第17話 俺の記憶LAST(星降る夜の旅立ち)

リョウスケ「おぉぉぉーーーーーい、ソウタァァァーーーーー!!」


神社裏の駄菓子屋が目に入ると同時に、とても耳をつんざくような大きな声が町に響く。


ソウタ「ごめん! 待たせてしまって!!」


スマホで時間を見る。20時ちょうどを示していた。俺が時間を確認したのと同時に……、


『ヒューーー……ドカーーーン!!!!!』


とても大きな爆音が夜空に轟いた。


シス「あっ、花火…!」


ソウタ「おおぅ…花火始まったかー。」


そういえばシスもリョウスケと一緒に居たんだったな。


リョウスケ「おい、ソウタ! 俺たちずっと待ってたのに、一体どこをほっつき歩いてたんだよ!?」


ソウタ「えっ…ごめん! …っていうかリョウスケこそ、何でずっと電話に出なかったんだよ…!?」


リョウスケ「えっ…電話なんてしたのか…?」


ソウタ「したぞ!? 何回も掛けたのに気付かなかったのか!?」


リョウスケ「えぇ…そうだったのか…。すまん…気付かなかった……。」


ソウタ「それはそうとリョウスケ、この手紙は一体なんだ? 彗星が見られるポイントを見つけたならそれを言う為だけに手紙なんて送って来ずに、普通に電話で場所を言えば良いのに……何でこんなヘンな手紙送って来たんだ?」


リョウスケ「は…? 駄菓子屋で待ち合わせしようって手紙を送って来たのは、お前の方じゃないかよ、ソウタ!? 俺は手紙なんか送ってないぞ!?」


ソウタ「えっ……。」


俺が手紙を送っただと…?


リョウスケ「ほら、コレ見てみろよ。」


『リョウスケとシス へ

 

 人ごみに邪魔されずに、すい星がよく見られる絶好の場所見つけたぞ。

 夏祭りの会場になってる神社のすぐ裏にある駄菓子屋の前だ。

 ここなら彗星が見られる方角からして完璧な場所取りだ。

 河川敷とうって変わって人がほとんどいないぞ。

 ピンポイントな観測地で観光客たちの盲点だからここで見ようぜ。

 待ってるからな。

 

 ソウタより』


ソウタ「………何だこれ。俺こんな手紙出してないぞ!!」


リョウスケ「えっ……だって宛先と宛名から見て、てっきりソウタが送ってきたものだと……。」


ソウタ「……………。」


俺はじっくりと文面を読み返す。


ソウタ「……同じだ。」


リョウスケ「は?」


ソウタ「俺に送られてきた手紙と全く同じ文章だ……。」


リョウスケ「どういうことだ……?」


ソウタ「これ見てみろよ。」


リョウスケ「ん……。」


俺は、俺に届けられた手紙をリョウスケにも見せた。




リョウスケ「な、なんだこれ!? 俺、こんな手紙出してないぞ!?」


ソウタ「えっ……!」


俺と全く同じ反応を示すリョウスケ。


リョウスケ「……………。」


ソウタ「……………。」


俺たちは思わず黙ってしまう。


ソウタ「なぁ、リョウスケ…?」


リョウスケ「え……な、何だ……?」


ソウタ「この手紙…どうやって手に入れたんだ…?」


リョウスケ「どうやってって…貰ったんだけど……。」


ソウタ「……誰にだ?」


リョウスケ「えっ…、」


ソウタ「その手紙は誰に貰ったんだ…?」


リョウスケ「えっ…渡されたんだけど……、」


ソウタ「誰に渡されたんだ…?」


リョウスケ「黒い変な服を着た人に…。」


ソウタ「えっ………。」


リョウスケ「ど、どうしたんだ…?」


ソウタ「……………。」


……同じだ。俺と……。


ソウタ「その人と何か喋ったのか……?」


リョウスケ「いや…特には…、一方的に手紙を渡されただけで、会話しようとしたら知らない間に居なくなってて……、でも手紙の送り主の名前にソウタの名前があったから、とりあえず手紙に書かれてた場所……駄菓子屋の近くに行けばソウタが待ってるのかなって思ったんだが……。」


ソウタ「……………。」


リョウスケ「な、何だ…? どうかしたのか…?」


ソウタ「いや、実は……、」



俺は、俺自身が手紙を受け取った一連の流れもリョウスケに説明した。



リョウスケ「ん〜……そうかぁ〜……俺もそんな手紙は出してなかったんだけどなぁ〜……。」


リョウスケも腕組みして何やら困った表情を浮かべている。


ソウタ「……………。」


まぁ、そりゃそうか。俺だってそんなこと言われたらそんな反応になるわ。

全く、誰だよ。変な手紙を渡してくれて……。


リョウスケ「なぁ、ソウタ。」


ソウタ「ん? 何だ?」


リョウスケ「変なことを考えてても仕方ないし、せっかくの夏祭りなんだからもっと楽しもうぜ。」


ソウタ「お、おう…そうか…。それもそうだな。」


リョウスケが開き直ったかのような表情で俺に話しかけてくる。確かにリョウスケの言う通りだ。せっかくの夏祭りだってのに変なことを考え過ぎてて全然夏祭りを満喫出来ていない。訳分からない手紙を送ったのは誰だか知らないけど、結果的に良い観測地が見つけられたことには変わりはない。花火を眺めながら彗星が降るまで待つとするか。


シス「花火綺麗だよー? 2人は見ないのー?」


ソウタ「あっ、そうだな! 見るか!」


シスちゃんは一人で花火を眺めていた。少女を一人、放ったらかして何を意味分からないことを喋ってるんだ俺たちは。


リョウスケ「そうだ、ソウタ。お前が見つからない間に、焼きそばとかたこ焼きとか色々と食べ物を買い溜めて来たんだが、食べるか?」


ソウタ「おっ、そうか。じゃあ言葉に甘えて頂くとするかー。」


ちょうど腹が減ってたしちょうどいい。無駄に走りすぎて疲れてたところだったんだ。


リョウスケ「二人とも、ジュースは何がいいんだ。俺はコーラにするよ。」


シス「私はオレンジジュース!」


ソウタ「そうだなー、じゃあ俺はー…カルピスでいいや。」


リョウスケ「了解ー。」


ソウタ「そういえば今何時だ?」


リョウスケ「あぁ、もうすぐ21時が来るぞ。結構夜遅い時間帯になるのに、俺たちダラダラと話してたっぽいな。」


ソウタ「そうかー…。」


リョウスケ「シスちゃんはまだ時間大丈夫か?」


シス「私は全然大丈夫だよ!! 今日は彗星を見るために遅くまで2人と付き合うって、おばあちゃんにも伝えてきたから。」


リョウスケ「そうかそうか、準備万全だなー。」


ソウタ「人もまだ結構残って__、」


俺は何気なく辺りを見渡す。


ソウタ「……あれ?」


シス「どうしたのー?」


ソウタ「……居ない。」


シス「えっ?」


ソウタ「誰も居なくなってる……。」


リョウスケ「は?」


二人も俺に釣られて辺りを見渡した。


ソウタ「……………。」


そう、居ないのだ。さっきまで賑わっていた夏祭りの会場から聞こえる騒がしさも聞こえなくなり、近くを歩いていた通行人や観光客達も、俺たち3人を除いて一切の人間が何故か消えていたのだ。しかも花火まで急に途絶えた。遂、今までドカドカと打ち上がりまくっていたのに……。


リョウスケ「な、何だ? 人が居ないぞ???」


ソウタ「えっと……声も聞こえなくなったな……。」


シス「誰もいないー……。何か気持ち悪いなぁー……。」


リョウスケ「場所移動するか…?」


ソウタ「そうだな……何か誰もいなくて居心地が何か変だからな……。」


シス「何でか分かんないけど花火も止まっちゃったし、もう神社に戻ろー?」


ソウタ「そうだな…そうするかー…。じゃあ帰ろうか__。」


俺がそう言い終えた瞬間___。




『ピカッ……!!!』




夜空一面に途轍もなく大きな光が舞い込んだ。


ソウタ「なっ…何だ…!?」


リョウスケ「空が……!!」


シス「眩しい……!!」


俺は眩しい夜空に薄目を開けて視線を送る。


ソウタ「あれは……!!」


リョウスケ「もしかして……!!」


シス「彗星……!!」


俺たちが見たもの。それは紛れもなく、夜空に星が降り注ぐ光景だった。生まれて初めて見たその景色に俺たちは……数秒間、何も口から言葉を発さずその光景に見とれていた。


ソウタ「……………。」


リョウスケ「……………。」


シス「……………。」


今朝のニュースでも言っていた通り、河川敷のある方角から神社のある方角に向けて、彗星が夜空を駆け巡る。


ソウタ「あれが……ソリシス彗星………。」


リョウスケ「……………。」


そしてソリシス彗星は……夜空を縦断じゅうだんし、神社近くの建物や森林の影へと徐々に隠れて行く……。


シス「あっ……!! 待って!! ソリシス彗星…! 幸福の大天使様が降らせた幸せの流れ星……!! 私はまだお願いをしてないの……!!」


リョウスケ「お願い…? あぁ……ソリシス彗星も一応、流れ星だもんなぁ。」


シス「流れ去る前に、叶えたいお願いをすると幸福の大天使がそのお願いを叶えてくれるらしいの…! 大天使様の力で幸せにしてくれるんだって!!」


ソウタ「へぇ…! そんな言い伝えもあるのかぁ…!」


シス「聞いてください、幸福の大天使様……!! 私の願いは……!!」


『ダダッ……』


ソウタ「あっ、シスちゃん!! 急に走ると危ないよ!! この道、見通しも悪いから!!」


シスが彗星の流れく方向に向かって唐突に走りだす。


リョウスケ「まぁ、大丈夫だろ。ちょうど、人も車も何故か全く居ないから。」


ソウタ「あっ、確かに…。それもそうだな___。」


俺がそう言い終わったと同時に__、


『ププッーーー!!! キューーー!!!』


クラクションと急ブレーキの様な音が鳴り響く。


シス「えっ……?」


ソウタ&リョウスケ「はっ……?」


何が起こった……? 俺は流れるようにシスが走り出した道路の先を見る。


ソウタ「あっ……!」


目前を見ると道路に向かって走り出したシスの斜め前にある建物の陰から大きなトラックがこちらに向かって走って来ているのだ。


ソウタ「…………!!」


考えている余裕は無かった。気付くと俺も、思わず走り出してたのだ。俺の勝手な心の意思のままに。自然と体は動いていた。


ソウタ「…………!!」


全力疾走でトラックの前方へと駆け込む。


ソウタ「…………!!」


『ドンッッッ!!』


俺の出せるいっぱいの力で少女を歩道際へと突き飛ばす。


シス「わっ…………!!」


俺の腕力で押し飛ばされたシスは歩道に勢い良く倒れる。

俺も逃げないと………!!


ソウタ「…………!!」


後ろを振り返ろうとしたその瞬間___、


『ドンッッッ!!』


俺の身体に重たい衝撃と強烈な激痛が走る。


ソウタ「…………!!」


叫ぼうとした…が、声が出ない…。


ソウタ「……………………。」


どうやら……逃げ遅れたみたいだ……。


ソウタ「……………………。」


徐々に意識が遠退いて行く。


リョウスケ「…………!!!!!」


シス「…………!!!!!」


2人が俺に向かって何かを叫んでいる。……だが俺に耳には殆ど聞こえて来ない。

……一体、何を言っているのだろうか。


ソウタ「……………………。」


更に意識が薄れて行く。






俺はあの日___


あの星の降る夏祭りの日___


1人の少女の命をかばい___


そして俺は、この世を去った___。





消えて行く視界。完全に消えてしまう前に、最後に2人の顔を見ておこう……。

そう思った俺は最後の力を振り絞り瞼を開ける。




涼介リョウスケの顔を見た……。


涼介リョウスケは俺の姿を見たまま、驚いた表情で口を開け、ただただ呆然と立ち尽くしているだけだった。涼介リョウスケは口パクで何やら喋っている。


ソウタ「……………!!」


俺の大親友、涼介リョウスケの最後の言葉……、

何言ってるか全然聞こえないや……。




詩守シスの顔を見た……。


詩守シスは俺に突き飛ばされた体勢のまま、何が起こったか分からない、どう反応して良いのかが分からない……というような挙動を示していた。詩守シスは俺を無表情で見つめ続けている……。


ソウタ「……………??」


無表情で俺を見つめ続ける詩守シスが……、

何故か一瞬……、笑ったような気がした………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る