第15話 俺の記憶Ⅻ(手紙)

ソウタ「ん〜…なかなか良い場所見つからないなぁ。」


夏祭りまでの時間はそれほど無い。だから俺たちは二手に分かれて、星がよく見られる観測地を探す事にした。俺単独とリョウスケとシスが共に探してるって感じだ。夏祭りの最中に降るから、夏祭りの会場となっている神社や河川敷からそれほど遠く無い場所を選ばなくてはならない。俺たちの町は田舎町だから高い建物なんてほとんど無い。だから簡単に観測地なんて見つかると思ったんだけど…。


ソウタ「木が邪魔だなぁ。」


神社付近は背の高い木が沢山生い茂っている。はっきり言ってクソ邪魔だ。緑が多いとか、そんな風に考えるととても良いとは思うのだが、正直多すぎても邪魔くさくて仕方ない。おかげで夏場は虫が多くて腹が立つ。


ソウタ「やかましいなぁ。」


一方、河川敷は屋台多すぎるわ、夏祭りを見に来た観光客の人混みが酷すぎるわで、彗星を観察するには落ち着か無さすぎる。毎年夏祭りの時間帯は昼過ぎになると、他の町や県外の人などがやってきて人口密度が高くなるのだ。この人込みの中で彗星なんて見てる余裕無いだろう。


ソウタ「どうせなら落ち着いて、静かで、3人でゆっくりと見られる場所を探したいな…。」


そう俺がブツクサと独り言を漏らしている時だった。


『ドサッ!』


ソウタ「あっ! すみません!!」


よそ見をしながら歩いてたせいで、知らない人とぶつかってしまった。


黒ローブの人物「……………。」


ぶつかった人は何も喋らない。


ソウタ「あの……?」


黒ローブの人物「……………。」


やはり喋らない。


ソウタ「……………。」


俺もつられて黙ってしまう。謎の沈黙状態が続いてしまう。


黒ローブの人物「……………。」


ソウタ「……………??」


よく見るとその人物は、何故かこのクソ暑い真夏である時期の真昼間であるにも関わらず、真っ黒なローブのような服を全身にまとって厚着をしている。

背丈は俺よりも低いが、そのローブのせいで男か女かも分からない。何なんだこの人は…?


『…スッ。』


ソウタ「へ…?」


その人が俺に差し出してきたのは一枚の紙切れだった。


ソウタ「…これを俺にくれるんですか…?」


黒ローブの人物「……………(コクリ)。」


その人物は無言で頷く。貰っていいということだろうか…?


ソウタ「……………。」


俺は無言で受け取る。


ソウタ「………?」


その紙切れを見ると文字が書いてある。

文字の一行目を見た。

何々…『ソウタ へ』

俺の名前…? …ってか、何でカタカナ?


ソウタ「何ですか、コレ…? 手紙…??」


黒ローブの人物「……………(コクリ)。」


その人物は、また無言で頷いた。


ソウタ「と言うか何で俺の名前を知ってるんですか…? あなた誰ですか…?」


黒ローブの人物「……………。」


返事は無い。


『バサッ』


俺の言葉を無視して、クルっと黒ローブをひるがすと、そのまま背を向けて去って行こうとしていた。


ソウタ「ちょ! ちょっと待ってくれよ! 君は一体…!」


黒ローブの人物「……………。」


振り返り、俺の方を見て黙っている。何なんだ一体…?


ソウタ「………えっと………、」


『ヒュウゥゥゥゥゥ〜〜〜』


突然、強風が吹き荒れる。


ソウタ「あっ!」


持っていた手紙が吹き飛ばされそうになり、慌てて掴んだ。


ソウタ「………はっ………、」


俺は黒ローブの人が居る筈の方へ顔を戻した。


ソウタ「……………。」


その先を見ると…もう既に黒ローブの人物は消えて居なくなっていた。


ソウタ「……………。」


『ペシャリ』


俺は無言でその手紙を開く。




『ソウタ へ

 

 人ごみに邪魔されずに、すい星がよく見られる絶好の場所見つけたぞ。

 夏祭りの会場になってる神社のすぐ裏にある駄菓子屋の前だ。

 ここなら彗星が見られる方角からして完璧な場所取りだ。

 河川敷とうって変わって人がほとんどいないぞ。

 ピンポイントな観測地で観光客たちの盲点だからここで見ようぜ。

 待ってるからな。


 リョウスケより』




ソウタ「………リョウスケ?」


リョウスケのやつ…何でこんな手紙なんか送り付けて来たんだ? こんな面倒臭い事しなくたって、普通に合流した時に言えば良いのに…。


ソウタ「と言うかさっきの人誰だよ…。」


郵便屋さんだろうか。


ソウタ「……………。」


いやいや、黒ローブをまとった郵便屋さんなんて聞いた事ないぞ。


ソウタ「…とりあえずリョウスケたちと合流するか。」


変な事を考えていてもしょうがない。とりあえず行動に移ろう。


そうして俺が歩き始めようとした時だった。




『○○町にお越しの皆さま、まもなく、年に一度の○○町夏祭りを開催いたします。』


町内放送が流れる。


ソウタ「えっ、もうそんな時間なのか!?」


俺は観測地探しに夢中になりすぎたのか、もう既にかなりの時間が経っていたらしい。気づけばもう夕方だった。


ソウタ「今、何時だ!?」


ポケットにしまっていたスマホを取り出し時間を確認する。


ソウタ「17時…もうこんな時間だったのか!」


俺がトロトロしていたせいで、リョウスケやシスが先に神社で待ってるかも知れない。待たせるのは申し訳ないから一応、連絡だけしておこう。今、神社に向かってるところだと伝えておこう。


ソウタ「リョウスケに電話掛けておくか。」


『プルルルル……、』


ソウタ「……………。」


『プルルルル……プルルルル……、』


ソウタ「……………。」


『プルルルル……プルルルル……プルルルル……、』


ソウタ「……出ないな。」


あれ……あいつ俺に訳分からん手紙なんて出しておいて、何で電話に出ないんだ……? ……と言うか、手紙なんて出さなくても普通に電話掛けてくればいいのに……。


ソウタ「……急ぐか。」


まあいい。電話なんてしなくてもさっさと会えば良いだけの話だ。早く神社へ向かうとするか。


ソウタ「早く夏祭りの会場へ急ごう!」


会場から此処まではそこそこの距離がある。俺は駆け足で東雲神社へと向かった。




___________________




ソウタ「………………。」


シスの祖母「おや、ソウタ君じゃないか。」


ソウタ「あれっ、」


俺が走って神社へ向かっていると、シスのお婆ちゃんとすれ違った。無言で走り続けていた俺に声を掛けて来る。


ソウタ「どうも、一昨日ぶりですね。」


シスの祖母「シスは付いて居ないのかい?」


ソウタ「あぁ、シスちゃんならリョウスケと居ます。ちょっと別行動してたんですよ、俺たち。」


シスの祖母「あぁ、そうなのかい。ソウタ君も夏祭りに向かってるところかい?」


ソウタ「えぇ、そうですよ。時間に余裕があったもんでダラダラと彗星の観測地を探していたら、知らない間にこんなにも時間が経ってて…さっき町内放送が流れて初めて気づいたんです。だから急いでるんですよ。シスちゃんのお婆ちゃんは夏祭りに行かないんですか?」


シスの祖母「あぁ、私もちょうど向かってるところだよ。…って、その手に握り締めてる紙切れは一体何だい?」


ソウタ「え? あぁ、これは……ただの手紙です。」


シスの祖母「そう…手紙……。」


ソウタ「シスちゃんのお婆ちゃんは急がないんですか? 早く行かないと夏祭り始まってしまいますよ?」


シスの祖母「あぁ、私はそんなに急ぐ体力は無いからねぇ。ゆっくり行かせてもらうことにするよ。彗星の時間帯までには余裕で間に合うだろうからさ。」


ソウタ「そうですか……じゃあお先に失礼します!」


シスの祖母「あぁ、またね。」


俺はシスのお婆ちゃんの横を通り越して神社へと急いだ。




___________________




ソウタ「……見えてきたな。」


走ること数分。黙々と走り続けていると俺の目的地である東雲神社が見えてきた。あと、もう少しだ。

すると………、


『ただいまより、年に一度の○○町夏祭りを開催致します。……。』


町内放送が流れる。


ソウタ「やばっ、始まってしまったぞ。」


まぁ、何とかギリギリ間にあった感じか。とりあえずリョウスケとシスを探そう。




ソウタ「さぁ! 今年も年に一度の夏祭り!! 楽しむぞぉ!!」


さっきまで走っていて疲れているのにも関わらず、1人で声を張り上げてしまい、夏祭りに来ていた人たちに変な目で見られてしまった。


年に一度の夏祭り。俺だって楽しみたい。

テンションが上げて行こうじゃないか!!

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