一 迷い人
空間に光の柱が生じる。地上から少し上の空中に浮いている大きな水晶の前で、誰かの姿が光の柱が消える前に現れた。姿は軽装でおしゃれな格好をした丈の短いスカートの女性だった。
「え! ちょっと待って! 何ここ!?」
驚きで周りを見渡す。自分以外は誰もいないことを確認する。
「あ、でもここ前に来た場所と似てるような……」
戸惑いと一度来たことがあると言うような言葉を放つ彼女は迷っていた。
「とにかく調べてみようかな。前と同じならそう簡単に帰れないはずだし……」
周りを調べようと決心するが、彼女は躊躇いを感じていた。
「うーん……でも動き回ると危険のような気もするなぁ。どうしよう……」
仕方なしに周りを調べていると、自分のすぐ後ろ側にあった水晶の奥に石板があることに気付く。その前に少し気になっていたので、水晶に触れてみた。
「前はこれみたいなのに触れたら帰れたんだけど……触ってみよう」
水晶は何の反応も示さなかった。
「……何も起きない……どうなってるんだろう?」
疑問を感じながら石板をしっかり見ることにした。そして、何か文字が書かれていることに気付く。そしてそれは自分が知っている日本語だった。
「異世界イリスにようこそ。ここに来たあなたは選ばれてここにいます。イリスのすべてを見ていって下さい……何で日本語?」
異世界イリス。聞きなれない単語だった。しかし、前回彼女はこの世界に来たことがあるはずだと思い、とある人物の名を出しながらつぶやいた。
「異世界……ってことは、フレインさんがいるかも! とにかくここを出よう! どこにいるかわからないけど、きっとまた会える気がする!」
フレインという人物の名を言いながら根拠のない自信が彼女を勇気付ける。しかし、この場所を見回している限り、前回とはどうやら違う場所に出ていることは間違いなかった。何故か日本語で書かれた石板、そしてこの状況。とにかく彼女はここから出ることを優先にした。外に近づいていくと、ひんやりとした空気が彼女の体に寒さを覚えさせた。
「うー……! 寒い! 氷の洞窟? 早めに出よう……」
ガタガタ身を震わせながら氷の洞窟内を歩く。すると、すぐ近くに森の見える洞窟からの外への出入り口を見つける。寒さが酷いのですぐに彼女は外に飛び出す。
外へ出ると幾分寒さがマシになり体の熱も回復し始めた。そこで彼女は気付く。
「もしかして……またモンスターがでるんじゃぁ……」
うっそうと茂る森の中では、何か野生動物の様な叫び声が聴こえる。彼女は前にこの世界に来ていたことを前提に考える。魔法は自分がジ・オンラインベルゼブブで使用していたものが使えるはず。そして、覚えている限りここでは視覚化された文字を映すゲームの時のナビゲーション用ウインドウは自分だけが確認できるが場所は表示されない。それ以外は現実と変わらない状況であること。そこまで考えると、彼女は自分の現在の状況に対して危機感を覚えた。
「どうしよう……前は町だったのに何で今回は氷の洞窟に森なの……ヤバいじゃんか……」
半泣きしそうな自分の心の中は今頼れる人物達の事でいっぱいだった。
「フレインさん……ギブンソンさん……どうにか生きて会えれば良いんだけど……」
この世界でゲームオーバーになる。つまり死ぬということは、恐らく本当に死ぬのではないか? そんなことが脳裏によぎる。しかしまだ現実を受け入れられない自分がいた。
「ゲームのはずだよね……」
そう考えながら、彼女は人が整備しているだろう森の中への道を歩き始める。
イリス 星野フレム @flemstory
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