第19話 もう魔女じゃない!
彼らと戦闘になってもう4時間は経過していた。
「カリュウド、魔女を常にマークしろ、背を向けず攻撃続けろ!」
「御意」
リーダー格が支持すると同時に、カリュウドという名の大盾をもった男が一気に近づく。接近で戦うのは勝ち目がないことはわかっている。
まず、厄介な相手である盾(カリュウド)ではなく、魔導士の女の子を狙って攻撃をする。だが、障壁が異常までも層が高いのか、傷一つつかない。
それだけではなく広範囲魔法のバクドームや疾風魔法のカマイタチ、音魔法のエコーノイズ、破壊魔法クラックドラップ、罠魔法ニードルクライム、召喚魔法のスライム召喚を繰り出したのに、傷一つついていない。
それよりも長時間の戦闘で魔力が底をつかないかどうか気になってくる。
「タチバ、カリュウドに常に支援および回復魔法を繰り返し」
「了解」
タチバ…あの魔導士の小娘の名前か。厄介な相手だ。カリュウドを的確に魔法で補助をかけ、タイミングを見計らって回復魔法をかけている。
しかもずれもなくスムーズな流れで魔力を注ぎ、あと10時間闘っても魔力は底をつきそうにもないほどの腕前だ。
「ミツバ、弓で援護しろ、カリュウドの隙を抑えつつ、魔女の動きを止めろ」
「イヤす(イエス・了解の意味)」
弓がリンの足元・腕を狙って正確に放ってくる。カリュウドが大技を使った後の隙があってもミツバが放つ矢で隙を隠されてしまう。厄介な敵だ。
なら、弓を先に始末しようにも、ジェンが邪魔をする。
ジェンはこの組のリーダーだ。
ジェンは的確に仲間に支持を送り、隙をついてはわたしに攻撃してくる。先ほどの広範囲攻撃はしてこないが、決して侮れないほど強い。
あと、一人待機しているヤヒコが気になる。
戦闘始まってからも一度も攻撃してこない。いや、固まったままだ。偽造、いや囮か? 油断はならない。強者を5人も同時に相手するなんて、これはあと数時間したら、ヤバいかもしれない。
リンは少しずつ覚悟をしてきた。
広範囲魔法で再び攻撃するか、否、ミツバが必ず阻止してくるだろう。なら、疾風魔法で…カリュウドが邪魔をする。なら、罠魔法で…ジェンが仕掛けてくる。
これはかなりやばい状況だ。
リンはあきらめかけていた。あとどれくらい持つのか、これに気づいてアリスかラスベルが駆け付けてくれるのか祈りする自分がいることに少し恥を感じる。
呪いによって魔女になっていたとはいえ、一人でできていても、これだけの数をどうにかできるはずもない。それに、仲間に頼るなど、愚かすぎる。
かつてのひとりで戦って生きていた私はどうしたのと、過去の自分に言われているかのような気がした。
+++
さらに4時間後、次第に疲れてきた。
リンはもう、足を動くのもその場に倒れてしまうほど疲労と魔力切れを起こしていた。魔力もあと数回が限度。魔力が切れ、気絶したときお陀仏だ。
「結構時間かけてくれたな、まあいい。これで俺らの依頼は達成だ。あの世で後悔し懺悔するんだな」
ジェンが剣を大きく上げ、振り下ろした。
ガキンと金属同士が重なり弾く音がした。ハッと顔を上げるとそこには2人の男の背中があった。
「待たせたな、リン。用事二時間かかりすぎちまった」
「子どもに5人で攻撃するとは、リンチだ。恥はないのか?」
ジェンは剣を鞘にしまいこむなり、駆けつけた剣士の男(ロード)に尋ねた。
「おまえは、たしか…孤独の騎士ロードだったか?」
「ああ、そうだ。だが、今は助太刀の剣士ロードだ!」
ロードはそういうなり、再び剣を構える姿勢をとる。
ジェンは鞘に戻した剣を再び抜き、今の状況を説明した。
ロードはラスベルに目を向ける。ラスベルは平然と顔をしてこう言った。
「それは昔の話だ。いまは、リンという娘に変わった。魔女はもういない。残念だったな、いまここにいるのは俺にとって大切な“仲間”だ!」
この言葉にああ…と何か太陽の光の背中がリンを照らしているのかのように感じた。
先ほどまで仲間など必要なく、一人で戦っていた自分にリンは、哀れだったのは昔でも今でもなかったことに気が付いた。
いまは、昔にないものがある。
リンは再び立ち上がり、ジェンとラスベルたちに向かっていった。
「そうだ。わたしたちは仲間だ。魔女はもういないのだ!」
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