第16話 俺の記憶ⅩⅢ(夏祭り)

『ただいまより、年に一度の○○町夏祭りを開催致します。毎年お越し下さっている町内の方も、町外からお越しの方も、県外からお越しの方も、皆さん一同が今日の日を良き1日になるように祈っております。本年も沢山の催しを企てております。存分に◯◯町夏祭りを堪能してから、満足して帰って頂けるよう、夏祭り運営陣は努力して参りますので、どうか本年もよろしくお願い致します。』


夏祭りの開催を告げる町内放送が何度も流れる。今年も待ちに待った夏祭りの日が遂にやって来たのだ。しかも今年はそれに加えて更に面白い要素がブチ込まれている。十数年ぶりとなる『ソリシス彗星』が我らが◯◯町の夏祭りの夜空一面に流れるのだ。流れる時間帯は夏祭りのメインイベントである打ち上げ花火の最中〜終わり頃との事。まだ夏祭りが始まったばかりだが、もう既にワクワクが止まらない。少々出遅れ掛けたが何とか夏祭りの始まる時間までに間に合って良かった。


そこまでは良かったんだけど……、


ソウタ「……居ない。」


そう、リョウスケとシスの姿が全く見えないのだ。もう夏祭りは始まってしまったというのに…。


夏祭りが始まってから数十分。夏祭りの会場となっている神社・河川敷の付近に着いてからずっと2人を探しているのだが、2人の姿は何処にも見えない。

一体、どうしたと言うのだろうか?


ソウタ「………リョウスケもシスちゃんも何処に行ったんだろうか……?」


リョウスケに電話もしているのだが全く繋がらない。シスちゃんは携帯すら持ってないから連絡の取りようが無い。夏祭りは人混みが増えまくるのは始めから分かっていた。それ故、人間2人探すのにも一苦労だ。変なトラブルに巻き込まれて無ければ良いのだけど……。」


ソウタ「……………。」


スマホの時間を見る。時計は19時を指していた。夏祭りの案内を神社で見てきたのだが、どうやら花火は20時かららしい。あと1時間。それまでに合流できるのだろうか……。彗星が降るタイミングはもうちょい遅めの時間らしい。それに関してはまだ安心できるか。


ソウタ「……出店多いなぁ」


夏祭りの模擬店が川沿いに連なっている。それと同じくして人も大量に溢れている。俺はこの中からリョウスケとシスを探し出さなければならない。


ソウタ「……えっと……。」


少し探し疲れてきた。俺は適当に歩きすぎたせいか、知らない間に神社の中まで戻って来ていた。

こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。3人で出店をまわる予定だったのに……。


ソウタ「はぁー……。」


腹減ってきたなー……適当に出店で何か買って先に軽く食べておこうか……。


ショウゾウ「おう、昨日のソウタ君じゃな? 溜め息なんか付いて一体どうしたんじゃ?」


ソウタ「あっ、神主さん。」


俺が適当にウロウロしていると神主さんと出会った。

…ってそりゃ出会うか、神社の中だもんな。


ショウゾウ「そういえば友達は付いておらんのか? 一緒に夏祭り来るんじゃなかったのか?」


ソウタ「いや…それが…リョウスケたちがどこに行ったか分かんないんですよ…。神主さんは見てませんか…?」


ショウゾウ「いや…ワシはずっと神社でおったから見てはおらんが…少なくとも神社には来ては居ないぞ。」


ソウタ「そうですか……。」


まぁ、元からそれほど良い答えは期待してはいなかった。本当にどこに行ったんだろうか。早くしないと花火が始まっちまうぞ。


ショウゾウ「…そういえば、」


ソウタ「…はい?」


ショウゾウ「今朝渡した落し物は無事に持ち主に返してくれたのか?」


ソウタ「え? あぁ、ペンダントならシスちゃんに返しましたよ。名前も書いてあったし、星型だし、本人も『私のペンダント!!』って言ってたんで、間違いないですよ。」


ショウゾウ「そうか……うーむ……。」


ソウタ「?」


神主さんは少し困った顔付き頷いた。


ソウタ「どうかしたんですか?」


ショウゾウ「今更なんじゃが…今朝のワシは何故お主らにペンダントとやらを渡してしまったのじゃろうか…?」


ソウタ「え……?」


急な質問だった。


ショウゾウ「ワシは神社に置かれた落し物や忘れ物は持ち主である本人が取りに来ないと返さないのじゃが……。」


ソウタ「え……、でも持ち主が鳥居で待ってるならすぐ渡せるし、別に構わないって……。」


ショウゾウ「うーん…確かにワシはそう言ったんじゃが……何故ワシはあんなことを言ってしまったのじゃろうか……?」


ソウタ「は?」


ショウゾウ「いやな……神社の物を盗んで行く泥棒もちょくちょく居るもんでな……忘れ物や落し物も同じように、持ち主と偽って取りに来るやからも少なからず居るんじゃよ……だから本人が取りに来て、本人確認が出来た時のみにその物を持ち主に渡す事に決めておったのじゃが……今朝、2人に会った時は何故か普通に渡してしまったんじゃよ……。」


ソウタ「そうなんですか……。でもペンダントの持ち主は間違いなくシスちゃんでしたよ? 持ち主の元へとちゃんと返ったんだから、結果オーライですよ。次からちゃんと本人に渡せばそれでいいんじゃないですか?」


ショウゾウ「そうか…それもそうじゃな。ところでそのペンダントとやらの持ち主の女の子の名前はシスちゃんと言うのか。」


ソウタ「あっ、はい。そうです。そういえばシスちゃんと神主さんって、俺とリョウスケには何度か会いましたけど、シスちゃんにはまだ会った事がなかったですね。」


ショウゾウ「そうじゃな。一度、会ってみたいものじゃな。」


ソウタ「リョウスケやシスと合流出来たら夏祭りを廻るついでに、出来ればまた神社に寄りますよ。その時にシスちゃんも居ますから一緒に話しませんか?」


ショウゾウ「あぁ、ワシも今日は存分に楽しむつもりだ。楽しみにして待ってるからまた来てくれな。」


ソウタ「分かりました。じゃあ俺は早く2人を探してきます…!」


ショウゾウ「あぁ、行ってらっしゃい。」


そうして俺は東雲神社を後にした。




ソウタ「……………。」


時計を見る。


ソウタ「19時20分か……。」


時間は刻々と経って行く。急ごう。早く2人と合流して夏祭りを楽しむんだ。

俺は再び走り出した。





_______________。




ソウタ「……………。」


走り続けること20分。スマホを取り出し時間を見ると19時40を指していた。


ソウタ「本当に2人はどこへ行ったんだ…!?」


段々と足も疲れてきた。2人が居ないと一緒に夏祭りを見て廻ることもロクに出来ないのだが……。


シスの祖母「おや、ソウタ君じゃないか。」


ソウタ「あっ…シスちゃんのおばあちゃん。」


今度はお婆ちゃんか。


ソウタ「また会いましたね。さっき振りですね。」


シスの祖母「そうだね。ところで夏祭りには間に合ったのかい?」


ソウタ「あっ、はい。ギリギリでしたけど、ダッシュで神社前までに間に合間したよ。」


シスの祖母「そうかい、そうかい。それは良かった。ところでシスはどうしたんだい?」


ソウタ「あぁ…それが今、どこに居るのか分からなくて…てっきり夏祭りの会場で待たせてしまっているのかと思い込んでしまってて…急いで来てみたんですけど、どこにもいないんです…。」


シスの祖母「手紙に書いていた場所に居るんじゃないのかい?」


ソウタ「へ? 手紙?」


……………。


ソウタ「……そうだ。」


そうだった。黒いローブの様な服を身にまとった人に届けられた、差出人リョウスケで俺宛の手紙……。


ソウタ「何でもっと早く思い出さなかったんだ…。」


ポケットに入れていた。手紙を取りだす。もう一度、手紙の文面を見る。


『ソウタ へ

 人ごみに邪魔されずに、すい星がよく見られる絶好の場所見つけたぞ。

 夏祭りの会場になってる神社のすぐ裏にある駄菓子屋の前だ。

 ここなら彗星が見られる方角からして完璧な場所取りだ。

 河川敷とうって変わって人がほとんどいないぞ。

 ピンポイントな観測地で観光客たちの盲点だからここで見ようぜ。

 待ってるからな。

                            リョウスケより』


ソウタ「神社のすぐ裏にある駄菓子屋の前……。」


シスの祖母「どうしたんだい? 大丈夫かい? シスの居所は掴めたのかい?」


ソウタ「……ありがとうございます! 俺、行ってきます!」


シスの祖母「おぉ、そうかい。忙しいねぇ、行ってらっしゃい。」


ソウタ「シスちゃんのお婆ちゃんは会いに行かないんですか?」


シスの祖母「あぁ…私は結構だよ。3人で存分に楽しんで来な。私はまだ神社にも行ってないんだよ。少し出店を回っただけさ。」


ソウタ「そうですか…じゃあ今度こそ行ってきますね!!」


シスの祖母「あぁ、気を付けてね。あんまり慌てると危ないよ。」


ソウタ「あはは…大丈夫ですって!!」




そうして俺とシスのお婆ちゃんは別れた。


ソウタ「……………。」


スマホを取り出し、時間を見る。


ソウタ「19時50分…。」


思った以上に時間が経つのが早い。シスのお婆ちゃんと話しただけでもう10分も過ぎてるのかよ。


ソウタ「急がないと。」


俺は再び走り出した。

せっかくの夏祭りだってのに俺急いでばっかりだな……。

打ち上げ花火が始まるまであと10分……本当に急がないと!!




俺はそのまま駄菓子屋まで一直線で走り抜けた。

きっと2人はそこで待っているはず……、

そして待ちに待った彗星がやっと見られるんだ……!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る