第10話 魔女の伝説(5)

 魔女の記憶の中に、過去の出来事が思いうかんだ。

 やさしかった両親たちが少女に向かって手を振っていた。


 少女は必死に両親たちの手にしがみつこうとはだしで瓦礫だらけの上を駆け出す。とがった先で足は血だらけになりながらも必死で両親の手につかもうとするも、それを拒否するかのように両親たちは遠く遠くへと行ってしまう。


 少女は呼んだ。両親の名を。けれど、両親は笑いながら手を振るだけで、一度も少女の名を上げてはくれなかった。


 ある日、古臭い木箱の中に絵本を見つけた。何重にも刻まれた文字がなにか訴えているかのようにも見えた。少女は、お店の人がいないのを確認し、それを盗んだ。


 後ろの方でお店の人と思わしく人が叫んでいたが、それを無視してただ駆け出していた。


 建物の角まで曲がり、お店の人と出くわさないように物陰に隠れ、盗んだその本をかすかに漏れる光からそれを覗き込んだ。


 それは、母がまだ生きていたときに、よく耳聞かせしてくれた絵本の続編だった。その本には、いじわるの魔女がいて、魔女には娘がいたのだけど、魔女は娘を気に入らなかったようで、毎日しつけといい虐めていたそうだ。


 ある日、大人びた小汚い男が現れ、娘を魔女から守るかのように魔女から娘を奪い、助けたという物語だった。


 母が死んでから続編がでたという話は町の子供たちから聞いていたが、そんな買うお金もなく、毎日、耳聞かせしてくれた母もいない少女は、その本になにか思いを込めていた。


 涙が浮かぶ、ぐずぐずと息がしにくく鼻水が肌を濡らし、涙があふれてくる。少女は、無くなったものに悲しみを浮かべながらも、帰ってくることはないと分かっていた。


 けれども、また会えるような気もしてならなかった。


 本を開くと、そこは期待していた、願いをしていたものとは違った結末が描かれていた。


 娘は小汚い男に感謝するも、小汚い男は娘を魔女の娘だから価値があるのだと分かっており、売るつもりでいた。それを知った娘は小汚い男のもと売られるよりも親でありいつもしつけだと言ってくれた魔女の家に帰りたくなった。


 小汚い男から隙を見て、逃げ出し、魔女の家に帰るも、魔女はすでに串づけにされ、家は赤い炎に包まれていた。戻ってきた娘を見た、男や女たちは魔女の子供とみて、すぐに襲い掛かった。


 小汚い男が娘を探しに魔女の家に来たときにはそれは無残な姿に変わり果てた娘の姿があった。小汚い男は大きく大きく声にならないほど叫んでいた。


 小汚い男は、知っていたのだ。

 魔女は近々の村や国から命が狙われていたのだ、魔女とは昔、世話になったこともあった男は魔女を助けたくて魔女の家に行くが、すでに事情を知っていた魔女は娘を託し、自身がおとりになる代わりに娘を大切に守ってほしいと頼まれた。


 男は魔女も一緒に行こうと誘うが、魔女が逃げたのであれば、近々の国や村に悪影響が出ると、魔女は眠る娘に最後の願いを込め、男を家から追い出した。


 男は娘を守るつもりでいた。

 ある日、男の友人が尋ね、男の家に招かれ、こう話した。


「変わった娘(別名、妖精)を見つけた」という。それを少しのお金を借りたいので、売ってくれと言われたのだ。男は丁重に断った。


 たとえ妖精であっても人を買い売りするのは卑怯者がすることだと男は友人にそう言い放った。途中まで聞いていた娘は「自分が売られる」と思い込み、娘は男が友人を帰るのを見届ける瞬間に家の窓から脱走した。


 そして、ことの結末であった。


 この物語を見て、見るんじゃなかったと思った。


 物語の終わりと見せかけた作品で実は続編があったものというのは皮肉な話が多い。母は無くなるまで、続編があるのは知っていた。けれど、続編の内容が前作の内容とは覆すものだったので、あえて少女に聞かせることなく黙っていたのだ。


 少女は本を叩きつけ、わんわん泣きながら昔の家へと走っていった。


 戦闘中でありながらも一瞬、昔のことを思い浮かべていた。

 少女は、何度も抗うラスベルに強力な魔法を発動する準備を開始する。


 ラスベルは止まない突風の中、樹にしがみつくことしかできず、耐えていた。息を吸うのも一苦労で、アリスに早く箱を見つけてきてほしいと願うだけしかできなかった。

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