天生物語 〜異世界冒険日記 癒しの旅〜

姫宮 柚

序章 星降る夜の旅立ち

序章 本編

第1話 彷徨える魂

澄み渡る空。心地の良い風。綺麗な空気。

俺が目を覚ますと、そこは知らない世界だった。


ソウタ「………ここは…?」


辺りを見渡すと目の前には大きな建物があり、それに続く草花で埋められた階段があった。

他にも、所々に謎の建物・広い庭のような場所・ふわふわした白い地面などがある。


…どうも記憶が曖昧ではっきりとしない。俺はこんな変な場所で何で寝てたんだ…?涼介リョウスケたちはどこへ行ったんだ……?


ソウタ「俺は確か…涼介リョウスケ詩守シスと一緒に居たはずだったんだが……。」


訳が分からない。何してんだ俺。何故、俺はこんな場所に居るのか。全く思い出せない。


ソウタ「………………。」


訳も分からず俺はただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。


???「あれ? あなた…ひょっとして、最近死んじゃった人間の魂…?」


俺がボーッとしてると、背後から知らない女の子が話しかけてきた。


ソウタ「え………。」


俺はその声のする方向へ振り向く。


???「また、新たな人間の魂かな。可哀想に…自分が死んじゃった事が分からなくて、天界を彷徨っていたのね。」


ソウタ「だ、誰…!?」


若干、声が裏返ってしまった。誰だこの子は…。

…って、ちょっと待て。この子の背中に何か付いてるぞ………これは………羽か…?? 何だ…コスプレか…??


???「ごめん!突然話しかけたりして…怖がらせちゃったかな?」


ソウタ「い、いや…別に……。そんな事ないよ。…って、それより君は…誰だ……?」


???「あっ、ごめん! まず名乗らきゃいけないよね!」


ソウタ「………。」


メイプル「私の名前は『メイプル・メモリア』。他の天使や神様からはメイプルって呼ばれてるよ。記憶を司る大天使で、この天界に住んでいる神様の1人でもあるのだけど…。」


………は? 天使? 神様?


ソウタ「天使だの神様だのって…君は一体何を言っているんだ…?」


メイプル「えっと…そうだよね…突然こんなこと言われても、戸惑っちゃうよね。」


そりゃ戸惑うだろ。…と言うか変わった名前だな。外国人か?

……背中の羽は天使のコスプレだったってワケか。


ソウタ「…申し訳ないけど、君が何を言ってるのか理解できないよ……。」


メイプル「うん…そうだよね…。死んじゃった人間たちの魂は、最初はみんなそう言うの。」


ソウタ「………。」


この時の俺はまだ、この子の言ってる事があまり理解出来ていなかった。


メイプル「あの…率直に言うから落ち着いて聴いてね…? …あなたは、ついさっき死んじゃったの。」


ソウタ「は……死んだ……?」


メイプル「そう…あなたは死んだ人間なの。」


ソウタ「え……何言ってるんだ君…? 俺は死んでなんかないぞ。ほら…今だって普通に動いてて話したりしてるじゃないか……。」


メイプル「………死んでしまった直後の人間には、自分が死んだという自覚は無いの。あなたは魂の姿で私たち天使と会話しているんだよ。」


ソウタ「は、はぁ…? というか、君が天使って……?」


まあ、確かにこの子…メイプルは背中に羽を付けていて、羽衣の様な服も着ているが………。


メイプル「…やっぱり信じられない……?」


ソウタ「…そんな急に『私は天使だ』なんて言われても…意味が分からないよ…。それに俺が死んだとか、魂で会話してるとか…現実的な話じゃないと思うんだが……。」


メイプル「………。」


急にメイプルにジーッと見つめられる。


ソウタ「なっ…何だよ…?」


メイプル「…あなたの名前は 志々目シシメ 草太ソウタ 君だね。」


ソウタ「え………。」


は………どういうことだ………?


メイプル「どう? 名前は間違ってない?」


ソウタ「え……ああ……間違ってない……けど……。」


……この子の何で俺の名前を知ってるんだ…?


メイプル「あなたはの年齢は17歳の高校2年生。趣味はゲーム・漫画・インターネットなど。休みの日は親友の 鞠宮マリミヤ 涼介リョウスケ 君とよくゲームをしたりして遊んでる。そして最近は小さな女の子と出会ったね? その子の名前は 神之楽カノグラ 詩守シス ちゃんだ。」


ソウタ「………。」


メイプル「…どう? ……違うかな?」


ソウタ「………。」


…何故だ。何故この子は俺のことを知っているんだ…?


ソウタ「………。」


メイプル「ふふっ…。」


メイプルが少し微笑する。


ソウタ「な…何がおかしいんだ…?」


メイプル「ソウタ君。今、あなたは『何故、俺のことを知ってるんだ?』って考えてたでしょう?」


ソウタ「なっ……! 何でそれを………!」


メイプル「うふふ。私には人の記憶が見えるの。私には生きてる人間・死んだ人間の過去を見通すことができるんだ。」


ソウタ「は、はぁ…? そんな嘘みたいな話があるわけが……。」


メイプル「…じゃあ…今、私が言ったことが外れてるとでも言うの…? あなたの過去を一番知ってるのは、他でもないあなた自身のはずだよ。」


ソウタ「…………………………。」


…確かに。俺自身の過去を一番よく知るのは間違い無く俺だ。

メイプルの言ってることは間違ってはいない。


ソウタ「…………………………。」


メイプル「…どう? 信じてくれる気になった……?」


ソウタ「………分かった。信じるよ…。」


メイプル「よし……! 信じてくれて、ありがとう……! じゃあ次に、あなたが死んでしまった死因を……。」


ソウタ「ちょ、ちょっと待ってくれよ…!」


メイプル「えっ…どうしたの…?」


ソウタ「人の記憶が見れるって…どういうことだよ…!? 君…そんな超能力を持った人だったのか……!?」


メイプル「…だから人じゃないってば。私は天界の『天使』であり『神様』でもある存在だって、さっき教えてあげたじゃない。人間の記憶を見ることができる能力。それは『記憶の大天使』である私『メイプル・メモリア』に授けられた、創造神様の神術だよ。」


ソウタ「…正直まだ信じられない自分も居るけど…今の俺には君を信じるしかないんだよな……?」


メイプル「うん…。今のあなたには私を信じてもらうしか…。」


ソウタ「……君のことは分かったよ。それと……。」


メイプル「それと……?」


ソウタ「何故、記憶じゃなくて、俺がついさっき心の中で思った事までわかったんだ……?」


メイプル「『思う』。これは、過去の自分がした行為だよね? 過去に思った事なら私の見通す『記憶』に値する。考えてることでも、考え終わったらそれはもう、過去の出来事になるんだ。」


ソウタ「分かったような、分からないような……。ここには君みたいな天使が沢山居るのか…? と言うかそもそもここは一体どこなんだ……? その『天界』とやらの場所なのか……?」


メイプル「天使が沢山居るのは間違ってはないけど、私の記憶を見通す力みたいな能力を持ってる大天使は、私含めてほんの数人しか居ないよ。そしてソウタ君の言っている通り、ここは『天界』だよ。死んだ人間が魂となって、私たち天使や神様に導かれ、最終的には創造神様に私たちが見守ってる異世界の『下界』と呼ばれる場所に転生させてもらう場所なんだ。」


ソウタ「て、転生…? 転生なんてさせてもらえるのか……!? と言うかそもそも俺は何故死んだんだ…? 記憶が曖昧ではっきりしなくて…。」


メイプル「魂たちは最初、みんなそう言うよ。だから、私があなたの死んだ時の記憶を教えてあげようと思ってたところだったんだ。」


ソウタ「それは是非教えて欲しいんだけど……俺が曖昧ではっきりしない記憶も見えたりするのか……?」


メイプル「それに関しては全然大丈夫だよ。ソウタ君はただ忘れちゃってるだけで、しっかりとあなたの頭の中に過去の出来事として残ってるから。」


ソウタ「…そうか。…で、俺の死因はなんだったんだ……?」


メイプル「志々目 草太 君。あなたの死因は……、」


ソウタ「…………………………。」


またメイプルに数秒間、ジーッと見つめられる。正直、何か恥ずかしく感じる。


ソウタ「…………………………。」


…………………………。





そして数秒間の静寂の間を置いて、ようやくメイプルは口を開けた。



メイプル「君は……、事故で死んじゃったんだ。君の記憶を覗かせてもらった時に、名前を出していたその『詩守シス』ちゃんという女の子をかばってね。」

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