第12話 俺の記憶Ⅸ(酷似)

ショウゾウ「今から12年前、ソリシス彗星が降る前の日のことじゃ。その日のワシは今日と同じように神社を掃除しておった。すると本殿の前に、今日と同じように誰かが置き忘れたかのように小さな装飾品が落ちていたんじゃ。」


ソウタ「それって…今回と同じペンダントですか…?」


ショウゾウ「いいや、違う。形は似てはおったが、何やら手?に付けるような装飾品だったんじゃよ。」


ソウタ「へぇー…。」


手に付ける装飾品…? ブレスレットみたいな腕輪的な物とかか…?


ショウゾウ「その頃のワシも困ったんじゃよ。誰かの忘れ物かも知れんし、勝手に捨てたり違う場所に持って行ってしまったら、取りに帰ってきた持ち主に悪いと思ってな。」


リョウスケ「それで…どうしたんですか…?」


ショウゾウ「神社で預かっておくことにしたよ。その頃のワシも現在と同じように、神社の前をゆく人ゆく人に話しかけて持ち主を探したさ。」


リョウスケ「それで…結局、持ち主は見つかったんですか…?」


ショウゾウ「ああ、見つかったよ。」


ソウタ「どんな人だったんですか…?」


ショウゾウ「ん? ああ、小さな女の子じゃったよ。」


ソウタ「へぇ………。」


ショウゾウ「その子、必死にその腕輪を探していてな。2、3日の間、どこかに落っことしたままで気付かなかったらしいんじゃよ。」


リョウスケ「へぇ………。」


ショウゾウ「持ち主が見つかった日も今日の様な雨の日じゃった。腕輪を探していたその女の子がたまたま神社の前を通り掛かってな。その時にワシが、『なぁ嬢ちゃん、この腕輪の持ち主を知らぬか?』と訪ねたんじゃよ。そしたらその子は『あっ、それ私のブレスレット……!!』と言い返して来たんじゃよ。」


ソウタ「………そうなんですか。」


ふーん………。


ショウゾウ「その子は本当に喜んでいたさ。なんせその子の誕生日に貰った腕輪だったらしいからな。」


ソウタ「えっ………。」


は………何だって………?


ショウゾウ「確かその子のお婆さんから貰った腕輪だそうじゃぞ。確かその年で9歳になったと言っていたな。」


ソウタ&リョウスケ「……………。」


え………嘘だろ………?


ショウゾウ「まあ、昔話と言ってもそんな大昔でもない、ちと大袈裟すぎたな。たかが12年前、実際に起こった出来事だと言うだけの話じゃよ。」


ソウタ&リョウスケ「……………。」


ショウゾウ「だから今日、12年前のあの日と同じようにまたソリシス流星群が降る数日前にこうやって私物品を神社に落としたか置き忘れたかは知らんが、残されてるのは凄い偶然じゃなぁ…とワシは思ったんじゃよ。」


ソウタ&リョウスケ「……………。」


ショウゾウ「………って、ん?」


ソウタ&リョウスケ「……………。」


ショウゾウ「どうしたんじゃ…? 2人とも黙りおって………。」


……………。


ソウタ&リョウスケ「……………。」


ショウゾウ「……ん?」


……………。


ソウタ「なぁ、リョウスケ……。」


俺はリョウスケの耳元に囁く。


リョウスケ「ん……あぁ……。」


ソウタ「何だよコレ…?」


リョウスケ「ん……いや……俺に何だと言われても……。」


ソウタ「これって12年前にあった話だよな…?」


リョウスケ「あぁ…そうだが…神主さんが言ってたじゃないか…。」


ソウタ「何か……気持ち悪くないか……?」


リョウスケ「えっ………何でだ………?」


ソウタ「いや『何でだ』って…分かるだろ…。ちょっとシスちゃんに似過ぎてないか…?」


リョウスケ「ん……まぁ、俺も思ったんだが……。」


ソウタ「俺たち、シスちゃんのこと神主さんに話したっけ…?」


リョウスケ「いや、話してないと思うぞ。『持ち主を知っているかも知れない。』とは伝えたが。」


……………。


ソウタ「あの……一つ聞いてもいいですか……?」


ショウゾウ「うん? あぁ、良いが……、なんじゃ……?」


ソウタ「その女の子の名前って…聞いてたりしますか……?」


ショウゾウ「んん……覚えとらんなぁ……名前言ってた覚えはあるんじゃが……。」


ソウタ「……そうですか……。」


……………。


ソウタ「あの……実は俺たちが知ってるかも知れないと言ったそのペンダントの持ち主って……そのブレスレットの持ち主に凄く似ているんですよ……。」


ショウゾウ「ほう……? それはどういう……?」


ソウタ「実は俺たちの知ってるかも知れないと言ったペンダントの持ち主も小さなの女の子なんです。最近知り合ったばかりだから、あの子のことはまだよく知らないんですけど……その子もお婆さんに誕生日プレゼントで貰ったものだって言ってて……俺はそのお婆さんにも会ったんですけど……。」


ショウゾウ「なんじゃと…!? それはそれは……凄い偶然じゃのう……。」


リョウスケ「………。」


リョウスケは黙って聞いている。


ソウタ「ねえ、神主さん。何とかして、12年前のブレスレットの持ち主の名前って…分かりませんか…?」


でもなぁ…この老いぼれのワシが12年前、神社に訪れた人物の名前など覚えてるわけがないしのう…。」


ソウタ「そうですか……。」


せめて名前だけでも知りたかったな……。


リョウスケ「………というか、ソウタ、」


ソウタ「ん?」


黙って俺たちの話を聞いていたリョウスケが久々に口を開いた。


リョウスケ「さっきからお前、何で12年前の女の子の名前なんて知りたがるんだ?」


ソウタ「え………。」


リョウスケ「12年前の人がシスちゃんかも知れないと思ってるのか?」


ソウタ「いや…名前だけが知りたかっただけで…、」


リョウスケ「名前なんて知ったところで意味ないだろ。だって12年前に神社に訪れた人間だぞ? 確かに境遇は似てるかも知れないが、そんな子の名前を俺たちが知ってどうするんだよ。」


ソウタ「い、いや……シスちゃんに似てるからちょっと名前とかが気になった、ってだけで……特に深い意味はないよ。もしかしたらその子もシスちゃんだったのかも…って思っただけさ。」


リョウスケ「いやいやいや、シスちゃんなワケないだろ。」


リョウスケが笑い出す。


リョウスケ「その子は12年前の人間なんだぞ? シスちゃんは今、9歳なんだぞ? まだ産まれてすらいないじゃないか。それに仮に生まれてたとして、年はとってるはずだぞ、何でずっと『9歳』のままなんだよ。」


リョウスケはまだ笑っている。


ソウタ「……まあ……確かにそれもそうだな……。」


リョウスケ「もしかしてソウタ、アニメや漫画の見過ぎで不老不死にでも感化されちまったりしたのか?」


リョウスケはずっと笑っている。

俺もリョウスケに連なって微笑を浮かべる。


ソウタ「ははは……。」


何故だろう…? 俺はその子の名前が知りたかった。何故だかは分からない。別に、どうしても知らなければならない理由があるわけじゃない。普通に考えれば有り得ないことなのだが……何故かその時の俺には、神主さんの語った12年前の女の子がシスであるような気がしていたんだ……。


リョウスケ「確かに凄い偶然だが、これもソリシス彗星のもたらす偶然という名の奇跡だったりするのかも知れないぞ。」


リョウスケがようやく笑い終えて、俺に良い笑顔で微笑んで来る。


ソウタ「そ…そうだな。俺もそう思おうことにするよ……。」


俺もリョウスケに微笑み返す。


リョウスケ「さっ、気分転換に他のお話でも聞かせてくださいよ! ねえ、神主さん!!」


ショウゾウ「お…おう。そうじゃな…!」


リョウスケの急なテンションの上がり様に神主さんは返答に困っていた。




それから夏祭りのことなどについて、神主さんが色々とお話してくれた。だが、神主さんが12年前のブレスレットの持ち主である女の子の名前を思い出すことは一切無かった。






ショウゾウ「おっ、雨が止んでいるぞ…!」


リョウスケ「あっ、ほんとですね…!」


見ると、さっきまで大量に降っていた雨が引いていることに気づいた。話に夢中になりすぎたせいか、いつ雨が止んだのかさっぱり分からない。ただ、もう外は真っ暗だ。いつまで降ってたんだよ、この雨。……じゃなくて、長いこと話し続けたのは俺たちの方か。雨はとっくに止んでいたのかも知れないな。


ショウゾウ「じゃあ、お主ら…そろそろ帰るか…? それとももう遅いし泊まっていくか…?」


ソウタ「いえ……大丈夫です。そこまで迷惑かけられないですよ。」


ショウゾウ「じゃあ…せめて送ってやろうか…? 夜道は危ないかも知れんからな……。」


ソウタ「いえ、それも大丈夫です。俺たち2人で帰れるし、自分らの家結構近いんですよ。それにこれ以上お世話になるわけにもいきませんから。」


ショウゾウ「そうか……じゃあ気をつけて帰るんじゃぞ、2人共。」


ソウタ「はい、ありがとうございました。お話楽しかったです。」


リョウスケ「饅頭おいしかったです!! 良ければまた夏祭りで会いましょう!! さよならー!!」


ショウゾウ「ああ、またな。」




こうして俺たちは東雲神社を後にし、リョウスケと共に帰路に着いた。




そしていよいよ明日は夏祭りの日。そしてソリシス彗星が降る日だ。

明日は朝一でニュースや新聞を見て、一番に星が綺麗に見れる場所を正確な場所や時間帯を確認しよう。今日は明日に備えてさっさと寝るとするか。

リョウスケとは明日は朝から一緒に街に出かけることを約束した。あとシスとも連絡を取らないとダメだな。夏祭りが始まるまでに神社にペンダント回収に連れて行ってあげよう。


ソウタ「さあ、明日も一日頑張るぞ!!」


そう思うと俄然、やる気が出てきた。

俺は家に帰ると時間は夜の9時過ぎだった。帰宅時間が深夜にならなくて本当に良かった。俺の両親には今日のあった出来事と、明日夏祭りに行く予定を打ち開た。父さんも母さんも夏祭りは楽しんで来いよとの事だ。……まあ、毎年の事なのだが。俺は速攻でご飯をたらい上げて、高速で風呂に入って、迅速なスピードで布団の中に潜り込んだ。




一年に一度のお祭り騒ぎ。俺たちの暮らしているクソ田舎町が唯一、栄える時期。

今思えば俺は夏祭りやら彗星やらで、少々浮かれていたのかも知れない。






そうして俺は次の日___、

短い生涯で最後の一日を過ごすこととなる___。




<__俺が死ぬまで、あと1日__>

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