第14話 俺の記憶Ⅺ(私たちを繋ぐモノ)

リョウスケ「ふぅー、着いたな神社。」


ソウタ「そうだな。」


シス「到着だねー。」


歩くこと数十分。俺たちは東雲神社に到着した。

そういえば今何時だ?


ソウタ「……………。」


スマホで時間を確認してみると朝の10時を過ぎた頃ぐらいだった。


ソウタ「夏祭りまでにはまだ時間があるな。多分、夕方からだろうから。」


リョウスケ「そうだな。じゃあさっさとペンダントを回収しに行きますかーっと…。」



そうして俺たちが神社の中へと足を踏み入れようとした時だった。



シス「…………。」


シスが神社の鳥居の前で立ち止まった。


シス「あ、あの……。」


ソウタ&リョウスケ「ん?」


シス「ねぇ…、ソウタお兄ちゃん…。」


ソウタ「ん? なんだ、どうした?」


突然、シスが困った顔をして俺たちに言ってくる。


シス「あの……本当にごめんなさいなのだけど……私のペンダント、2人で取って来てくれない……?」


ソウタ「ん? どうしてだ? シスちゃんも普通に付いてくればいいじゃないか?」


シス「い、いや…別に……なんでもない……。」


シスは神社の中に進むのを何故か拒んでいる。


リョウスケ「何してるんだよ、シスちゃん…? 大切な持ち物との再会なんだぞ…?」


シス「い、いや……ちょっと私、ペンダントを回収するために神主さんに会うのが恥ずかしくて……。」


あれ。シスちゃんってそんな恥ずかしがり屋だったっけ? せっかく、ずっと探していた物がやっと見つかったのに…。


シス「だから2人でペンダントを貰ってきてくれない…? お願い…!!」


まるで神社の参拝者かのように、手を拝みながらお願いされる。


リョウスケ「んー…でもな、シスちゃん。恥ずかしい気持ちは分かるんだけど、神主さんが………、」


そこで俺は昨日の神主さんの言葉をシスに伝える。




……………。




『俺たちがそのペンダントの持ち主であろう人に届けてきましょうか…?』


『うーむ……そうじゃな……それでもいいんじゃが……、』


『何かまずいことでもあるんですか?』


『いや…考えたくはないんじゃが、お主達に任せて届ける前にまた失くしたり盗まれたりしても困るじゃろう…?』


『あ……それもそうですね…。じゃあどうすればいいのでしょうか……?』


『そうじゃな…、明日まで神社で保管しておくから、また明日になったら持ち主を連れて来てくれんか…? 今、夕方じゃし…もうすぐ夜になるだろうから、遅い時間にわざわざ来てもらうのも悪いからな……。』


『そうですか……分かりました。』




……………。




シス「そ、そうなんだ……。」


ソウタ「そうなんだよ…だから申し訳ないけど一緒に取りに行ってくれない?」


シス「う…うん…。分かった…。」


シスの声のトーンが下がってしまった。


リョウスケ「俺たちが付いてるから恥ずかしくなんかないって!」


リョウスケもシスに助け舟を差し出してくれる。


シス「分かった…私、勇気出してみる…。じゃあ行こう? ソウタお兄ちゃん、リョウスケお兄ちゃん。」


ソウタ「おっ、勇気出してくれたんだ! じゃあ行こうかー。」


シス「……………。」





そうして俺とリョウスケが鳥居の中に入ろうとした時だった。


ソウタ「……………。」


俺の心の中に…何やら変な感情が混ざった。

俺は何故か黙ってしまう。


リョウスケ「……………。」


リョウスケまで黙っている。何だ一体…?


ソウタ「……やっぱり俺たちが取って来ようかシスちゃん。」


シス「えっ……大丈夫なの……?」


ソウタ「……大丈夫だと思うよ。」


何故だろう? 何故だか分からないが、俺はシスと神主さんを会わせてはいけない気がして、急にシスちゃんと共に神社内に入ることを制止した。


リョウスケ「……そうだな。俺たちで取りに行くとするか。シスちゃんはここで待ってて。」


リョウスケも俺と同じくシスと共に行くことを制止した。


シス「分かった……。」


シスは不思議そうな顔をしている。


シス「あの…二人とも急にどうしたの…? さっきは私も一緒に行こうって言ってたのに……。」


リョウスケ「んー……なんかシスちゃんと神主さんを合わせてはいけない気がしたんだよな……。」


シス「会わせてはいけないってどういうこと…? だって神主さんは私が居ないとペンダントを返してくれないんじゃあ…?」


ソウタ「……心配しなくても大丈夫だよ。俺たちでどうにか神主さんを説得してみせるから。」


シス「そう……。早く戻ってきてね…?」


ソウタ「あぁ、了解だ。」


そうして俺たちは2人でペンダントを回収しに神主さんの元へと向かった。よくよく考えれば説得も何も無かった。何故なら持ち主が鳥居まで来ているのだ。しかも持ち主は小さな女の子だ。代わりに俺たちが中まで取りに来て待っててもらってると言えばそれでいいだろう。





___________________






シス「……あっ! おかえり!!」


ソウタ「お待たせー…。」


シス「えっ、全然待ってないよ! 思ったより早かったんだね!!」


リョウスケ「ははは…まぁな…。」


……実に不思議だった。俺たちが神主さんに2人で取りに入った事情を説明するまでもなく、何故か神主さんは簡単にもペンダントを手渡してくれたのだ。

昨日はアレだけかたくなに俺たちがペンダントを受け取ることを拒んでいたのに……。


リョウスケ「まぁ、あれじゃないか? どうせ持ち主がそこまで来てるのが分かったからじゃないか? 流石にそこからそこで落としたり失くしたりはしないだろう?」


ソウタ「そうだな……。」


俺たちが考え込んでいると……、


シス「おかえりーー!! 私の大事なペンダント!!」


俺が持ち下げていたペンダントをシスが発見して大声を挙げた。


ソウタ「あっ…見つけちゃったか。」


と言うか先に渡せよ、俺。


リョウスケ「星型でシスちゃんの名前が書かれているから間違いないな。」


シス「ありがとうーー! 取ってきてくれて!!」


シスのテンションが上がってきた。


ソウタ「はい、どうぞ。」


俺はシスにペンダントを手渡す。手渡す瞬間に、ペンダントに書かれている名前を見た。どうやら名前は英語で書かれているみたいだ。


Xisシス


……何で外国人みたいな英語表記の名前をしているんだろう。漢字で詩守シスという表記がだったはずだが……。確かシスのお婆ちゃんが作ったんだっけ?

……まあ、いいか。気にしないでおこう。


シス「そういえば、ソウタお兄ちゃん!!」


ソウタ「ん?」


シス「この前、私とソウタお兄ちゃんと私のおばあちゃんの3人で"おとぎ話"の話をしてのを覚えてる?」


ソウタ「え? あぁ、覚えてるけど…それがどうかしたの?」


シス「その時、私とソウタお兄ちゃんでこんなお話をしたと思うんだ!!」




……………。




『私、もう一つ、ソリシス彗星にまつわるお話知ってるよ!』


『ん? それは一体何なんだ?』


『これは私の親戚に教えてもらった話なんだけど、ソリシス彗星には人と人の『出会い』を紡ぐ彗星だっていうのを聞いたことがあるよ!』


『へー…《出会い》か。人同士の巡り合わせを生み出すって感じか…? ……それも幸運の天使様の力なのかも知れないな。』


『ひょっとしたら私がソウタお兄ちゃんやリョウスケお兄ちゃんに出会えたのもソリシス彗星のおかげなのかも知れないって思ってるんだ!』


『ははは、流石にそれはないだろう。その考え方も面白いとは思うが、俺たちがシスちゃんと出会ったのは彗星の降る前の出来事だろう? 彗星のおかげで出会うなら、降った後に出会うのが普通なんじゃないのか?』


『もー、夢がないなぁ…。彗星の出会いの効果が実際に降る時よりも前って可能性もあるじゃない。』


『んー、解釈の都合が良すぎないか? シスちゃんがペンダントを探してたところにたまたま俺たちが居ただけかも知れないじゃないか。』


『むー…じゃあ、こうするよ!』


『ん? なんだ?』


『彗星が降る日までに、彗星と私たちの出会いとを繋ぐ何かを探してみせる! ソウタお兄ちゃんにもちゃんと納得してもらえるような何かを!!』


『それはまた…思い付きだな。なんで彗星が降る日までなんだ? 別にゆっくり見つければいいじゃないか。』


『降る日までに見つけたいの! 数十年だっけ…?に一度の彗星を堪能したいから!!』


『ふ、ふーん?』




……………。




ソウタ「あぁ…、あの時の会話のことか。」


リョウスケ「その話なら俺も知ってるぞ。昨日、ソウタに聞いたからな。」


シス「そう! 私たちを繋ぐモノ! ソリシス彗星が降る日までに見つける事が出来たよ!!」


ソウタ「へぇ…!」


正確には降る日は今日なのだが……。まぁ、細かいことは抜きだ。降る時間帯は夜遅くだから、降るまでには間に合ってると言えるだろう。


リョウスケ「おぉ…! 見つけること出来たのか!! 良かったな!!」


いや、リョウスケ軽すぎだろ。


ソウタ「で、何なんだ? その"私たちを繋ぐモノ"って?」


シス「えっとね……これは本当に偶然としか言えない事なんだけど……。」


ソウタ「ん? 何だ? めっちゃ気になってるぞ。」


シス「私たちの名前……、」


リョウスケ「名前?」


シス「2人の名前を頭文字を取って、私の名前と繋げた言葉が彗星の名前と同じになってるの……!!」


ソウタ「頭文字……、」


そう、それは本当に偶然だった。

シスが見つけてくれた俺たちを繋ぐモノ…、

それは彗星と俺たちを繋ぐ言葉だった。




志々目 草太 → 草太 → "ソ"ウタ →『ソ』

鞠宮 涼介 → 涼介 → "リ"ョウスケ →『リ』

神乃楽 詩守 → 詩守 → "シス" →『シス』


"ソリシス"彗星 →『ソリシス』




シス「どう? どうどう??」


ソウタ「……気付かなかった。」


と言うか、俺は何で気付かなかったんだろうか? 普通に気付きそうな事なんだが…。


シス「これで私たちの《出会い》が彗星によるものだと証明出来たね!!」


ソウタ「う、うーん。これは証明出来てるんだろうか…?」


俺は苦笑いをする。


シス「何で!? これもただの偶然で済ませちゃうの!? せっかく見つける事が出来たのに!?」


ソウタ「確かに証明したいと信じたいけど…、これって俺たちの《出会い》だけにしか共通点がないと思うんだけど…。」


俺は苦笑いを続ける。


リョウスケ「…まあ、ソウタ。せっかくシスちゃんが頑張って"俺たちを繋ぐ何か"を見つけてくれたんだ。信じてもいいじゃないか。」


相変わらずリョウスケのノリは軽かった。


ソリシス彗星って幸福の大天使が降らせた彗星の名前で、それによって栄えた国の名前でもあるんじゃなかったか…? 俺たちの名前とたまたま被ってただけなような気もするが…幸福の奇跡ってこの《出会い》のことを言うのだろうか?


ソウタ「…まあ、そうだな。せっかくの《出会い》なんだ。夢のある方向に考えた方がいいな…。」


……もう、何でもいいか。


ソウタ「じゃあ、夏祭りの時間まで適当に街をブラブラするとするか?」


リョウスケ「そうしようぜ。どうせ何もすることないんだからさ。」


シス「じゃあ、暇潰しに星がよく見られる場所でも探そうよ! 彗星の時間になるまでに!!」


リョウスケ「あぁ、それいいな!」


ソウタ「そうしようか。じゃあ行こうか、2人共。」

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