第15話 失くしたもの(3)

 日もくれた。

 たき火をたきつつ、ロードの話を聞き終えた後、ラスベルは黙っていた。どうにするかもどうするのかも。復讐は復讐だ。


「俺は、決してサイズを許さない」


 鞘を強く握りカタカタと震わせている。


 サイズの復讐はロードの家族に向けられた。もし、このままサイズを野放しにしたら、他の仲間たちの家族にも被害が出るのかもしれない。


 ラスベルは煙草を一つ取り出し、火をつけようとたき火に当て、それを口のところにもっていった。


「俺は、間違っていたのだろうか…もし、俺が奴の家族をやらなかったら…こんなことにはなっていなかったのだろうか…」


 ロードは祈るかのように額から汗を出しつつ、鞘を震わせたままだ。ラスベルは一服した後、こういった。


「誰しも被害を出しているのであれば、誰かが止めるしかない。もし、ロードでなくても必ず被害は出ているのだろう。それに、1体のがしてしまったのも罪だろうな」


 ロードは「わかっている」と突然叫び、鞘から剣を抜くなり、「俺は、俺は、失った悲しみをどこにぶつけたらいいのかわからないんだ…それに、奴を倒しても妻たちは戻ってこない…」


 そこまでわかっているのなら、なぜサイズにぶつけるのか訊く。


「俺の怒りが止まらないんだ。それに…」


 突然冷静になる。


「サイズをこのままにしていたら、俺のような被害者が再び出てしまう。そうならないうちに俺は俺の怒りをサイズへ止めを刺す」


 と、ある意味叶ったりだが、サイズからしては理不尽なのかもしれない。けれど、一度でも牙を向けた以上は責任を負わせる必要もある。


「止め…できなかったときは俺がする。安心して、サイズに怒りをぶつけてこい」


と、ただそういうしかなかった。



 日が出るころには、ロードの家だったと思わしき家の前にいた。


 あれから日が出る前に、たき火を消し、ロードの家へと向かっていた。ロードはあれ以降一度も口を言わず、黙ったままだった。


 家についてからもなにか拍子を抜けた感じで嫌なものだった。


 家の玄関はこじ開けられており、中の物が無残に散乱したままだった。悪臭の臭いはまだ残っており、血肉のにおいも窓が開けられているのに、消えていなかった。


 白衣の袖で鼻を蔽い、臭いを止めるもそれは完全に止めることはできなかった。けれど、ロードは懐かしそうに吸う。


 ロードにとっては懐かしい場所だ。鼻をつまむという方法はしないのだろう。ロードは少し歩くと、「ここに娘がいたんだ」と、足を止めそういった。


 娘が倒れていたと思われしき場所は黒ずんた液体の塊が広がっていた。ここからさらなる悪臭がした。けれど、ロードはそれを大きく吸い、口からはいた。


 次に案内されたのは娘の部屋なのだという。

 まるで追ったときの通路をループしているようだ。ロードは、ひたすら、家族の死に場所を案内している光景だった。


 ラスベルは足を止め、「何を迷っている」と聞いた。ロードは足止め、「俺が聞きてえよ」と言い返した。思い出に伏せて、ここまでついてきたのに、思い出を通るだけとは少しながら苛立ちしていた。


 しかし、ロードが開けた扉の先に奴がいた。ロードの娘の四肢があった部屋に。奴は性懲りもなくまだここに潜み、娘の四肢を加えていたのだ。


 この光景にいち早く行動したのはロードだった。鞘から剣を抜き、思いっ切りサイズに飛びかかった。サイズは持っていた四肢をロードに投げ、窓から飛び出した。


 ロードは四肢を見るなり、涙声になりながら、四肢を無視し、サイズを追った。ラスベルも後を追うように追いかける。


 追いかけた先は庭だった。

 噴水も止まった水は濁り、流れるはずだった通路も血塗られた服などでせき止められていた。


「俺は許さない! 俺の苦しみを…家族の苦しみをお前の元へ返す!!」


 と、サイズに向かって突進した。サイズは爪を数メートル飛び出し、それを武器にロードの件と交じりあうかのように戦い始める。


 ロードの件ではサイズの体には通用しない。


 でも、隙を出さなければ下手に魔法を放てば、ロードに当たってしまう。2人の攻防が繰り返される中、ラスベルは躊躇していた。


 だが、本のことを思い出した。ロードから取引として渡された本を背中に括り付けていた紐を解き、本を広げた。しかし、この場所で使える魔法ではなかった。


 再び本を背中に戻し、ラスベルはサイズに向けて魔法を放つ準備をする。それに気づいてか、サイズが少しずつラスベルから距離をとるように後退し始めた。


 ロードは後退させまいと邪魔をするが、サイズの方が上手だったのかロードよりも早く移動する。ロードは離れさせまいとサイズの後を追うが、うまく追いつけない。


 そのとき、奇跡が起きた。

 サイズが一歩後ろへ下がった時、何かに気まずき仰向けに倒れたのだ。サイズが何が起きたのか呆気に取られている間に、サイズは一気に近づき、剣をサイズの喉へと貫いた。


 サイズは悲鳴を上げつつ、爪でロードの体を貫こうとするが、ロードの鎧に歯が立たず折れてしまう。サイズはもがきながら、ロードの鎧に引っかき傷を味わせながらもがく。


 ロードは大きく声を上げサイズの喉元へさらに貫かせると、サイズは一瞬手が止まり、ぱたりと地面に手が置いた。


 ロードからは額から汗が滝のように流れる。サイズの目から光が失っていくのを見届けた後、ロードはゆっくり剣を抜き、その場にあおむけでサイズの横に倒れた。


「お疲れさん。結局は1人で倒しちまったな」


 と、一服しながらラスベルはそういった。


「すまんな、付き合いさせちまってよ」


 ロードが目をつむり、何度も呼吸を繰り返す。


 ラスベルは後方へ目を配り、サイズが倒れた理由をあとで気絶から解放したロードにそっとつぶやいた。


「息子さんが助けてくれたよ、息子の剣でね」

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