第8話 俺の記憶Ⅴ(祖母)

ソウタ「……10時か。」


今日は中途半端な時間に目覚めてしまった。シスのペンダントを探そうかとも思っていたのだが、流石に3日連続でペンダント探しは骨が折れる。……シスには悪いけど、今日は少し休んでから出かけるとさせてもらおう。


ソウタ「とりあえず昼まではダラダラ過ごすか。」


父と母は既に仕事に出かけており、既に家には居なかった。

そしていつものごとくカップ麺が置かれている。おそらく昼ごはん用だろう。

置き手紙を書くのもめんどくさくなったのだろうか、ただカップ麺だけが机の上に放置されているだけだった。


ソウタ「……………。」


いつもの如くゲームをしようかと思ったが…、ちょっと散歩でもしてこようか。それでもしリョウスケがペンダント探しの続きをしていたら手伝おう。脱・引き籠り達成を目標に掲げよう。俺が3日連続で外に出るなんて凄いことだぞ。


ソウタ「適当に散歩するか。近所を少し回る程度にしよう。」


…………………………。


ソウタ「……………。」


外に出た。公園の方はもう行くのはやめよう。昨日と一昨日の2日間ずっと歩き回ったせいで、道を見るのが飽きてしまった。


ソウタ「川沿いの方に行ってみるか。」


俺の町では1つの大きな川が流れている。川幅も広くて大きな橋もかっていたりする。


ソウタ「風に当たりたいなぁ。」


今日の気分は風に当たりたい気分だった。町では汚れた風が吹いていたりする。川は海と繋がっていることもあり、風は心地良いものなのではないだろうか? まあ、適当に考えてみたことだけど。


そうして俺は、ただ風に当たりたいだけという大したあてもなく河川敷の方向へと行くことに決めた。




…………………………。




ソウタ「……………。」


とりあえず河川敷まで来てみた。

見渡してみるとガヤガヤしている。


ソウタ「あれは……夏祭りの準備か。」


俺の町の夏祭りは川沿いを中心に町全体で行われる。田舎町の癖に割と規模のでかい夏祭りだ。今年は今週の日曜日に行われる予定だ。


ソウタ「今日は金曜日だから……後2日後か。」


2日後……。


ソウタ「ん…………。」


よくよく考えれば彗星の日と被ってるじゃないか。

夏祭りは毎年、夜の6時〜11時の間に行われる。

そして川の上のボートから大量の花火を、数百発・数千発ぐらい大量に打ち上げまくる。

去年も一昨年もリョウスケと一緒に夏祭りに行ったから良く覚えている。


ソウタ「……今年も行きたいな。」


ただ、彗星の予定日と脆被りだ。どうするか…。


ソウタ「…そうか。花火と彗星を同時に見ればいいんだ。」


今年は夏祭りにシスも誘ってあげるとしよう。花火彗星か。凄く良い響きじゃないか。無駄にワクワクしてテンションも上がって来た。


夏祭りの内容は至ってシンプル。まず色々な出店でみせだ。たこ焼き・焼きそば・フライドポテト・りんご飴・焼きとうもろこし・くじ引き、その他諸々と言ったところか。夏祭りの出店で売っている品物ってやたら値段が高い。だが、その値段に相応する美味さも兼ね備えてるのがこの祭りの出店たちだ。俺は毎年行っているから出店の売る食べ物の味なども良く知っている。

そして次に打ち上げ花火。俺たちの住む町は都会の街に比べて比較的田舎町だから、町のどこからでも花火が見える。花火を見るための視界をさえぎる障害物、すなわち大きな建物が殆ど無いのだ。

それともう一つ。これは年によってあったりなかったりすることなのだが、数年に一度、イベントで歌手やタレントとかお笑い芸人・テレビ局と言ったメディア関連の人も訪れる。前に来たのは……俺が中学生だった頃だったか。まあ、来る可能性は少しはあるかな…と言ったところか。


ソウタ「…そりゃあ2日前となると、大体準備は始めてるよな。」


いい暇つぶしになるや。ちょっと適当に見て回るとするか。


俺が河川敷に降りようとした時だった。


シス「あれ? ソウタお兄ちゃん?」


唐突に背後から声を掛けられる。


ソウタ「えっ、シスちゃんか…?」


俺はその声に反応して即座に振り向く。

俺が振り向くとシスと……見知らぬお婆さんが立っていた。


ソウタ「えっと……。」


俺はシスと共にいる謎のお婆さんに戸惑いを隠せない。


シス「この人は私のおばあちゃんだよー。」


ソウタ「あっ…例のペンダントを作ってくれたおばあちゃんか…?」


シス「そうだよー。」


ソウタ「えっと…シスのお婆さん。どうもこんばんは……。」


……つたないい挨拶になってしまった。


シスの祖母「あはは、よろしくねソウタ君。」


ソウタ「あっ、こちらこそよろしくお願いします……って、俺のこと知ってるんですか……?」


シスの祖母「あはは、知ってるさ。ソウタ君のことはシスから教えてもらったんだ。失くしたペンダントを探してくれてたんだろう?」


ソウタ「えっ…まあ…はい。探してあげてました。」


情報の伝達が既に行き届いていた。まあ、2日あれば知られていてもおかしくはないか。


ソウタ「昨日・一昨日と一緒に探してあげてたんですけど……、結局見つかりませんでした。なんかすみません……俺らが勝手に探し始めたことなのに……。」


シスの祖母「いやいや! ソウタ君が謝ることじゃないよ!! むしろ探してくれて嬉しいさ! 物はいつか壊れるか失くなるものさ。失くなっちゃったのは仕方ないよ。シスだって失くしたくて失くしたわけじゃないんだしね。」


ソウタ「そうですか……。」


シスの祖母「そういえばもう1人は今日は居ないのかい?」


ソウタ「え……? もう1人って……?」


シス「リョウスケお兄ちゃんだよー。リョウスケお兄ちゃんのこともお婆ちゃんに教えてあげたんだけど……今日、リョウスケお兄ちゃんはまだ来てないの?」


ソウタ「えっ、いや……、今日は会う約束すらしてなかったから……。俺はただの散歩で出掛けただけなんだ。今日、リョウスケは居ないよ。」


シス「そうなんだー。残念。リョウスケお兄ちゃんともお話したかったなー。」


ソウタ「……………。」


………シスちゃんとも今日はまぐれで出会ったんだけど……。

まあ、そこには触れないであげておこう。


ソウタ「そういえば夏祭り、シスちゃんも来るの?」


シス「私もお婆ちゃんと行くよー。日曜日だから…明後日だよね? 彗星が降る日と被っちゃったねー? どうしよう?」


ソウタ「そうなのか。俺は毎年行ってるよ。今年もリョウスケを誘って夏祭りに行こうと思ってるんだ。俺もそれを考えてたんだ。夏祭りで彗星を見るってのはどうだ? 花火彗星なんてロマンチックで良いとは思わないか?」


シス「それいいね! 素敵!! リョウスケお兄ちゃんも誘ってくれるんだ?」


ソウタ「ああ、もちろん誘うつもりだよ。よければシスちゃんも俺たちと一緒に夏祭りの日、出店でもを見て回らないか? 彗星までの余興よきょうとしてだな。」


シス「大賛成!! 私も行きたいな〜。」


ソウタ「…そうか。賛成してくれてありがとう。お婆さんも一緒にどうです?」


シスの祖母「そうだね。私も付いて行かせて貰おうかね。」


ソウタ「ありがとうございます。付いてくる大人が居なくて困ってたんですよね。俺たちだけじゃ危ないかなーって。」


俺は苦笑する。




そうして俺たちは夏祭りの準備の風景を眺めながら他愛もない話を続けていた。




…………………………。




シスの祖母「そういえばソウタ君。ソリシス彗星にまつわる、おとぎ話の様なものを知ってるかい……?」


ソウタ「えっ……、おとぎ話の様なもの……?」


シスの祖母「知りたいかい?」


ソウタ「知りたいです。その彗星におとぎ話なんてあったんですか?」


シス「おとぎ話 ”の様なもの” だよ。ただの迷信に過ぎないからこれと言った根拠がある話でもないんだけどね。」


ソウタ「……知りたいです。どんな話なんですか?」


シスの祖母「あのね、この彗星はね……、」




そうしてシスのお婆ちゃんは静かに話を始めた。






シスの祖母「ソリシス彗星は異界に住む、幸せを司る神様が降らせる彗星だと言い伝えられてるんだ___。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る