へ進む。


 ラスベルはギルドから古代遺跡が発掘されたことが気になり、さらに公開された写真からはどこかで見たことがある町並みを見かけた。

 ラスベルは単独で、限られた人間だけが参加できる古代遺跡の探検に向けて出発した。


 リンは図書館へ引きこもった。

 ラスベルの代わりもあるが、魔女として、呪本に関する記述をあさる。

 ある本をきっかけで、リンは事件に巻き込まれてしまう。


 ロードはかつての友がいるギルドに向かっていた。

 そこには〔孤独の騎士ロード〕と呼ばれる前に一緒に活躍した仲間たちがいた。ギルドの奥にある酒場でいっぱいの夜を明かす。

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