第5話 終わりと始まり(5)
少女は何が起きたのかわからないまま、男と一緒に歩いていた。少女は心臓が圧迫しているのを気づき、心臓音を抑えようと胸に手を置いた。
男は、「素質あるぜ、俺が見込んだとおりにな!」と、まだ笑っている。少女はどういうことなのか男に尋ねた。男は何者なのかを明かした。
男の名はラスベル。800年前の魔法研究者で世界で名が知られていた魔法学者でもあった。とんな爆発事件と友がいなくなったことで、お城に牢獄され、不老不死として石碑に生命の流れである時を封印され、苦しいまま生きてきた。
少女が砕いた赤い石碑のことをすぐに思い浮かべた。
ラスベルは封印したあの石を吸ったことで、今まで止まっていた時とマナを取り戻すことができた。それで不老不死の呪いも解除され、源に蘇えった。
あの時、スープのようにすすっていたのはそういうわけがあったのだと頭の中でまとまった。
酒場の出来事。あれも、ラスベルが知る古代魔法のひとつ。800年前に誕生した魔法なので、古代魔法と呼ぶことにする。
古代魔法のひとつ〔アギトラナ〕。唱えると、イメージしたものとは別で、思いを優先にしてくれる魔法。イメージするのとは違って願いを込めると威力を発揮する魔法というもの。
これは、ラスベルが幼いころに考えた魔法である。大気中のマナを消費するので、人体に影響はなく、連続で何枚も張ることもできる。ただ、大気中のマナを消費するから、他の生物にとっては有害になってしまう恐れもある。
けど、大概の魔法はこれだけで反射することができる。
〔アギトラナ〕は魔法として完成しており、術者のマナを消費しない分だけあって、攻撃魔法と区別して発動できる利点がある。
だけど、大気中のマナを消費するというから、800年前の時点で禁止されてしまっている。
「使ったのは、友達と対戦するときだけだったな…」
と、思い出したかのようにつぶやいた。
〔アギトラナ〕。なぜ、自身も使えたのか謎である。そんな謎をラスベルに問うと、案外簡単な答えが返ってきた。
「それは単純に、現代(いま)の魔法と遭わないだけだよ。古代魔法の方が遭っていたということだね」
「私…魔法が幼いころから何度も失敗してきて、自殺しようかと思い詰めていたのです。あのとき、偶然に穴ができ、ラスベルさんと出会わなかったら…私は…」
虚ろ向く少女にラスベルは明るく声をかける。
「過去のことは気にするな、それに出会ったんだ。魔法を受け継ぐ人も」
夜空を見上げながら微笑む。
「それって…」
少女の表情に明るさが出てきた。
「俺の古代魔法の受け継ぐ人っということさ!」
少女はなぜか涙をうかんだ。
あれほど否定されてきた自分に助け舟を分けてくれたかのように。少女は涙を拭い、ラスベルに言った。
「私の名はアリスよ」
「俺の名はラスベルだ、今後ともよろしくなアリス!」
「うん」
もう暗いことはない。
アリスの表情は太陽のように希望を持ち明るかった。
アリスはもう一人じゃない。失敗ばかりする魔法使いじゃない。ラスベルという古代人に出会ったことで、本当にあった魔法を知ることができたのだから。
アリスは家に帰るなり、荷物を纏い背負う。手紙を書き残し、アリスは朝日が立ち上る光に照らされ、光の中へとラスベルと一緒に消えていった。
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