第6話 俺の記憶Ⅲ(彗星)

朝___。

今日は普段と違って珍しく早起き出来た。

いつもみたいに夜遅くまで夜更かししてゲームをしまくってないからだろうか。


ソウタ「今日は……木曜日か。」


今日も例の2人と一緒にペンダントを探す約束をしている。

…ただ、約束した時間は昼過ぎてからだ。リョウスケが『どうせソウタはいつものように昼まで寝てて起きれないんだから、俺たちがお前に合わせてやるよ!』なんて事言われてしまった。冗談交じりなテンションだったが、妙に的確に指摘してくるのがなんかむかつく。ぶっちゃけ、俺も朝から起きられるとは思っていなかった。


ソウタ「……どうするかな。」


今から1人で先に探してるのも良いが、昨日の1日中歩き回った疲れがまだ少し残っている。


ソウタ「……シスちゃんには悪いけど、朝は休憩してから行くとするか……。」


…………………………。


ソウタ「……テレビでも付けるか。」


俺がテレビのリモコンに手を伸ばそうとした時、


母「あれ? ソウタ、もう起きてたの?」


ソウタ「え?」


俺と同じタイミングで起きたであろう母が唐突に話し掛けてきた。


ソウタ「ん……まあ、たまたま目が覚めたからな。」


母「じゃあ朝ごはん食べる? せっかく起きてるんだし。」


ソウタ「そうするよ。何か分かんないけど、腹減ったしな。」


母「ふーん、珍しいこともあるものね。ソウタが早起きするなんて。」


ソウタ「……だからたまたまだって言ってるだろ。いつもは寝ぼすけだからって、偶然早く起きたときだけそんなこと言うのやめてくれ。」


夏休みである遅起きの引き籠りにとっては、こういった親との会話でやり取りするのは、まさに日常茶飯事と言ったところだ。


母「どうせ今日も予定もなくて家でゴロゴロしてるだけなんでしょう?」


ソウタ「……違うよ。今日は予定があるんだ。」


母「えっ、珍しい! どんな予定を建ててるの?」


ソウタ「何でもいいじゃんか、ほっといてくれよ。」


母「秘密にされたら気になるじゃない。」


ソウタ「……ちょっとした探し物だよ。」


母「何を探すの?」


ソウタ「………。」


……なんで一々、俺の予定を詳しく聞きたがるのだろうか。別に俺が何したっていいじゃないかよ。


ソウタ「ペンダントだよ。」


母「ペンダント? あんたペンダントなんて持ってたっけ?」


ソウタ「俺のじゃないよ。……昨日、近所の公園で知り合った女の子のペンダントだよ。」


母「へー……………。」


ソウタ「な、なんだよ。」


母「いいえ、何もないよ。いつから外出するの?」


……今の謎の沈黙の間、何を考えていたんだよ、このオカアは。


ソウタ「……昼過ぎぐらいから。」


母「そうなの。じゃあ気をつけて行って来なさいよ。」


ソウタ「分かったよ。というか近所を周るだけだって。一体何に気を付けるんだよ。」


母「車とかに気を付けなさいって言ってるのよ。途中で事故に遭うかも知れないじゃない。」


ソウタ「……そんな小学生にする注意みたいなのやめてくれ。俺もう高校生だぞ。それぐらい分かってるさ。」


母「ふふ、それもそうね。余計な心配だったかな。じゃあ、ご飯の準備ができたら呼ぶから、何か適当に過ごしてて。」


ソウタ「了解ー………。」


長かった母のダル絡みが終わり、俺はさっき見ようとしていたテレビを見ることにした。」


……………プチッ。


リモコンを押してテレビを付ける。


『次のニュースです。○○市○○町の……、』


ソウタ「………ニュースか。」


ピッ。ピッ。ピッ。


何か面白い番組がないかとチャンネルを変え続けてみたが、どの局もニュースばかり。


ソウタ「……………つまらないな。」


そういえば今は朝か。そりゃあ時間帯的にニュースばっかりやっててもおかしくはないか。夏休みに入ってからは昼過ぎぐらいに起きることばかりだから、正直言って朝という感覚が非常に薄れて来てしまっている。


ソウタ「………朝メシそろそろできるかな。テレビ見るのはやめるか………。」


俺がそう呟いてテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした時だった。


『最後のとっておきのニュースです!! 肉眼で観測できるのは数十年に一度と言われている『ソリシス彗星』が近日、日本各地で観測できるという事実が発表されました!!」


ソウタ「……………。」


俺はそのニュースに少し興味が湧き、電源を消すのをやめた。


ソウタ「……彗星か。俺、見たことないな。」


『特に良く観測できるであろうという場所も推測されています! ○○県の○○市○○町で見られるソリシス彗星は空を縦断じゅうだんすると見込まれており……。」


ソウタ「えっ……。」


俺は驚いてつい声に出してしまった。


ソウタ「……俺の町だ。」


そんな間近で見られるとは思ってもみなかったから、急にテンションが湧いてくる。……ただし、俺の感情の内心の中だけで。表現に出したらまた母さんが一々、絡んでくるだろう。


『観測できる日付は3日後!! 今週の日曜日です!! 時間帯は夜遅め8時~10頃と推測されております!!」


ソウタ「……日曜か。」


ここで俺はふと、昨日のことを思い出す。




…………………………。




ソウタ『……ねえ、シスちゃん。』


シス『ん? どうしたの、ソウタお兄ちゃん……?』


ソウタ『さっきペンダントの形は星型だったって言ってたけど……、シスちゃんもしかして星が好きだったりするのか?』


シス『えっ…うん! 大好きだよ!! よく家族でお出かけする時に、星を見に行ったりするんだ!!』


リョウスケ『へぇ……趣味は天体観測ってわけか。普段はどんな星を見ているんだ?』


シス『えっとね…普通の星はいつでも見られるし〜、毎日散々見ちゃってるから特別感は無くなっちゃったんだけど〜……いて言うなら私の好きなのは彗星かな!!』


リョウスケ『彗星か……シスちゃんは見た事あるのか?』


シス『……それが、まだないの……。』


リョウスケ『そうか……いつか見られるといいが……、まあこれからも星を見るチャンスなんて、待てばいくらでもあると思うぞ!!』


シス『うん! 私も一度で良いから見てみたい……!! いつか絶対に見るって決めてるの!!』


リョウスケ『ははは、決めてるか。決まってるなら心配ないな。』




…………………………。




ソウタ「……………。」


…………………………。


ソウタ「………これはチャンスかも知れないな。」


昨日、シスが言っていた言葉を俺は思い出した。


 ”私はまだ一度も彗星を見たことがない”


ソウタ「……………。」


シスは今、ペンダントを失くして気分が落ち込んでいる。最悪、このままずっと見つからないままの可能性だってある。その時、俺はシスに何と言ってあげれば良いのか?


ソウタ「………ペンダントを失くした辛さより、それを超えるぐらいの嬉しい朗報を聞かせてあげること。」


3日後、自分たちの町で彗星が見られる。シスはそれを知っているのだろうか?


ソウタ「…………………………。」


……って、そんなことを考えていても仕方ないか。考えるよりも行動に移そう。




母「ご飯できたよー?」


ソウタ「お、分かった。すぐ行く。」


なんというタイミング。これがお約束というものなのだろうか。




俺はそそくさとご飯を食べ、まだ少し早い時間だが先にペンダントを探し始めていることにした。


今日こそシスのペンダントを見つけてあげよう。そして、日曜日に彗星が見られる事実も伝えてあげよう。そしたらきっと喜んでくれるはずだ。




そう思うと、何故かいつもは外に出るのが気怠けだるい足が今日はスムーズに動いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る