第9話 俺の記憶Ⅵ(おとぎ話)

ソウタ「幸せを司る神様……?」


シスの祖母「そう。幸せを司る神様だよ。」


ソウタ「そんな神様が居るんですか…?」


シス「私もお婆ちゃんから何度も教えてもらったよー。」


ソウタ「それがおとぎ話ですか…?」


シスの祖母「おとぎ話というか、言い伝えと言った方が正しいのかもしれないね。」


ソウタ「へぇ…。」


シスの祖母「その神様を見た人には幸福が訪れると言われているんだ。幸福の天使様とも呼ばれているよ。」


ソウタ「天使ですか…、その天使様は何か実績があったりするんですか?」


シスの祖母「これはただの迷信だから本当かどうかは分からないんだけど…、」


ソウタ「……はい。」


シスの祖母「昔、異界で貧しい国があったそうなんだ。その国には名前すらもない『名も無き国』だったらしいんだよ。」


ソウタ「へぇ……。」


シスの祖母「その名も無き国には食べ物も飲み物もほとんどなくて、次々と人間たちがえて行ったらしいんだ。昔は繁栄していた国だったらしいんだけどね。時代が流れ行く度に徐々に衰えて行って、遂には食料や水に尽きて行ってしまいには国が滅びる寸前まで行ってしまったらしいんだ。」


ソウタ「…………………………。」


俺は黙って聞くことにした。


シスの祖母「すると突然、見知らぬ少女が突然その国にやってきたんだよ。その少女は国の人々に対してこう言ったそうなんんだ。」


少女『私は創造神様に遣わされてこの国へとやってきた幸福の女神です。私が来たからにはもう安心してください。私は苦しむ皆様人間たち民の姿を見たくはありません。今からあなたたちの住むこの国に幸福の奇跡をお届けします。』


シスの祖母「そう言ってその少女の体が光り出して、その光が空へと舞い上がり国全体へと散ったそうだ。まるで彗星のように。」


ソウタ「それで……どうなったんですか……?」


シスの祖母「すると次々とその名も無き国に他の国などから水と食料が配給されて、あっという間に溢れんばかりの食料で埋まってしまったそうだ。」


ソウタ「へー……凄いですね……。」


シスの祖母「それだけじゃないぞ。その国は元々貧困の国だ。だから立派な建物がほとんどなかった。だがその少女の魔法によって、たちまち立派な王都が完成したのだよ。少女がただ祈っただけなのに。」


ソウタ「……なんか王道ファンタジーみたいな展開ですね。」


シスの祖母「そしてその王都が完成した後、少女は立ち去ろうした。その時、名も無き国の人々はこう言ったそうだ。」


人々『あなたはこの国を救ってくれた救世主です…!! 本当にありがとう! どうか、お名前だけでも聞かせていただけないでしょうか…!!』


シスの祖母「それに少女はこう答えたそうだ。」


少女『………私は、幸福の大天使ですから。皆さんを幸せにしてあげるのは当然の事をしたまでです。名前なんて名乗るほどのものじゃないですが……。』


人々『それでもいいので、是非お名前を……!! それとまた私たちの国へと来て頂けないでしょうか…!!』


少女『……私の名前は『……………』。創造神様に遣わされた、幸福の大天使。……また来るも何も私はずっと居ますよ。何故ならこの国の守り神を任されたんですから。』


…………………………。


シスの祖母「………と、まあこんな成り行きでその王国へと発展した国の名前は創造神様にソリシス王国と名付けられた。その国の名前を奇跡を起こした彗星にもそのまま当て取って、ソリシス彗星と名付けられたそうだ。」


ソウタ「へぇー……なんか漫画みたいな展開ですね。その天使の出した奇跡ってやつのおかげでその国は助かったわけですか。」


シスの祖母「まあ、ただのおとぎ話に過ぎないからね。信じるか信じないかは、ソウタ君次第だよ。」


ソウタ「何ですか、その都市伝説みたいな締め方は。……その幸福の大天使様の名前は分からないんですか?」


シスの祖母「いや、それは知らないね。自分の名前と自分の正体を国の人々に伝えたってことしか、私は知らないよ。」


ソウタ「……そうですか。」


何とも夢のありそうな王国だ。俺も一度でいいから行ってみたいな。

……まあ、おとぎ話の世界の王国に行くなんて、到底無理な話だと思うけど。


ソウタ「その国や彗星の名前の『ソリシス』っていうのは、どこから付けられたんですか? 由来とかあったりするんですか?」


シスの祖母「う〜ん…、そこまでは私も詳しくは知らなくてね…私の予想なら、もしかしたらその天使の名前とかだったりするのかも知れないよ。」


ソウタ「名前……か。」


確かにその可能性は高そうだ。何せ国を救った天使なんだから、国や彗星の名にその名前が使われていてもおかしくない。


シス「ねえねえ、ソウタお兄ちゃん。」


ソウタ「ん? どうした?」


シス「ソウタお兄ちゃんは迷信や言い伝えみたいなおとぎ話を信じる方? それとも信じない方?」


ソウタ「うーん…難しいな。話にもよるかな。今の幸運をもたらす天使の話は信じたいかな。もし本当に存在したら夢があるじゃんか。」


シス「私も信じてるよ! ソリシス彗星を見れば、その天使様に会える気がしてるんだ!!」


ソウタ「お、おう、そうか…はは、会えるといいな…。」


いや、会えるわけないだろ。俺は思わず突っ込みたくなったが、シスの妄想をブッ壊してしまうのも申し訳ないので黙っておくことにした。


シス「私、もう一つ、ソリシス彗星にまつわるお話知ってるよ!」


ソウタ「ん? それは一体何なんだ?」


シス「これは私の親戚に教えてもらった話なんだけど、ソリシス彗星には人と人の『出会い』を紡ぐ彗星だっていうのを聞いたことがあるよ!」


ソウタ「へー…『出会い』か。人同士の巡り合わせを生み出すって感じか…? ……それも幸運の天使様の力なのかも知れないな。」


シス「ひょっとしたら私がソウタお兄ちゃんやリョウスケお兄ちゃんに出会えたのもソリシス彗星のおかげなのかも知れないって思ってるんだ!」


ソウタ「ははは、流石にそれはないだろう。その考え方も面白いとは思うが、俺たちがシスちゃんと出会ったのは彗星の降る前の出来事だろう? 彗星のおかげで出会うなら、降った後に出会うのが普通なんじゃないのか?」


俺は冗談はよしてくれ的なノリでシスに返答する。


シス「もー、夢がないなぁ…。彗星の出会いの効果が実際に降る時よりも前って可能性もあるじゃない。」


ソウタ「んー、解釈の都合が良すぎないか? シスちゃんがペンダントを探してたところにたまたま俺たちが居ただけかも知れないじゃないか。」


シス「むー…じゃあ、こうするよ!」


ソウタ「ん? なんだ?」


シス「彗星が降る日までに、彗星と私たちの出会いとを繋ぐ何かを探してみせる! ソウタお兄ちゃんにもちゃんと納得してもらえるような何かを!!」


ソウタ「それはまた…思い付きだな。なんで彗星が降る日までなんだ? 別にゆっくり見つければいいじゃないか。」


シス「降る日までに見つけたいの! 数十年だっけ…?に一度の彗星を堪能したいから!!」


ソウタ「ふ、ふーん?」


いまいちよく分からない理由だが…、まあシスの思いのままにさせてあげよう。別に俺に不利益があるわけじゃない。それを見つけた時は、小さな子供の子供心だと思って寛大に聞いてあげようじゃないか。






シスの祖母「じゃあ…私たちはそろそろ帰るかい? シス。」


シス「うわ…もう真っ暗だ…。お話に夢中になっちゃってて全然気づかなかったたよ……。」


ソウタ「そうですね……じゃあ次会う時は夏祭りの日だな。…もしかしたら今日みたいに、明日もばったり会うかも知れないけれど。」


シス「そうだねー。今日もお話してくれてありがとう! じゃあまた今度ね〜 ばいばーい。」


ソウタ「ああ、またな。」



…………………………。



それにしてもあの彗星にそんな意味があったなんて知らなかった。それにシスのおばあちゃんが語ってくれた”おとぎ話のようなもの”も実に興味深くて面白かったと思う。リョウスケにも是非と教えてやろうと思っている。


ソウタ「はは、彗星と俺たちの出会いとの共通点か。」


そんなもの無理やり探さなくていいのに。どれだけ俺たちと関わることが気に入ったんだあの子は。ペンダントの件でよほど親切にされたことが嬉しかったのだろうか。そんなことは本人にしか知り得ない。……まあ、実を言うと俺もシスの『共通点探し』にちょっと期待してたりするのだが。




ソウタ「今日も疲れたな。さっさと帰ってご飯食べて風呂入って寝るか。」


まあ、今日もいつも通りと言えばいつも通りの日常だろうか。何だかんだ言って今日も疲れた。……まあ、大したこともしてないけど。夏休みになってからずっと引き籠ってたおかげで少し外に出るだけで無駄に疲れる。生活習慣も変えないといけないな。


ソウタ「明後日かー。」


そう、明後日。彗星を見られる夏祭りが2日後まで迫ってきているのだ。夏祭りを十分に堪能するためにさっさと寝て、体力を温存しておくのがいいな。




そうして俺は帰路に付いた。






2日後、俺は生涯忘れられない体験をする。

忘れられない? いや、忘れてはならない。


何故なら俺は2日後、家族や親友(リョウスケ)たちと、

”さよなら”をすることになるからだ。


思い出せ、今の自分。

忘れるな、俺の命日を。






<__俺が死ぬまで、あと2日__>

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