イリス
星野フレム
序 ミシェル・クォンタム
機械だらけの部屋の奥で、ある科学者が量子コンピューターが映し出すモニターを観ていた。
この量子コンピューターは、現在の世界での最高の科学力と称され、名を与えられている。その名は、ミシェル・クォンタムと呼ばれていた。
「設定は順調かね」
初老の男がミシェルルームと呼ばれる場所にガードゲートを開けて入ってくる。その男も先程の科学者と同様の研究所職員服を着ていた。
「はい、もうそろそろかと」
ミシェル・クォンタムの前の科学者は低めの声を出して答えた。ミシェル・クォンタムの前で作業する彼はこの世界で最も研究熱心な男として学会の間でも名高い男である。
「良いのかな? バートン博士。我々は人道に背くぞ?」
初老の男が少ししゃがれた声を出しながら言う。バートンは答える。
「ディセル博士、ミシェルは演算結果を出しています。あなたもここで計画を打ち切ることはしないでしょう?」
ディセルにそう答えるバートン。そしてディセルは次にこう言う。
「勿論だ。我々科学者とは実に罪深いものだな」
バートンは何だそんな事かと思いながらディセルに軽く答える。
「何を今更」
初老は真剣な面持ちでミシェルルームの中の制御コンピューターのモニターを見つめて言った。
「人道に背き、道徳を退け、そしてイリスを作ろうとしている。イリスは我々にとってのミシェル・クォンタム初の世界製造。この偉業に罪深さを感じないのならば――」
バートンは冷静に言葉を返す。
「余程の愚か者、ですか」
その言葉に半ば決まり事であるかのようにディセルは言った。
「そうだ、愚か者だ」
ミシェル・クォンタムが音声ガイダンスを送る。
『認識名称イリス、型番000の構築が98%まで終わりました。これより先は、二重ロック認証となっています』
バートンは少しの笑みも浮かべずにこう言った。
「では愚かな幕開けを。ディセル博士、キーは持ちましたね?」
ディセルもバートンもキーを持ち、そしてミシェル・クォンタムの前にある二重ロックの場所にキーを差し込む。
「ああ、さあ始めよう」
解除動作を行った瞬間量子コンピューターは告げた。
『ダブルキーロックが解除されました。認識名称イリス、型番000のワールドの展開を行います』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます