第7話 俺の記憶Ⅳ(提案)

ソウタ「…………………………。」


無い。全く見つからない。


ソウタ「……はぁ。」


俺はシスやリョウスケが来る前に先に張り切ってペンダント探しを始めていたのだが、全く見つからずに無駄な体力を使っただけで萎えていたところだった。

探し始めてから、大体2,3時間は経ったところだろうか。早く来てしまったせいで暇つぶしがペンダント探し以外に思いつかなかったのだ。


ソウタ「そういや俺、シスちゃんの家がどこにあるのか知らないや………。」


そう。シスは家から公園付近を散歩中にペンダントを失くしたと言っていた。

そして俺はシスの家を知らない。昨日シスを家に送ってあげたのはリョウスケだけで、俺はそそくさと先に家に帰ったからだ。それを分かっていながら1人で無駄に探しまくって余計な体力を使ってしまった。2人が来るまで待てばよかった………。


ソウタ「………暇だな。」


彗星ってこの公園からでも見られるのだろうか。……いや、そりゃあ見られるか。だって”この町”ってニュースでは言ってたから、きっと町全体のことを言ってるんだろう。


ソウタ「……………。」


それにしてもペンダントはどこにあるんだろうか。…昨日からずっと探してるのに見つからないってことはもしかして既に誰かが見つけて持ち去ったりしてるのか?


ソウタ「……その可能性は高いな。」


……さっきまで無駄にあてもなく探し回っていたせいで、服がめちゃくちゃ汚れてしまった。


ソウタ「あーあ…。」


公園付近の草むらや道路沿いのドブ付近まで探したせいで今朝洗濯してピカピカだった服がいつの間にか汚れてしまっていた。


…………………………。


ソウタ「フワァァァ〜………。」


それにしても暇だ。まだ昼になるまでそこそこの時間がある。


ソウタ「……………。」


だんだん眠くなってきた……。朝から無駄に探し疲れたからだろうか?


ソウタ「……………。」


ふと目の前を見ると公園のベンチが目に入った。


ソウタ「………寝るか。」


少し探し疲れた部分もある。2人が現れるまで昼寝でもしよう。


ソウタ「よいしょっと………。」


ベンチに寝っ転がる。結構大きなベンチなので俺の体はすっぽりと入った。 

思ったよりも心地よい。これはすぐに眠れそうだ。


ソウタ「…………………………。」


……段々と俺の意識は薄れて行った……。




…………………………。




…………………………。




…………………………。




ソウタ「ふわぁ………。」


…目が覚める。まだ眠い目をこすりながらまぶたを開ける。


ソウタ「………は?」


辺りを見渡すと真っ暗になっていた。


ソウタ「いやいや…ちょっと待てよ…今、何時だ……!?」


ズボンのポケットに手を突っ込む。


ソウタ「やっべ……家にスマホ忘れてきた……。」


慌てて公園内の時計を探していると……、


リョウスケ「おう、ソウタ。やっとお目覚めの時間か。」


ソウタ「え…?」


俺の真横から聞こえてきた声。それは紛れもなくリョウスケだった。


ソウタ「リョ…リョウスケ!? 何でお前、こんなところにいるんだよ!?」


リョウスケ「何でって……お前こそなんでそんなに驚いてるんだよ。今日は、ペンダントを探す約束だろ?」


ソウタ「えっ……それはそうだったけど……今何時なんだ……!?」


リョウスケ「18時。もう夕方だぞ。」


ソウタ「え……………。」


やべえ。寝すぎた……。何やってたんだ俺……。


シス「あれ? ソウタお兄ちゃん起きたの?」


ソウタ「ん……。」


リョウスケに続いてシスもやってきた。


ソウタ「ごめん、シスちゃん……。」


シス「えっ、何が!?」


シスはキョトンとした表情で俺を見ている。


ソウタ「一緒に探すつもりだったのに俺、2人が来る前に勝手に昼寝してたんだ。普通に爆睡してて思いっきり寝過ごしたよ……。」


シス「えっ! そんなの別に全然良いよ!! ソウタお兄ちゃん、私たちが来るよりも前に先に来て探してくれていたんでしょう? それだけで十分嬉しいから大丈夫だよ!!」


ソウタ「えっ…、先に来て探してたこと何で知ってるんだ…? 今日、たまたま起きたから2人に内緒で来てたのに……。」


リョウスケ「内緒ってお前……嘘が下手くそだな、ソウタ。」


ソウタ「えっ……、」


シス「ソウタお兄ちゃん、服が凄く汚れてるよ!! ただ先に来てお昼寝をしてただけでそんなに汚れたりしないでしょう? 私たちが来る前に来て先に探してくれてたんだよね!! ありがとう!!」


……なるほどな、お見通しか。俺が真意を話すよりも先に真実を見抜かれてしまい、先にお礼を言われてしまった。


ソウタ「………そうか、そりゃそうだな。見たら分かるか。」


俺は少し笑った。


リョウスケ「…というか内緒にする理由ってなんだよ? 朝早くから起きたなら電話なりしてくれれば俺たちも向かったのに。引き籠りのソウタと違って俺たちは普段も朝から起きてるんだぞ?」


………失礼な。


ソウタ「いや……俺が内緒で先にペンダントを見つけてシスが来た時に目の前に出してあげたら喜んでくれるかなーって思って……。」


リョウスケ「はは、何だよそれ。先に見つけてかっこ付けたかっただけだろ?」


ソウタ「あはは……。」


まあ、リョウスケに言われた通りだ。


…というか俺が寝まくってた間、2人はペンダント探してたのだろうか?


ソウタ「じゃあ……2人はもう探し回ったのか……?」


リョウスケ「ああ、先に探し回ってたよ。シスの家までの道のりをずっとな。」


ソウタ「それで……見つかったのか……?」


シス「………。」


シスが黙る。あっ……これは見つかっていないフラグか。


リョウスケ「いや…見つからなかった。交番にも行ってみたんだが届けられていなかった。本当にどこに行ったんだろうな……。」


ソウタ「やっぱり見つかってないのか……。って、起こしてくれれば俺も探したのに。」


シス「何言ってるの! ソウタお兄ちゃんは朝ずっと1人で探してくれてたんでしょう? 疲れてるっぽかったし、服も汚れちゃってるし、気持ち良さそうに眠ってたから起こさずに私たちだけで探すことにしたんだよ!」


ソウタ「……………そうか。」


……………2人が気遣ってくれた結果だったのか。


全員「……………。」


全員疲れているらしい。2人も昼からずっと探してたのだろう。


ソウタ「あっ……そうだ……。」


リョウスケ「どうしたんだ?」


思い出した。今朝のニュースの事を。


ソウタ「あのさ、シスちゃん!」


シス「ん?」


ソウタ「今朝のニュースで言ってたことなんだけどさ……!!」


俺は急にテンションを上げて話し出すが……、


リョウスケ「ああ、彗星のことか?」


ソウタ「えっ………。」


リョウスケに俺の言葉をさえぎられてしまった。


ソウタ「もう知ってたのか……?」


リョウスケ「ソリシス彗星のことだろ? そりゃあ知ってるだろ。俺だって朝、ニュースで見たさ。数十年に一度なんだってな。」


ソウタ「じゃあ…シスちゃんも既に知ってるのか…?」


シス「うん! リョウスケお兄ちゃんが教えてくれたよ! 3回後でしょう!?わぁ〜、早く見てみたいなぁ…!!」


ソウタ「あ、あぁ……そうだな。」


俺は引きった笑みを浮かべる。

なんだよ…せっかくシスを喜ばせてあげようと思ってたのに、リョウスケに先回りされてたか。まあ、仕方ない。俺が昼寝してたからな。


まあ別にいいか。伝える手間が省けた。

そりゃあリョウスケも伝えたくなるだろう。昨日あんな会話をしてたんだから。


……じゃあ俺からも提案を振るか。


ソウタ「あのさ……、日曜日みんなで彗星を見に行かないか?」


リョウスケ「え? 別にいいけど…どうしたんだ急に……?」


ソウタ「いや……シスちゃんがペンダント失くして悲しんでただろう? だからその悲しい出来事よりも、嬉しい出来事にで気分を紛らわせられないかなーって思ったんだけど……。例えば、その彗星を見に行くとか…ダメかな? …まあ、見に行くとは言っても俺たちの街だから、公園とか適当にその場で見るだけなんだけど……ダメかな?」


リョウスケ「……………。」


リョウスケは黙っている。


ソウタ「えっ…おい、リョウスケ…ダメならダメって言ってくれてもいいんだぞ?」


リョウスケ「凄いじゃないか!!」


ソウタ「……は?」


リョウスケ「引き籠りのソウタがそんな提案を出せるようになったなんて!! 賛成だ! 俺だってその彗星を見ていたいんだ!!」


……引き籠りは別に間違ってはいないんだが、俺が案を出したことでそんなに驚かなくてもいいだろ。本当に失礼だな。俺だってたまには外に出たくなる気分の時ぐらいあるさ。


ソウタ「はは…そういうことか。シスちゃんはどうだ…? 一緒に俺たちと彗星見ないか…?」


シス「私も行きたい! 彗星を見たい!! お兄ちゃんたちも一緒に見てくれるの? 案を出してくれてすっごく嬉しいよ!!」


ソウタ「そうか…賛成してくれてありがとう。」


よかった。これでシスの気持ちも紛れるといいのだが……。


リョウスケ「今日はもう時間も遅いし…解散するか? もうすぐ19時だ。」


ソウタ「……そうだな。今日は俺が送るよ、シスちゃん。」


シス「え? 今日はソウタお兄ちゃんが送ってくれるの……?」


ソウタ「ああ、リョウスケにばかり任せるのも悪いからな。今朝だって、シスちゃんの家にまで迎えに来てもらったんじゃないのか?」


シス「うん、リョウスケお兄ちゃんに連れてってもらったんだよー。家から公園まで探すためにねー。」


リョウスケ「じゃあ今日はソウタに任せるとするか。じゃあ解散だな!! 日曜の彗星、この町の中のどこで見るのが一番綺麗に見られるのか、調べておくとするよ!!」


ソウタ「分かった、じゃあ行こうかシスちゃん。」


シス「うん!! リョウスケお兄ちゃんバイバイ!!」


リョウスケ「ああ、ソウタもシスちゃんもまたな。」




こうして俺たちは今日のところは別れることとなった。俺の出した案に2人が乗っかってくれたのは正直、凄く嬉しいことだった。無事にペンダントも見つかればいいが……そう上手くはいかないのかも知れないな。



シスの家は思ったよりも少し遠くて、俺が家に帰宅したのは20時前だった。

1時間も掛かったのか……。トロトロ歩いたからだろうか。

まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえずシスの家の場所も把握できた。






さあ、明日は何をしようか___。

彗星が降る日、早く来ないかなぁ___。






<__俺が死ぬまで、あと3日__>

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