第10話 俺の記憶Ⅶ(偵察)

ソウタ「ふわぁぁあ~。」


今日もまた、気だるい朝がやって来た。


ソウタ「土曜日かー…。」


そう、今日は土曜日。例の夏祭りが行われる前日になるのだ。


ソウタ「どうせ暇だし、シスちゃんのペンダント探しにでも行くか。ついでに夏祭りの準備をしてる風景でも見に行ってみるか。」


流石に前日となると出店やイベント・催し物など、そこそこの準備は出来ている筈だと思う。今年はどんな出店が出るのだろうか。適当に見物でもしに行って夏祭りを周る手順でも適当に下調べして置くか。



__________。



外に出る。


ソウタ「………ん?」


何やら少し雲行きが怪しい。


ソウタ「……今日って雨降るのかな。」


天気予報を見ていないから分からないが、いつ降り出してもおかしくないくらいに空が曇っている。


ソウタ「一応、傘持っとくか…。」


俺は玄関の傘立てに突っ込んである使い捨てのビニール傘を一本抜き出して出かけることにした。



__________。



外に出てから数分。俺はシスのペンダント探しをしていたが……。


ソウタ「…というかもう、なくしてから3日ぐらい経つぞ。本当に見つかるのかよこれ………。」


しかも今日は今にも雨が降りそうな曇り空。ただでさえ薄暗くてペンダント探し何てやってられるような天気ではない。


ソウタ「……帰ろうかな……。」


シスには悪いけど、明らかにペンダントなんて見つかる気がしない。思いっきり晴れてる日に3日ほど探して見つからなかったのだ。今更、こんな天気で見つかる訳がない。降って来る前にさっさと帰るとするか…。


ソウタ「………………。」


そう思って、俺は帰ろうとした時だった。


リョウスケ「おう、ソウタ。珍しく今日も外に出てんのか。雨が降りそうだってのに、こんな場所で何してんだ?」


ソウタ「……リョウスケか。」


まだ珍しくなんて言ってるのか、ここ最近は家でいることの方が少ないぞ。


ソウタ「ちょっと夏祭りの準備の様子でも見に行こうかなって…ついでにシスちゃんのペンダントでも探しながら……。」


リョウスケ「おっ、そうなのか? 俺もちょうど暇だったから夏祭りの準備の様子を見に行こうと思ってたんだよ!」


ソウタ「あ、そーなの? んー…じゃあ一緒に行くか? 雨降りそうだけど…。」


リョウスケ「行こうぜ、行こうぜ!! 俺も傘持って来てるから大丈夫だって!! 雨が強くなる前に撤退すればいいし!!」


ソウタ「あ、あぁ…じゃあ行くか。ペンダントもついでに探しながらな。」




そうして俺は、昨日あった出来事をリョウスケに教えながら歩いていた。



__________。




リョウスケ「へぇー、彗星にはそんなおとぎ話があるのか。」


俺は昨日、シスのおばあちゃんに教えてもらったおとぎ話をリョウスケにも教えてみた。


ソウタ「どうだ? 信じるか信じないかは別として、なかなか夢のある話だとは思わないか?」


リョウスケ「そうだな…確かに夢はあるけど…。」


ソウタ「何だ? リョウスケは、こういった類の話を信じない側の奴なのか?」


リョウスケ「まあ、夢はあるっちゃあるとは思うんだが…、所詮おとぎ話感覚で聞いちまう派なんだよなー、俺は。」


ソウタ「………そうか。」


リョウスケ「ソリシス王国なんて、全然現実的じゃないと思うぞ。まるでアニメや漫画のような世界じゃないか。」


ソウタ「ま…まあ、そうだけど…、それを言っちまったら元も子もないと思うぞ。」


言い伝えみたいなものなんだからアニメっぽくても別にいいじゃないか。そんなこと言ったら、桃太郎だって浦島太郎だって現実的じゃない。


リョウスケ「ソウタは信じてるのか?」


ソウタ「え? まあ、そこそこは信じてるかな…。」


まあ、ぶっちゃけ言って俺もそれほど信じてはいない。話自体は夢があって好きなのだが。


リョウスケ「そうか…でも俺は信じたいって気持ちはあるさ。だから、半信半疑ってところかな…。」


ソウタ「そうか………。」


リョウスケ「………でも、」


ソウタ「ん? でも…?」


リョウスケ「シスちゃんが言ってたってゆう、その『出会い』の話は信じるかな。」


ソウタ「そうなのか?」


リョウスケ「ああ、というかむしろ信じてやりたい。」


ソウタ「非現実的な話は信じないんじゃなかったのか?」


リョウスケ「確かにそうだけど…でも『出会いを紡ぐ』ってことは『縁結び』みたいなものだろ? それなら神社や寺みたいなものじゃないか。実際俺たちとシスちゃんは出会ってるんだしさ。」


ソウタ「んー……。」


昨日のシスもそうだが、いまいち解釈の仕方が俺には分からない。信じるなら全部信じて、信じないなら全部信じなくていいと思うんだが…。特にリョウスケに至っては気分次第で物事を信じていないか?


リョウスケ「で? シスちゃんが、彗星と俺たちの出会いを繋ぐ何かを探してくれるんだって?」


ソウタ「そうだが……。」


リョウスケ「それは楽しみだなぁ!! どんな意味があるんだろうか!!」


ソウタ「意味って………。」


リョウスケやシスには悪いのだが、はっきり言って大袈裟過ぎると思う。俺たちとシスなんて、偶然ばったり出会っただけだろ。まあ、彗星や夏祭りに関しては、俺も凄く楽しみにしてるっちゃしてるんだけど。


ソウタ「まあ、俺だって彗星が見られるのは楽しみにしてるさ。俺にだって、俺たちとシスちゃんとの出会いを繋いだ『意味探し』にも興味があるよ。」


リョウスケ「だよなぁ! ソウタだって興味あるよなぁ!! 流石、俺の親友だぜ!!!」


ソウタ「ははは………。」


何でこんなに元気が良いんだ、コイツは。




__________。




リョウスケ「へぇー…今年も結構、出店が出るんだなぁー。」


雑談をしながら歩いていると、何やかんやで夏祭りの会場(河川敷)へと着いた。適当に出店の看板を読み漁る。


『たこ焼き』『焼きそば』『フライドポテト』『りんご飴』

『たい焼き』『くじ引き』『射的』『栗』『綿飴』


……セオリーというかオーソドックスというか。今年も決まって、極普通の出店ばかりだな。


ソウタ「今年はどの辺から周る?」


リョウスケ「そうだなー…まあ、成り行きでいいんじゃないか? いつも通りの夏祭りっぽいことが把握出来たんだからさ。」


ソウタ「…それもそうだな。じゃあ雨も降って来そうだし、さっさと帰るとするか。」


俺がそう言った時だった。


ポツッ…ポツッ…ポツッ…。


リョウスケ「……あれ?」


ポツッ………ザーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


ソウタ「あっ……降り出した…。」


リョウスケ「あーあ…もうちょい早く帰ればよかったかな。」


ソウタ「…まあ、別にいいだろ。傘あるしさ。」


リョウスケ「それもそうだな。のんびり帰るかー。」


どうせ降るとは思っていた。雨くらいどうってことないさ。それより心配なのは………、


ソウタ「雨って、いつまで降るんだろうな。」


リョウスケ「さぁ…明日の夏祭りの時間帯までには止んでて欲しいなー…。」


ソウタ「そうだな。俺もそう思うよ。」


まあ、少々の雨でも夏祭りはやると思う。一昨年の夏祭りなんてそうだった。途中から雨が降り出したが、夏祭りは終了の時間まで繰り広げられた。だから余程の大雨でもない限り中止にはならないと思う。


ソウタ「じゃあ、帰るか___、」


リョウスケ「おう___、」


雨が強くなる前にさっさと帰ってしまおうと思い、俺たちが帰路につこうとした時だった。




???「これはお主らの物かね?」




ソウタ「………え?」


振り返るとそこには、何やら見覚えのある老人が立っていた。

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