第13話 俺の記憶Ⅹ(ペンダント)

ソウタ「おはよう! 父さん! 母さん!」


父「お、おう…おはよう、ソウタ。」


母「なんか今日はヤケに元気ね?」


ソウタ「だって今日は年に一度の夏祭りの日だもん! それに今年は彗星も見られるんだぞ! 俺、超テンション上がってるんだって!」


父「あぁ、そうだったな。お前は毎年、この時期になるとやたら騒がしくなるもんな。」


今は朝の7時前か。一般的に見るとそれほど早起きとも言えないが、この夏休み中、ずっと昼過ぎまで寝まくってニートみたいな生活を送ってきた俺にとってなら、この時間帯に起きられることは十分早起きと言えるだろう。


母「ソウタは何かしらの楽しみなイベントやら何やらがある時にだけ早起きするものね。」


父「普段はしょっちゅう寝坊して、学校やらに遅刻してるのにな。」


父と母に笑われる。

まあ、別に構わない。事実だ。俺は普段の学校ならしょっちゅう遅刻しているのだが、修学旅行や遠足やらで遅刻したことは一度もない。むしろ一番乗りで学校に到着していた。

人間、やる気の起きないことに関しては時間にルーズになるのだが、楽しみなことを控えると俄然やる気が出てくるものだろう。


母「夏祭りのニュースやってるよ。」


ソウタ「あっ、教えてくれてありがとう、母さん!」


台所のテレビに映っているニュースを見る。


『次のニュースです。数十年に一度しか降らないと言い伝えられている”ソリシス彗星”が本日の夜に流れることが数日前から判明しております。本日は天候にも恵まれており、日本全国、朝から夜まで快晴との予報が出ております。星に興味がある人もそうでない人も、この機会に一度、天体観測に出掛けてみてはいかかがでしょうか?」


…なんか無難なことしか言ってないな。


『日本で一番良く観測できると予想される場所は○○県の○○町となっております。○○町では本日夏祭りを決行する日となっており、偶然にも打ち上げ花火に混じって観測されると踏まれており、とても綺麗な夜空の情景が浮かばれると推測されています。この機会に一度、○○町の夏祭りに出掛けてみてはいかがでしょうか?」


…おやおや、ご丁寧に俺たちの町のことまで紹介してくれている。


ソウタ「なぁ、母さん。夏祭りって夕方頃からだよな?」


母「そうだと思うよ。というか毎年そうじゃない。16時か17時ぐらいから始まるんじゃないの?」


ソウタ「んー、まあそれぐらいか。じゃあ朝ごはん食べ終わったらすぐに、出掛けてくるわ!」


母「えっ、もうそんな早くから行くの?」


ソウタ「話しただろ? 俺、約束してるんだよ。」


母「あぁ、友達と一緒に夏祭りに行くって言ってたやつね。こんな朝っぱらから待ち合わせしてたの?」


ソウタ「うん、朝は神社に行く予定だから。」


母「神社? 昨日、雨宿りさせてもらってた神社?」


ソウタ「そう、神社。そこに探し物を預かってくれてる神主さんがいるんだ。ちょうど夏祭りに行った時に神社には必ず寄るから朝から行ってても別に良いんじゃないかなって思ってさ。」


母「夏祭りの準備で忙しいんじゃないの?」


ソウタ「いや、昨日神社で話した時には、神主さんが別に朝から来ても良いって言ってくれてたぞ。」


母「あっ、そうなの……、じゃあ気をつけて行って来なよ…?」


ソウタ「うん、分かった…って、ご飯は?」


母「ちょっと今日、仕事が行くの早くてご飯をする間がなかったの。だから代わりにお金をあげるからそのお金で朝ごはんを自分で買って食べてね。夏祭りのお小遣いも兼ねてるから考えながら使いなよ。」


ソウタ「母さんは来ないの?」


母「いや、だから仕事だって言ったでしょ。今日の帰り遅くなりそうなの。今年の夏祭りは行けそうにないの、ごめんね。」


ソウタ「そうか…父さんは来ないの?」


……………。


ソウタ「あれ? 父さん?」


辺りを見渡すと父さんの姿はもう無かった。


母「父さんはもう仕事に行ったよ。父さんも忙しいんだってさ。」


ソウタ「そうなのか……残念だな。」


母「でも今年は友達と一緒に行く予定を先に立ててたんでしょう? だったら存分に楽しんできなさいよ。」


ソウタ「了解! 毎年の通り、今年も精一杯楽しんで来るとするよ。」


母「行ってらっしゃい。夏祭りではっちゃけ過ぎて、事故ったりしないように気をつけなさいよ。」


ソウタ「いやいや! 大丈夫だよ! 俺はそんなドジしないって!!」


そうして俺は、母さんからお金を受け取り我が家を後にした。


ソウタ「行ってきますー。」


母「じゃあねー。」




______________________




ガチャ。


ソウタ「フゥ〜、今日は良い天気だな。」


シス「おはよう!! ソウタお兄ちゃん!!」


ソウタ「うわっ…!」


ドアを開けるとそこにはシスの姿があった。急に出てくるもんだからビックリした。


ソウタ「やぁ、おはようシスちゃん。」


リョウスケ「よう、ソウタ。ニートのお前でも一大イベントの日は流石に外に出る気になってるんだな。」


笑いながらリョウスケがシスの後ろで突っ立っている。

正直言って、リョウスケのウザ絡みはもう慣れた。


ソウタ「おっと。リョウスケも来ていたのか。」


リョウスケ「いや、そりゃ来てるだろ。お前の家の場所を知らない小学生のシスちゃんが、何で1人でお前ん家まで来れるんだよ。」


ソウタ「まあ、そりゃそうだな。…じゃっ、神社行くか?」


シス「そうそう! 私のペンダント見つけてくれたんだって!? リョウスケお兄ちゃんに聞いたよ〜!」


急にドでかい声でシスが叫ぶ。


ソウタ「あぁ、そうだ。ペンダントは見つかったよ、シスちゃん!」


シス「どこで見つかったの!? どこを探しても全然見つからなかったのに!」


ソウタ「ん? あ、あぁ……何故か神社に落ちてたんだよな……。」


シス「へぇ……神社って、東雲神社……?」


ソウタ「あぁ、そうだ…って、よく分かったな。」


シス「この街に神社って少ないし、それに夏祭りと言えば東雲神社かなぁって思っただけ! ただの勘だよ!!」


ソウタ「そうか……。」


リョウスケ「そう言えば、何で神社なんかで見つかったんだろうな。シスちゃんの家から公園までの道とは大分、け離れてると思うんだが…。」


ソウタ「ん…あぁ…それもそうだな…。……誰かが拾って神社に移動させたんじゃないか…?」


リョウスケ「何の為に…?」


ソウタ「えっ、いや……それは分かんないんだけど……。適当に言ってみただけさ。」


シス「神社に置き去り…? 私のペンダント…。」


リョウスケ「違う違う! 神社の神主さんがちゃんと取って保管してくれてるぞ! 帰り際、明日取りに行くって約束してきたんだよ!」


シス「あっ……そうなんだね!!」


リョウスケ「じゃあ…早速、ペンダントを神社に取りに行くか?」


ソウタ「そうだな。早く取りに行かないと夏祭りが始まる時間になってしまうからな。」


…まあ、まだ朝なんだけど。


リョウスケ「あぁ、じゃあ出発するか。」


シス「おーーー!!」




そうして俺たちは、東雲神社へと出発した。

シスのテンションが上がっているのはペンダントが見つかったからだろうか。

まあ、さっさとペンダントを回収して来るとするか。




ソウタ「あ。そう言えばシスちゃんに昨日神主さんに聞いた話でもしてみる?」


俺は不意に思い出し、リョウスケの耳元に囁く。


リョウスケ「ん? 昨日の話って?」


リョウスケも俺の耳元に囁き返す。


ソウタ「昨日の神主さんに聞いた12年前の話だよ。」


リョウスケ「あ、あれか。シスちゃんに似てる子が登場する話か。」


ソウタ「そうそう、それそれ。」


リョウスケ「んー…まあ、神社ってそれほど遠くないから、着いた後でもいいんじゃないか? シスちゃんも早くペンダントを自分の元へ戻って来て欲しがってるしな。別に話しながらでもいいんだが、神社に行けばソレ系の話題が神主さんから出てくると思うぞ。」


ソウタ「あー…、それもそうだな。そうするか…。」


シス「ソウタお兄ちゃんもリョウスケお兄ちゃんも何コソコソ話してるの…?」


ソウタ「あっ、いや、何でもないよ! 朝ごはん食べてなかったから腹減ったなーって話してたんだ。」


嘘だ。話すと長くなってしまいそうだったから適当なことを言って誤魔化してみた。


シス「ふーん…?」


シスは何やら不思議そうな顔をしたっきり、それ以降は何も喋らず、黙々と神社へと向かって歩き続けた。




さぁ、もうすぐ東雲神社に到着だ。

待ちに待った、シスとペンダントの再会だな。

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