第6話 ドリアードさんはエルフちゃんのお姉さん(上)


 土曜日の昼下がり。

 半ドンの授業を終えて、俺とエルフちゃんは二人で帰っていた。


「あー何か面白いことないかなあ。つーか、今日は友達と遊びに行く予定があったのに何で」

「そりゃまあ、お前が留学のレポート書き忘れて怒られたからだろ」

「え? 何だって?」

 それは鈍感男性主人公だけの特権である。

 ギャル系エルフが言っても何の意味がない。


「しょうがないじゃない。レポートにできそうなことがいっぱいあり過ぎて書けなかったんだからさ」

 遊び過ぎた、というのが実際のところだ。

 遊ぶというレポートにできそうな事があり過ぎて、レポートにする内容がまとまらなかった。

 何という放蕩娘っぷり。


「何よ。その言いたそうな顔」

「別に。何もどこにも」

 僧居つつ、俺から顔を背けるエルフちゃん。何というか、ツンデレっぽい。


「甘ずっぱい~」

 と頭上から綺麗な歌うような女性の声が聞こえた。


「嫌な声。マジで」

 エルフちゃんは額にしわを寄せ、ヒロインにはあるまじき口をへの字にしている。

 心当たりがあるらしい。

 しかし、大通りに面した道路と、後は樹齢500年位のクスノキがあるくらいしかなく、綺麗な声を出しそうな女性の姿は無い。

 

「その樹の上を見なさい。目を細めて、深呼吸をして注意深く見るの」

 

 エルフちゃんの言葉に俺は従った。

 よく見るとクスノキの上に緑の髪の美女の姿が見えた。


「うおっ、露出度高い(なんだアンタ)」

 緑の髪の美女はアラビアンナイトに出てきそうな薄い生地と下着のような服を着ていた。

「本音と建前が逆転してそうね」

 俺の心を読まないでほしい。

 あと、DKの心はエロの割合高いので普通だとは思うわけですよ。

「なんかすっごいくだらないことを思っていることだけはよくわかる」

 泣いていいですか。

 エルフちゃんの塩対応に俺の心はとても傷ついた。

「まあ、いいわ。ドリアードさん降りてきなさいって無理か」

 

「ムリ。そんな気とは関係のない場所に何て降りれるわけないじゃない」


「エルフちゃんの知り合い?」

「そうよ。私の住む森の精霊。木に住む精霊でこんなところには来れない筈なのに」


「その辺は転送魔法を使ったりしてやってきちゃった」

 ということらしい。

 ファンタジーって色々と万能なんだね。


「まあいいわ。何でこんなところに来たの?」

「レポート」

「ウッ、そんなのもう少し待ってくれたらいいし、何であんたがこっちに来るの?」

「そりゃまあ、私があなたのお姉さん替わりみたいなものだから心配になってきたわけ。遊び惚けて勉学にも励んでいるかが不安で。あとはまあ、好奇心かな」

 何で俺を見るのかな。ドリアードさん。

 まさか、俺に一目ぼれかな。


「ナイナイ。まず、その平凡か、オタクな顔に惚れる人間はあんまりいない」

「心を読むのはやめてくれるかな。本当にやめてください。イヤ、ホント」

 内容も突き刺さる。俺が平凡。そんなことはよくわかっている。

 わかっているけれども他人から改めて言われると目からハイライトがなくなっちゃうよ俺。


「仲がいいわね。まあ、いいわ。レポート何で出していなかったのかしら」

「そりゃ刺激が強くて、調べることが多かったから」

 本当は遊ぶのに夢中だったのが事実。


「嘘ね。その鞄についているアクセサリーとか、携帯をいじっている姿をみると恐らくは遊び惚けている」

 バレテーラ。

 しかも彼女の手提げ鞄の状況とエルフちゃんの携帯事情もよくわかっているらしい。


「それでは駄目なのよ。あなたはエルフ代表として、きちんとしなくてはいけないのよ。だから、アクセサリーは外して模範的な」

「あーはいはい。わかりました。とりあえず、レポートを家に帰ってからきちんと書きますぅ」

 何となくわかっていたわけだが、エルフちゃんの反応はこんなものである。


「これはいけませんね。お仕置きです」


 そのドリアードさんの言葉にクスノキの木の下から根っこが伸びてきた。

 多分捕まるとエロマンガの触手の世界になるのではなかろうか。


「あ、やばい。はい、逃げるわよ!」

「俺を巻き込むなッ!」

 と俺はエルフちゃんに手を引かれて逃げ出す羽目になってしまった。

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