第11話 俺の記憶Ⅷ(神社)

ソウタ「えっと…どなたですか…?」


俺は訳も分からず、その老人に話しかける。


老人「おお…すまん、挨拶もせずにいきなり話しかけて申し訳ない…。」


なんかどこかで見たことある人のような…?


ショウゾウ「ワシの名前は東雲シノノメ 正造ショウゾウ。そこの神社で神主をやっておる。」


ソウタ「あっ…神主さんか…。」


どうりで見覚えがあったわけだ。俺たちの町の夏祭りは河川敷の出店も名物なのだが、この神主さんの住む『東雲神社』が中心となって、執り行われる。それだけでなく、俺たちの住んでいる町では新年の初詣なども一番人集ひとだかりが出来る神社でもある。


リョウスケ「それで…その神主さんが俺たちに何の用でしょうか?」


ショウゾウ「だから言ったじゃろう…これはお主たちの物なのか?」


神主さんは何かを手に持っている。


ショウゾウ「ついさっき神社の本堂の前に置かれていたんじゃが…誰かの忘れ物かと思って、神社の近くを通る一人一人に尋ねてるんじゃよ。もしかしたら持ち主が帰ってくるかも知れんからな。」


ソウタ「そうなんですか……でもそれは俺たちのものではないですよ。見たこともないですし。」


ショウゾウ「そうか………。」


リョウスケ「ところでそれ…何ですか…?」


ショウゾウ「んー…分からんな…。ネックレスなのじゃろうか…? ワシもこんなものを見るのは初めてじゃから…ひょっとして人の作ったものではないだろうか…?」


リョウスケ「へぇ…、俺にも見せてください。」


ショウゾウ「これは手作りの代物じゃろうか…? 真ん中に星型のような模様があるな…。」


ソウタ「………。」


リョウスケ「………。」


………え? 今なんて言った…?


ショウゾウ「…ん? どうしたんじゃお主ら? 急に黙り込んで………。」


ソウタ「………ペンダント。」


ショウゾウ「…え?」


リョウスケ「それ、ペンダントだと思います…。」


ショウゾウ「ペンダント…? ネックレスのような装飾品か?」


ソウタ「本堂の前に置かれていたんですか…?」


ショウゾウ「あぁ…そうだと言ったが……、なんじゃお主ら? この装飾品に見覚えがあるのか? それとも持ち主なのか?」


リョウスケ「いえ…見覚えはありませんし、持ち主でもありません……。」


ショウゾウ「ならどうしたんじゃ……?」


リョウスケ「ただ………、」


ショウゾウ「ただ?」


ソウタ「俺たち……そのペンダントの持ち主を知っているかも知れないんです…というか、ほぼ確信に近くて……。」


ショウゾウ「ほう? お主らが持ち主という訳ではなく、持ち主を知っている可能性があるというのか?」


ソウタ「はい……。」


ショウゾウ「……そうか、ではどうしようか……。」


リョウスケ「俺たちがそのペンダントの持ち主であろう人に届けてきましょうか…?」


ショウゾウ「うーむ……そうじゃな……それでもいいんじゃが……、」


リョウスケ「何かまずいことでもあるんですか?」


ショウゾウ「いや…考えたくはないんじゃが、お主達に任せて届ける前にまた失くしたり盗まれたりしても困るじゃろう…?」


リョウスケ「あ……それもそうですね…。じゃあどうすればいいのでしょうか……?」


ショウゾウ「そうじゃな…、明日まで神社で保管しておくから、また明日になったら持ち主を連れて来てくれんか…? 今、夕方じゃし…もうすぐ夜になるだろうから、遅い時間にわざわざ来てもらうのも悪いからな……。」


リョウスケ「そうですか……分かりました。」


明日…祭り当日の昼か。まあ、祭りは夜だから夜になる前にはペンダント回収できるか。そして俺はリョウスケの方を向いて囁く。


ソウタ「…なあリョウスケ。これってシスのペンダントで合ってるよな…? 星型のマークが付いてるし……、」


リョウスケ「ああ、そうじゃないか? それにしても良かったな。夏祭りや彗星が見られる時までに見つけられて。」


ソウタ「何で神社の本殿前になんて置かれてあったんだ…?」


リョウスケ「さあ? 誰か知らないけど、親切な人が拾ってくれて神社に届けてくれたんじゃないのか? せっかくそれっぽい物が見つかったんだし、あまり深くは考えないようにしようぜ。」


ソウタ「……………分かったよ。」


俺は頷く。落し物を拾ったら神社じゃなくて交番に届けるのが普通だと思うが…。


ソウタ「ちなみにいつ、そのペンダントはこの神社に置れてたんですか…?」


ショウゾウ「ん? ああ、今朝8時頃だったか? 本殿近くを掃除していた時にたまたま見つけたんじゃよ。いつから置かれてたのか、詳しいことはワシにも分からん。」


ソウタ「……………そうですか。」


……まあ、よく分からないが深いことは俺も気にしないでおこうか。正直、考えるのが面倒臭くなってきた。見つかったならそれでもういいじゃないか。


リョウスケ「それにしても雨、止まないなー…。」


ソウタ「ん? あぁ…そうだな…。」


それどころか雨がかなり強くなってきた。流石にこの雨の中を傘1本で帰ろうとするのはただのバカだ。


ソウタ「……どうしようか。」


リョウスケ「うーん……。」


俺とリョウスケが悩んでいると……、


ショウゾウ「良ければ神社の中で雨宿りしていくか…?」


神主さんが俺たちに提案をしてくれた。


ソウタ「あっ…じゃあお願いします…。」


せっかくだ。どうせなら雨宿りしていくか。明日は夏祭りだ。雨の中を傘1本だけで濡れて帰って風邪でも引いて明日の予定がブッ潰れるよりかはよっぽどマシだ。どうせ今すぐ帰らなくちゃならない用事があるわけでもない。




__________。




リョウスケ「神社の中って思ってた以上に広いんだな。」


ソウタ「んー…そうだな…。」


ショウゾウ「まあ、ゆっくりとくつろいでてくれ。」


リョウスケ「あっ、はい。分かりましたー。」


すると神主さんは神社の奥の方へと消えた。


東雲神社の中はただただ、だだっ広い民家の様な間取りだった。基本的に殆どの部屋が和室で、その昔ながらの雰囲気とは打って変わって、最新の電化製品(主にテレビなど)が設置されている。


……………。


しばらく神社の中を眺めているとすると、奥から向こうから神主さんが戻って来た。


ショウゾウ「もう晩御飯の時間が近いし、腹が減っただろう。饅頭でも食って行くか?」


ソウタ「あっ…お言葉に甘えてじゃあ頂きます…。」


俺は神主さんに差し入れられた饅頭を口に運ぶ。


ソウタ「………(以外に美味いな)。」


リョウスケ「雨が止むまで何する? 俺、何も暇潰しできるような物は持ってないんだが……。」


ソウタ「んー…そうだな…。」


ショウゾウ「夏祭りの話でもどうじゃ? もう明日に迫ってることじゃし…毎年来てくれているお主らなら、東雲神社の夏祭りの事については多少詳しいのではないのか?」


ソウタ「えっ…まあ、別の街から訪れた人に比べたら詳しい方だとは思いますが……。」


唐突に変なことを聞かれる。まあ、答えやすい質問だし、夏祭りの話をするのは俺も楽しいから別にいいのだが。


リョウスケ「でも、夏祭りの中心となる神社の神主さんの方が遥かに詳しいと思いますよ。」


リョウスケは少し笑っている。正直、俺もそう言おうと思っていた。


ショウゾウ「なら、少しだけ夏祭りの話をせんか? 今年は彗星も降るみたいじゃないか? 退屈凌ぎにワシと話しでもどうじゃ?」


ソウタ「あっ…いいですよ。彗星の話なら俺たちも是非、したいです。」


神主さんって彗星のこと知ってたのか。…って、まあテレビで散々やってたからそりゃ知ってるか。


ショウゾウ「実は彗星のことなのじゃが…、」


リョウスケ「…彗星がどうかしたんですか?」


ショウゾウ「実はな、その彗星が前に降ったのはもう12年も前のことになるんじゃよ。」


ソウタ「へぇ……。」


俺が5、6歳の頃か。夏祭りや彗星にまるで興味のなかった年頃だ。正直言って降ったのかどうかすら、全然覚えてない。


ショウゾウ「そしてな、その12年前にも今と同じような事があったんじゃよ。」


リョウスケ「今と同じような事って、どういう事ですか?」


ショウゾウ「その装飾品…ペンダントとやらに似た様な事じゃ。」


ソウタ「え…ペンダントですか…?」


……神主さんは静かに話しを始めた。




また昔話か__。この街の人たちはみんな昔話を語るのが好きなのか?


…おっと違うか。シスの祖母に聞いたのは”昔話”ではなく”おとぎ話”だった。

つまり今から神主さんが話すことは実話って訳か___。


正直どんな話しをするかは知らないが、不意に見つかったペンダントと何か関わりがあるというのなら凄く興味が湧いてくる。


とりあえず、聞くだけ聞いてみるとするか___。

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