君がかかってる勝負には負けない【コイン】

「裏か表か」

 つまらなそうに夏空を見上げていたら、隣に居た幼馴染の浩司が突然そんな事を言い出した。

「……はい?」

 何を言っているんだ、と私が訝しげな目を向けると、奴の手には外国の物であろうコインが置かれていた。

「だから、裏か表、どっちだと思う?」

 そこまで聞いて、私は「あぁ」と納得した。

「つまり、外国のコインなんか手に入ったから、ちょっとカッコいい事してみよう、と?」

「んー、ちょっと違うけど大体そうかな」

 そうなんかい。

 少し頼りなさげに肩をすくめる浩司に、私は小さく一つだけため息を吐くと、言った。

「いいよ。……で、負けた方は何をすればいいの?」

 私がそう言うと、浩司はパアァっと顔を輝かせて笑った。

「さっすが、景! 俺の言いたい事を一瞬で察するなんて、流石だな!!」

「はいはい。お世辞はいいから、早く条件を言いなさいよ」

 早く、この面倒な事を終わらせたかった。

 どうせ浩司の事だから『コーラおごってー』とかなんだろうな、と思いながら私は聞いた。すると、浩司は急に真剣な顔になって、言った。

「俺の予想が当たったら……景、俺と付き合ってくれないか?」

「…………はい?」

 私の表情が固まった。そして次の瞬間、私は鬼のように怒った。

「……っあんたはバカかっ!!」

「え……えぇ!?」

 必死の覚悟で告白したつもりなのであろう浩司は、なんで怒られているのか分からない、と言った様子で目を丸くさせた。

「あんたは、付き合うとか、そんな大事な事を何コインで決めようとしてるのよ! 本当ヘタレねっ!!」

 私に凄い勢いで毒舌を浴びせられ、浩司は今にも泣きそうな雰囲気だった。

「そ……そこまで言わなくていいじゃんか……」

 かすかに眉を下げ、寂しそうな顔をしている浩司を見て、私は一つため息をつき、浩司に向き直った。

「……で、浩司。あんたは私と付き合いたいの?」

「うん」

浩司は間を開けずに頷いた。

「私の事が、好きなの?」

「……うん」

 今度は恥ずかしそうに頷いた。

「じゃあ、なんて言うの?」

 全く、世話の焼ける奴だ。と、私は浩司を見た。

 浩司は私の目を真っすぐに見つめかえして、口を開いた。

「俺は、景が好きだ。こんな俺だけど、付き合って欲しい。絶対、景を幸せにするから」

そんな予想も出来なかった、浩司の真摯な言葉に、私は目を見開いてしまった。

顔をそむけた私に、今度は浩司が目を丸くして、

「うわっ、景が照れてる……!!」

と、人の顔を指しながら言うのだった。

「う、うるさい!!」

私は、自分の顔が浩司から見えないように手で隠して、逃げようとした。

が、浩司はそんな私の手を掴み、

「で、景。返事は?」

なんて、浩司らしくない調子で言った。

その手の力は何だかんだ言っても男の子の握力で。

いつもはただからかわれているだけの、浩司とは違って私はドキドキした。

「景」

 再び浩司が私の名前を呼んだ。

 私はそっと顔を隠していた手を下ろすと、浩司を見上げて

「私も、ずっと浩司の事好きだった。……いつもからかってばかりでごめんね」

 と、告白した。

 浩司は一瞬驚いたような顔をして、私をギュッと抱きしめた。

「景……好きだ」

 私は、そんな浩司の背中に手を回して

「浩司のくせに、生意気よ、バカ」

 と呟くのだった。


 外国のコインがくれた、きっかけ。

 こういう時だけ、勝負に強いキミの勝ち。


-END-

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