第2話 終わりと始まり(2)
時は800年後の現代。一人の少女が家の前の庭でなにかしら魔法を唱えている光景から始まった。
少女は魔法見習いで、魔法学校に通っている生徒でもあった。いまは中学生となり、試験ももうじき近づく季節になっていた。
「私ならできる…そう信じるのよ」
少女の名はアリス。周りからは魔法使いの癖に魔法を扱えないと言われるほど魔法音痴であった。学校でも有名で毎年の試験では落第ともいえるほどひどい点数を叩きだしていた。
アリスが唱えようとしていた魔法は目の前に光を放つだけの魔法。空気中に漂うマナを杖の先端に引き寄せ、集める。そして、自分が思い描く光をイメージし、魔法名を唱える。
ただ、それだけの魔法だ。
「ライト!」
カッと瞬きする間もなく爆発が起きた。屋根の上でゴロゴロしていた猫は驚きのあまり屋根から下へと落下し、紐で首を結んでいた犬はあまりの驚きで紐を噛みちぎり、家の外へ駆け出してしまい、家の窓ガラスは飛び散り、屋根の瓦も吹き飛ぶほどの大惨事となった。
この後、親や警察が飛び込み生きることも嫌になるほど怒られた。
魔法の素質はひとかけらもなかった。
不安になりながら、井戸の前までやってきた。
アリスはしきりに井戸の底に顔を出し、井戸の底がどこまであるのか目で追っていた。目で追えるほどの深さはあるのだが、井戸に飛び込もうという勇気があった。
「しにたい…」
アリスはそう思っていた。
昼間の件も場所を選ばずに使ったことであんなことになった。
おかげで人さまから爆弾魔と呼ばれる始末まで発展してしまい、いまはもう未来を見通せることでさえできないほど追い込まれていた。
アリスは3姉弟。姉は大学生でもう、魔法文明の研究員として活躍している。弟は小学生なのだが、魔法学校の成績ではトップを勝ちどっているのだという。
その中でもアリスは真ん中でありながらどれにも才能がなく、簡単な魔法を使ってもなぜか爆発してしまい、失敗してしまう。
アリスは自分自身がダメなのを攻め、もう井戸に飛び込み終えようとしていた。
目から涙が零れ落ちたとき、井戸の底で何かが光った。
アリスは家の隣にある倉庫から長くて丈夫なローブを手に取り、固定棚に紐を結び、自分自身の腰あたりにローブを結び、井戸の下へと下っていった。
井戸の中は長く使われておらず、湿気の臭さと脆くなった岩壁がアリスを井戸から追い出そうとしていたようにも見えた。
けれど、アリスは鼻を封じようと手に掛けようとしたものの、ローブから手を放すのが怖く我慢して臭いに耐えながら井戸の底まで降りた。
井戸の底はうっすらだが水があり、水滴が舞うほどの水の量はなく、ただ、葉から落ちた水滴がたまっている程度の量だった。
上から見たときは気づかなかったが、井戸の底の横には大きな穴があり、岩壁が散っていた。昼間の騒動でどうやら何かの拍子で壊れたようだ。
「何の穴…なの?」
アリスがそっと天井に手を当てつつ、中をのぞきこみ一歩足を踏み入れると、バキと足元から嫌な音がした。「ひっ」と軽く悲鳴を上げ後退すると、赤い文字でびっしリと書かれた石碑が砕けていた。踏んだ拍子で割れてしまったようで、元に戻そうとしても形が暗くてわからなくなっていた。
奥からだれかのうめき声が聞こえた。
心臓が圧迫する中、アリスは奥へと進んでいく。ゆっくりと光もない穴を手で添えながら位置を確認しつつ、足を統べるかのように進む。
すると、だれかがアリスの足をつかんだ。
「ひぃぃいい」
声にならないほど軽く悲鳴を上げた。
本当は大声で悲鳴を上げたかったが、昼間の騒動もあってかこれ以上、家族に迷惑をかけるのはいけないと思い、必死でこらえた。
「たすぇへ」
と、かすれた声で足をつかんでいた手にそっと触れる。
再び悲鳴を上げそうになった。
それはミイラと一言いってもいいほど骨と薄い骨だけが靴に触れていた。
アリスは「おちつけ、おちつけ」と自分に言い聞かせ、「貴方は誰なのですか?」と勇気を振り絞り、なるべく姿を見ないように目をつぶりながら拳を握った。
「らぅへぅ」
声にならないほどだった。むしろうめきに近い声だった。
アリスは「大丈夫、大丈夫」と心の中で言い聞かせ、ミイラの手に触れ、井戸の外へと連れ出そうとした。
触れたときぞわぞわしたが、もうなんでもいいという気持ちで骨と皮だけの手に触れ、引っ張ろうとしたとき、そのミイラは口にした。
「こへは…」
ミイラの足元には砕かれた赤い文字の石碑があった。
ミイラはそれを口があったとも割れる穴へと押し当て、ズズズとスープを飲むような音を立てながらすすぎ始めた。
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