第7話 ドリアードさんはエルフちゃんのお姉さん(下)
「ふう、何とか逃げ出せれたわ」
何故、俺はエルフちゃんと逃げる羽目になってしまったのだろうか。
「一蓮托生? 運命共同体?」
むしろ奴隷とか下僕と以下にしか思っていないような気がする。
というか、エルフちゃんがトラブルメーカーなのはよくわかっているので、俺の日常の一部のような気がする。
うん、何かすんごい暗い気分になってしまうのは気のせいだろうか。
大分走って逃げてやってきたのは小学校の遠足できた無料の植物園だった。
「ここまずくない? 植物園だし、ドリアードさん追いかけてくるよ」
「勢いで来ちゃったから仕方ない。なら、罠を仕掛けてでも酷い目にあわせちゃる。クックッ」
ヒロインらしからぬ腹黒い顔。
エルフというよりもダークエルフっぽいよな。
悪役。
でも、ダークエルフのイメージは胸がでかい。色っぽい。
エルフちゃんは背はあるけど、スットン共和国、ヒッ。
「あとでコロスわ。アンタ」
何故でしょうか。
エルフちゃんの顔が非常に怖くて、オーガにしか見えない顔になっているのです。
何ということでしょうか。魔王、胸ナシ。
「今からコロソウ。ウン、ソウ決メタ」
胸を隠しながら、エルフちゃんの目からハイライトが抜けて、正規の無い顔になっている。まさに恐ろしい顔、悪鬼羅刹の魔王胸ナシ。
「言葉がぼろぼろと出ているのわかっているかな?」
「あれ? マジですか?」
「魔王胸ナシとか、ぼそぼそと聞こえるのよ? わかるかな? わかっていないようね」
ハイライトの無い目が非常に恐ろしい。
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル。
ぼくちゃん死んじゃうのかしらん。
じりじりとエルフちゃんが俺に迫ってきた。
「まあ、胸がないのはエルフらしいのですが、何故気にするのですか? 少し前までは気にしていなかったのに」
植物園の木の陰からドリアードさんの姿が現れた。
彼女は呆れたとばかりにため息をつきながら、木の枝をエルフちゃんの腕に絡ませる。
「ヒイッ、もう来た。キュウッ」
助かった。俺の命、首の皮一枚でつながった。
しかも気絶とか。
「どれだけ情けないんですか。あなたは」
まあ、性格がわりとちっさいのだろうか。
「あなたも似たもののような気がします」
「また呟いてましたか?」
「はい。そうですね。でも、これだけ彼女が気を許すのは割と珍しいのですけれども」
いやまあ、こっちの世界ではわりと平常運転だけどなあ。この姿。
「昔は割と人見知りで、硬い感じの女の子でした。だからこそ、レポートが来ないと聞いて心配になってきたら、まあ不真面目であんなはしたない顔をしたりと」
「ホッとしましたか?」
「はしたないと言っているでしょ」
ドリアードさん、お姉さんなんですね。
しかも素直じゃない感じは何というかねえ。
「まあ、元気にしているようですし、悪いとは思っているのでしょう。今回のところは帰ります」
「え、ちょっと、この状況は?」
「あなたが介抱をしてあげてください。その方がエルフちゃんは安心しますよ」
「ちょっと、待って!」
という間にドリアードさんの姿が消えてしまった。
どろん、とばかりに煙のように姿がなくなる。
「本当に元気でよかった。お願いしますね。私の妹を」
小さく聞こえた最後の声がすごい素直な言葉だけど、聞こえるぎりぎりの声なのが素直じゃない。
何というか、ツンデレ?
というか、エルフちゃんどうするんだよ。
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唐突だが、俺は植物園の芝生で座っている。
しかも制服のブレザー姿のエルフちゃんがいて、俺の膝の上に頭を載せて寝転んでいる。
美少女の彼女が疲れて、彼氏の膝で寝ているとかすっげえリア充シチュエーションだとは思うけれどもある意味このエルフちゃんは手のかかる妹のようなもの。
ただ、それだけだと俺は思っている。
――何てことはないわけで。
女の子に膝に載せる経験なんて、俺には一切なかったですが。
俺の心臓は、今にも飛び出しそうなくらいの勢いで脈動しているわけですが。
沈まれ俺の
「つーか、俺口調おかしくなっているんですが。どんだけ動揺しているんですかね」
頭を抱えて、独り言をつぶやく。
「ドリアードさん、もう怒鳴るのをやめてください。やめてください」
寝言をつぶやく。
その単語に、俺はさらに頭を抱える。
ホント、ドリアードさん。この状況になったのはあんたのせいなんだよ。
「やめて。お姉ちゃん、ドリアードお姉ちゃん、怒らないで。本当にやめて」
そう言いながら笑っているエルフちゃんの寝顔は幸せそうで。
素直じゃないよね。
この姉妹さん。
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