第3話 終わりと始まり(3)

(こらえるのよ私…)


 悲鳴を上げるのを必死に抑え、手で両耳を抑えつつ、音が聞こえるのを必死で押さえた。


「あー、助かった助かった…」


 ミイラだった男は崩れたメガネを地面へ吐き捨て、ボロボロになった白衣を見ながら「うへぇ」と手で動かしていた。


 男は自分の姿がどうなっているのかわからず、ただ、目の前で目をつぶり震えている少女に声をかけた。けれど、両耳を抑えているようで、声は何かしらと入っていない様子だった。


「君、もう大丈夫だから」


 と声をかける。

 それでもアリスは両耳を抑え目を強くつぶっていた。


「…助けてくれて、ありがとう」


 と少女の両耳を抑えていた手にかけ、ありがとうという言葉と共に耳から手を放せた。すると少女はきょとんと無表情になり、その場で倒れてしまった。


 どうやら気絶してしまったようで、男は少女を背負って少女が入ってきたと思わしき井戸の方へと歩を進んだ。



 ***



 ここは酒場。ノームやドワーフ族がにぎやかに酒を浴び、なにやら宴会場をしている。ロウソクの光が集合し大きなランプのように光っている。それを酒場のいたるところの天井にあり、光は彼らの笑い声を祝福しているかのように見えた。


 でも、光は大きな光になろうとするほど疲労がたまり、小さくなり次第には消えて行ってしまう。それを定期的に替える作業をしているエルフ族の男の姿も見えた。


 酒場に少女を連れてきた男は、酒場の店主に寝かせれる場所はないかと尋ねた。


「ここは酒場だ。寝るのなら宿屋に行け、それにおまいさん…うっす汚い格好でこの辺をぶらつくな、ここは酒場だ。汚い男が来るところじゃねぇ、ここは仕事を終え汚れた男が来るとろだ!」


 灰色の髭を鼻から伸ばし、ガラス製のグラスに蛇口のようなところから黄色く白い泡をふく液体…ビールを注ぎながら、お待たせしている客へと料理とビール2つを持っていった。


 男は困り果てていた。

 とりあえず行く宛てもないので、どこか空いている席を探し、そこに居座る。そこに先ほど話しかけてきた店主が覗き込んだ。


「席に座ったのなら、飲む喰うんだな。何にする? ここはビールもいいが、地下で長年寝かしつけたワインがある。今なら、8ゴールドで手を打とう」


 店主に申し訳ないが、拒否した。

 なんせ、男は下戸で酒が飲めないからだ。


 店主はひどくご機嫌ななめだ。


「おい―――」


 店主が再度、呼びかけようとしたとき少女は目を覚ました。店主が呼びかける声に驚いた様子で、バッと起き上がったのを店主は驚き、お酒をお代わりしようと近づいてきた客に背中からぶつかりそのまま床へと倒れてしまった。


 そばにはワインの瓶と、グラスが割れてしまった2つが床に散っていた。店主は「あーー」と声を上げ、男に向かって問い詰めてきた。


 その割れたワインこそ、この酒場でのブランド物のワインだった。店主が自慢げに言っていたワインが割れたのだ、怒っても仕方がないことだ。


「弁償として20ゴールド支払え!」


 脅迫。でも、少女が突然起き上がったことが原因だ。ぼくが原因じゃない。そう訴えるも「連れてきた本人が悪い」と言われてしまい、言葉を失う。


 確かにそうだ。

 店主の顔が近くなる。男のボロボロになった襟首をつかみ上げ、顔を近付かせる。男は目を離さないように左側へと顔を向ける。


 店主はにらみつける。


(酒くせぇー)


 男はそう思いながら、店主から離れようと必死だった。


(吐きそうだ…)


 その時だった、店主と一緒に倒れた男…学生服を着た男が店主に声をかけた。

 その声に、少女は戸惑いつつ、学生服の男から離れようと椅子から転げ落ちる。

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