路線

韮崎旭

路線

 なかなかどうして泣きそうなのだ。それがこうして言葉になれるほど重要な意味を持つことなのか疑わしいが、私の言葉の破片にはいかなる意味も宿らない。

 それが何かの表出であったとして、だからそれはきらきら光る光沢の小さな欠片共のその分散より、なにか重きを置くようなことですか?

 零時二分の路線上にうずくまる私はやがて北風と融けて輪郭がふやけていく。

 階段を上った映像としての記憶が、面白いと思えるのであれば新聞の見出しはどんな文芸書にも比肩しますと書いた日記が、使われなかったセンチメンタルが、硝子のライオンが(実はアクリル樹脂だった)、線路上で次々に想起され線路上で蘇る。

 私はその冷え切った路線から動かずに、空がしらけることもない。

 内容を持たないという点でいうなら水族館に近かった。

 乱雑な四肢を持て余してしまう夜に、路線には鋭利なプラネタリウム。それは人工的な光量でもって無機を照らし出す。空は無機だ。

 それにとても頭が悪い天候が、笑い方を知らないというだけの理由で挽歌を奏でている。

 次は古本屋に向かおうといった。だが私は路線から動くことができずに、摂氏零度の水のように冷え切った液状の風に埋もれて沈んだままでいる。

 あなたが開いた眼は初夏となり、縁取る光は恒星である。

 失う時間に描いた、羊皮紙の裏側でニガヨモギは待つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

路線 韮崎旭 @nakaimaizumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ