第2話 死因と転生後

俺は……あの時、何をしていたんだ…?

メイプルに俺の死因を伝えられた今でもその時の記憶はまだ曖昧ではっきりとしない……。

俺がメイプルに教えられたこと。それは俺が死んだという事実と、俺が死ぬまでの経緯いきさつを伝えてくれた。


まず俺はあの星の降る夜の日、俺の親友である涼介リョウスケと、詩守シスと3人で地元の夏祭りに行っていたらしい。

そしてその祭りの夜の部の終盤。夏祭りのメインイベントである打ち上げ花火の最中さなか、数年に一度と呼ばれる『ソリシス彗星』という数十秒間に渡る物凄く綺麗な彗星が流れたらしい。

その流星群に俺たち3人は見とれていて、斜め前方から来る大型トラックに気づかなかったらしい。

その流れ星が建物の物陰に隠れてしまい、それを追って道路に飛び出したシスの目の前に、その大型トラックが飛び出してきたらしい。

俺はシスを守る為に無我夢中で道路に駆け出して、シスを歩道に突き飛ばし、代わりに俺が……死んだって感じだ。


今のようなことを、俺はメイプルから説明を受けた。


ソウタ「……全く自覚がないんだけど。俺、本当に死んだのか?」


メイプル「自覚がないのは当たり前だよ。だって、死ぬ寸前の記憶を忘れちゃってるんでしょう?」


メイプルの記憶を見通す能力のことは良く分かっている。だが『俺は死んだ』という事実を確証付けるものは何もない。


ソウタ「でも、俺…自分が死んじまったなんて、今でも信じられない…。というより信じたくないよ……。」


メイプル「……その気持ちは分かるよ。私だって、事故や病気で死にたくなかった人たちが死んじゃった人の魂が天界に現れた時、いつもその人たちの亡くなる前の記憶を見せてもらって共有してるんだ。…今のソウタ君の様にね。そしたらみんな死ぬ直前に思うことは、大体同じなんだ。急死しちゃった人が死に際に思うのは、『ああ…僕は私はこれから死ぬんだ……。』…って。もうすぐ自分が死ぬことが分かってる人が死に際に思うことは、『ああ…僕も私ももっと生きたかったなぁ……。』…って。」


ソウタ「………じゃあ俺は…この天界で一生、自分の死に際の記憶を無くしたままで過ごす事になるのか……?」


メイプル「それは違うよ。」


ソウタ「えっ…じゃあ俺の記憶は戻るのか……?」


メイプル「うん、戻るよ。だから安心して。」


ソウタ「どうやったら戻るんだ……?」


メイプル「創造神様に死に際の記憶をもう一度吹き込んでもらうんだ。」


ソウタ「えっ…そんなことできるのか……?」


メイプル「うん、できるよ。そしてあなたは転生する。私たちの暮らす『世界の下界』という場所に!」


ソウタ「………。」


メイプル「あっ…、ソウタ君目線だと、『異世界の下界』…だったかな……?」


ソウタ「さっきからずっと、転生、転生、って言ってるけど……。そんな簡単に転生なんてできるのか……?」


メイプル「うん、できるよ。魂さえ消えなければ創造神様にとったら転生させるくらい楽勝だよ!」


ソウタ「そうか…創造神様って凄いんだな…。」


なんとなく理解できてはきたけど……。死んだ魂ってみんなこんなものなのか?

…まあ、今はメイプルに話を聴くとするか。


ソウタ「で…、創造神様に会って……俺はどうすればいいんだ……?」


メイプル「会ったらすることは簡単だよ。たった3つしかすることがないの。」


ソウタ「何をすればいいんだ……?」


メイプル「まず、1つ目。『記憶を完全に呼び覚ます』事。さっきも言った通り、これは創造神様にお願いすれば、記憶ぐらい簡単に蘇生できるよ。記憶が曖昧なまま別世界に転生させられても、記憶が戸惑っちゃうだけだからね。」


ソウタ「分かったけど……君に記憶の蘇生を頼む事はできないのか…? 記憶の大天使なんだろ……?」


メイプル「…私にできる事は魂の記憶を覗いて過去を知る事だけで、記憶を蘇生させる事は創造神様にしか出来ないんだ……。」


ソウタ「そうなのか……?」


メイプル「そうだよ。この記憶を見通す能力も創造神から授かった神術だって教えてあげたでしょう……?」


ソウタ「そうか……。なるほど、分かったよ。」


メイプル「じゃあ次に2つ目。『下界に持って行く武器の抽選と、下界に降りた時にどの地方に転生するかの抽選』だね。」


ソウタ「へぇ…なんでも抽選なんだな。俺の生きてた頃の世界のクジ引きみたいなものか?」


メイプル「まあ、そうだね。どの魂にも平等に関わるのなら、やっぱり抽選するのが良いと私も思うんだ。」


ソウタ「それって……クソ激雑魚武器を選んでしまったり、いきなり魔王とかの住む地方に転生したりする可能性もあるってことか……?」


メイプル「その可能性はないよ。創造神様はそんな酷いことはしないから安心して。抽選で選ばれる武器はどの武器も戦闘力の高い武器だし、転生先の地方も初心者冒険者が集ってる街がある地方にしか転生させない仕組みになってるから。大丈夫、安心して。」


ソウタ「そうなのか。それは良かった……。」


メイプル「そして最後の3つ目。『下界に転生した時のパートナーを抽選で選ぶ』事。下界で冒険の手助けをしてくれる良きパートナーをクジで選ぶんだ。」


ソウタ「えっ…いきなり仲間を貰えるのか…?」


メイプル「そうだよ。本当は普通の魂には最初から仲間なんて付けないんだけど…ソウタ君は特別な魂だから。」


ソウタ「俺の魂が……特別だって……? どういうことだ……?」


メイプル「あなたは他の魂の命を救って、代わりに死んじゃった魂だよね……?誰かの代わりに死した魂には、その生涯の名誉として、私たち天使族から抽選でパートナーの天使が選ばれるんだ。」


ソウタ「へぇ……どんな天使が選ばれるんだ……?」


メイプル「まあ、選ぶ魂の運しだいだね。確率は50%が下級天使。40%が中級天使。9.9999%が上級天使。そして残りの0.0001%が大天使だよ。」


ソウタ「……それ、ちょっと偏りすぎじゃないのか。」


メイプル「偏るのはしょうがないじゃない…。大天使は世界にたった12人しか居ないんだよ? そんなポンポン下界に送り込める訳ないじゃない。」


ソウタ「…メイプルもその1人なのか…?」


メイプル「そうだよ。」


ソウタ「…メイプルがパートナーになる可能性もあるのか…?」


メイプル「そりゃああるよ。でも確率的に、ほぼ0なんじゃないかな?」


ソウタ「そうか………。」


メイプルの能力は場合によってはチート級に役立ちそうな気がするから、正直、仲間にしてみたいという思いもあった。




一通りの説明をメイプルから聞いてようやく、ひと段落ついた。






メイプル「それじゃあ行こうか、ソウタ君。」


ソウタ「えっ…、どこに……?」


メイプル「決まってるじゃない。ソウタ君、君の記憶を呼び覚ましてもらう為に創造神様の元へ行くんだよ。」

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