第5話 泣き虫デュラハンさん
「まず、顔を上げてください」
俺は仕方なくベンチに転がっているそれに話しかけた。
「こ、こうですか?」
それは今にも泣きそうなほどへこんだ顔をした生首。
本当に何というかわかりやすいくらいに、下に体の無い生首。
顔の造形は作られたようにホレボレするようなスッと通った鼻筋で凛々しい顔つき。肩までありそうな銀色の髪をヒッツメているので、綺麗な西洋の姫騎士といった印象の少女の首を綺麗な両手が持ち上げているという異様な光景。
その横には首から切り離されたと思われるうちのブレザーを着た胴体がある。
体はそこそこムチムチでDKとしてはドキドキさせてくれるはずなのだが、台無しの首なし。
ホント、異世界留学生っていうのも色々あるんだなと思わせてくれる。
「デュラハンさん。居眠りで5時間目と6時間目を授業寝過ごしたからって、そんな泣きそうな顔になるのはやめてください」
「私は騎士です。泣き顔なんて見せてないですよ。よだれなんて、ウッウッ」
器用に生首をデュラハンさんの胴体がくるくると回して、顔を隠す。
さめざめと泣いているんだろうなあ。
というか、メンタル弱いな。
しかも、公園で隠れて泣くとか。
真面目なんだけど、何というか抜けている。委員長気質なのに人をまとめるのが苦手のような。
多分、この人拾った猫とか、残飯持ってきて食べさせていそう。
「やっぱり、私は騎士ではない。もう家で飼い猫と戯れたい。ああ、こんなことを思うなら、ホームステイ先のおじいさんの紹介をしているときには障害がいらないくらいにしたいキジトラのマー君がかわいくてしょうがないんだよな」
この方、一応異世界の魔国みたいなところの騎士見習いらしいのだが、もうこの状況は何というか残念過ぎる。
一応この国にやってくるのにはある程度の教養とか柔軟さとかが必要なんですよ。もちろん常識を守れる必要もあるんだが。
「がおー」
そういえば、あの狐人ちゃんもそういうのだよね。
だったよね。
うん。
公園で子供たちと戯れている姿は何というか非常に可愛いし、ほのぼのしているんだが俺たちと同じ高校生のはずだよね。
普通に子供たちの面倒を見ているのであれば凄くイイことなのだけれども、完全に混じっている姿は何というか――うん、考えるのはよそう。
「どうかされましたか?」
そんなことを思っていたら狐人ちゃんが俺とデュラハンさんの姿を見つけたらしく、こちらにとてとてと歩いてきた。
非常に可愛い。
「愛らしい」
そこのデュラハンさん、胸をときめかせない。百合に走らない。残念レベルが非常に上がっているぞ。
「私は可愛いものを愛する。それは女の子だからだ」
こいつ、開き直りやがった。
デュラハンは非常に高潔な騎士が多いらしい。しかし、デュラハンさんはそこから逸脱しようとしているらしい。
ちょっと溜息をつきたくなる。
「ああこりゃ駄目だ」
「それはどういうことだ? あ、狐人ちゃんのことを」
「自分の胸に聞いてください」
間髪入れずの指摘を入れる。
「それは私の胸が大きいことを馬鹿にしているのか」
デュラハンさんは確かに大きいが、それは今のところ関係がない。
つか、何でそこに行く。どこまでラブコメ脳なのかな。
胸を頑張って両腕で隠すのはいいのだが、生首が落ちるよ。
「あっ、痛い」
言わんこっちゃない。
デュラハンさんの生首を彼女の両手が落としてしまい、彼女はベンチとキスをする羽目になってしまった。
「鼻もうった。くっ、殺せ」
こんなところで女騎士みたいなこと言っても、かっこよくない。
しかも、また泣いてるし。
「あっ、大丈夫ですか? ハンカチありますから、これで拭きましょう」
と優しい狐人ちゃんは花柄のハンカチを差し出して、デュラハンさんの顔を抱えながら拭き始めた。
その時のデュラハンさんの顔は非常にだらしがなく、何というかしてやったりの顔だった。
『ぐへへ。役得役得』
と物語っている顔は非常に魔族というか、オッサンのようだった。
顔は綺麗なのに非常に残念なデュラハンさんだった。
「鼻水出ていますから、かんでください」
という狐人ちゃんの指示にデュラハンさんはチーンと鼻をかむ。
「本当にすまない」
本当にすまないと思っているのだろうか。
そんな残念なデュラハンさんと狐人ちゃんと俺の放課後だった。
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