第13話 失くしたもの
リンの修行をはじめ、2か月後のこと。
修行の成果を披露する日が来た。
アリスの目には自信に満ちた瞳の色があった。その一方で手足はこぎざみに震えていた。
「アリス大丈夫よ、あなたは耐えたわ」
リンがなだめる。あの辛い修行に耐え、リンから伝授した魔法を身体に叩きこませることで習得することができたのだ。
もちろん、習得したのは今でもあまり伝えられていない魔法に近い魔法なのだが、アリスの体では現代の一般的に幼児から取得されるといわれる魔法を取得できる魔法は得ることはできない。
本来の方法では決して習得できない、身体で覚える魔法でアリスに教えた。これはリンの一族から古く伝えられている魔法で、弟子を持って伝える形となる魔法である。
「だ…大丈夫…かな」
まだ心配そうに震えている。そこにラスベルはアリスの肩に手を置き、「大丈夫だよ。俺は見ていたぜ」とにんまりと笑って見せた。
アリスはなんだか少しほっとする。けど、対戦相手はミアだ。2人の協力もあっても、アリス自身でトラウマでもあり敵でもあるミアに勝てるのかどうか不安でいっぱいだった。
会場の中で受付をし、アリスは出席するために、控室に向かった。この先は、アリス個人の戦いになる。ラスベルたちは会場に戻り、会場の上の階にある個室のモニターからしずかに応援する。
モニターに映ったアリスは本をはさむシオリを武器に、震えている姿が何度も見受けられた。ラスベルたちからは応援の声以外は聞こえないため、ここからはアリス本人だけの力となる。
ラスベルたちはがんばれと心の中で応援をするだけしかできない。
「私…がんばるよ」
しおりをグッと握りしめ、試験会場となる木製の扉をくぐり、試験会場で待ち構えるミアの元へと向かった。
アリスが試験会場へ向かった後、ラスベルは立ち上がった。
隣の席にいたリンは、ラスベルに視線を向けるなり、「どうしたの?」といった。ラスベルは髪を掻きながら「用事」といい、「そう、早めにすましてね」と再びモニターの方へ元に戻した。
ラスベルは扉をくぐり、外に出るなり、この部屋に来る途中ですれ違った男のことが気になっていた。男は鉄製の鎧を着込み、兜は着用しておらず、代わりに金髪だけを見せていた。剣は鉄製だが、魔法文字が書かれており、属性か効果がある剣と見て取れた。
もう一つ気になったのは、男の腰に下げた鞄から本がかすかに見えていた。その本に何か見覚えがあった。それが分からず、個室まで移動していたが、モニターからアリスが試験会場へ向かった後に気が付いた。
男が持っていたものは本――すなわち、古代魔法が記された本だった。
紋章が表紙にあり、今では解読は難しいとされている文字でタイトルに記載されていた。ラスベルはリンに告げ、男を追った。
男がなぜ剣士でありながらも本をもち。なぜ、古代魔法である本をもっているのか気がかりだった。ラスベルは階段の手すりを統べるかのように降り、男に出会ったのは、会場から出てすぐだった。
男は疲れ切った顔でその目は開けているのかどうかさえもわからない状態だった。
けど、ラスベルはわかった。この男―――これから、誰かを殺す目をしていたのを。
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