第21話 新たな国‐魔法の都市

 アリスの資格を得てから数週間経過した頃、財産が尽き始めていた。

 もともと、アリスもラスベルもリンも大したお金は所持しておらず、旅の行く先でギルドの一般でも受けられるクエストを受理して稼いでいたに過ぎなかったためか、次の町にいくにもわずかなお金だけで移動していた。


 財産も足りなくなり、行く先の町にクエストがないか探すがタイミングが悪かったのか、クエストは一件もなく、その日のうちに別の町に移ってしまうため、なかなかクエストを受けることができなかった。


 魔女の討伐の件もあって、早々移動しないと面倒なことに巻き込まれる。そう思っての坑道だった。


 会場で討伐隊に教われたリンのことを考えると、一人にしておくのはまずいと思ったからだ。冒険者によれば、依頼自体は破棄すると言っていたが、完全に破棄されるまでは時間かかるようだ。


 訪れる町や村で時々、リンの討伐依頼が張り出されているのをよく見かける。懸賞金は貴族が暮らしていけるような立派な家を2軒ほど買えるほどの額が表示してあった。


 けれど、ランクは高いようでなかなか人が来ず、手配書は雨や風に打たれ徐々に貧弱になっているのをよく見かけた。


 依頼書をかっさらうという方法もあったが、アリスやロードによって止められたこともあって、諸事理由ではがすわけにもいかないようだ。


 依頼書は一度でも掲示板からはがしたり、人から受け取るようなことをした場合は、依頼を引き受けるという魔法が働き、依頼書が腕輪となって依頼を受けた人が依頼を達成するまでは外せない仕様となるらしく、俺らのような一般(アリスとロードは資格持ち)では無理にはがすのは好まないという。


 リンの討伐依頼を見かける度にその街から早々たち、それを繰り返しているうちに財布が空っぽになってしまった。


 次の町で締めということまで来ており、次の町でもし見合う資金を手に入れなかった場合は、最悪…。



 丘を越えたところ、リンが指を指し、はしゃぎながら子どものような無邪気さを見せつけた。


「見てー、大きな町だよ」


 ひぃひぃというアリスの腕を引っ張るラスベルの隣でリンの次に到着したロードが懐かしそうにこういった。


「天昇都市アレシスタ。我が故郷のギルドが滞在する魔法国家に近いとされる近代化された街です」


 大きな暖かい風に吹かれながら、ロードはまっすぐその都市の高ぶりを見つめていた。リンもはしゃぎながら大きく風を受け、その都市の風を大いに感じていた。


「うわぁ、すごーい!」


 ようやく追いついたアリスが放ったのはそれは見事までのすごいという一言しか出てこないほどの爽快だった。


 白衣がハタハタと風に揺れ、暖かい風はラスベルとアリスにも歓迎しているようだった。


 この町について、丘から降りて進もうとしたところ、ロードの止められた。

 ロード曰く、この町は深い谷であり、下にはどこまでも続くのかさえ分からないほどの濃い白い霧に包まれ、また天高くそびえたつ建物の最上階は濃い白い雲によって覆われ、幾人でさえも立ち入ることさえできないほどの壁が覆っているという。


 空高い場所まで目を合わせる。確かに、雲に覆われ、建物の先端が見えない。また、建物の下も霧に覆われており、どうなっているのかさえもわからない。


「ここは、魔法で通行する国なのですよ。今から、行く場所は無人タクシーと呼ばれる。魔力だけで動かす人がいない乗り物に乗って、あの都市に向かうのですよ」


 ロードは指を指した方向にタクシーと呼ばれる球状の卵のような形態をした船が止まっていた。それも数台ほどその場で立ち止り、人も乗っていないのに常に宙を飛行している。


 この都市は人は魔力を持つ者と持たないものの両方が暮らす都市。魔法国家が近いこともあり、魔力の伝達および魔力を保存する装置など提供してくれている。


 都市はおよそ3万人のあらゆる種族が暮らしており、魔力で動く無人タクシーか箒(ほうき)、絨毯がなければ移動することさえ困難と言われるほどだ。


 無人タクシーは無料で移動ができるが、数は限りがあり、また移動できる施設も限られてくる。一方で、箒は個人用で、操作感に慣れればどこへでも行けれるようになる。


 ラスベルの時代にも箒という魔力を棒状に込め、浮かせるという技術はあったが、まだ自転車といわれる二輪のタイヤを軸に人の足で動かして活動するといったものが大半だった。


「ラスベル…あなた、泣いているの?」


 アリスが気にかけた。ラスベルの瞳からわずかに涙を浮かべていた。


「すまない、感動した」


 ラスベルは過去の人。未来がここまで発達しているとは思えないほどだ。何よりも、研究分野は違えど、ここまで発達させた技術者は英知高しだ。


 かつて友人のカティアと一緒に研究するかどうか迷ったものだ。それを他者が考え加え、ここまで発達させたのをラスベルはカティアと一緒に笑いあげたく思った。


 いまは、ここに感動の場として友人はいない。

 友人に敬を現し、深くラスベルは心に灯していた。


「目的地はまずギルドだな。なぁに、俺がいるから安心しな!」


 ロードはカッコつけるが、「そうだね」と軽くリンは流す。それを見ていたアリスがかすかに笑っていた。


 一行は無人タクシーに乗り込み、都市アレシスタのどこかにあるロードがかつて勤めていたギルドに向かって進むのであった。

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