黒い傘
それから二週間ぐらい私は子育てに追われたわ。なにしろ初めてでしょ?
わからないことだらけよ。とりあえずおっぱいをあげてぺろぺろと清潔にしてあげるの。そしておしっこを促すために股間をなめてあげるの。
ほんと10歳からの子育てって大変ね。
でも子猫の顔を見ると母性が高まってきてね、この子のためならなんだって出来ちゃうわ。
でもお散歩は欠かさなかったわ。毎日いったけどおっぱいあげるとお腹が減るのね。なんか母性があふれちゃうみたい。
二週間くらいして目が開いたわ。「ママ?」ってポワロに言われた時はうれしかった。もうぺろぺろしてあげたわよ。
それから小さな足で少しずつ歩くようになったわ。ほんと子供って元気なのよね。
心配で見てられないわ。
ちょうどそのころかしら。いつもお散歩で一緒になる犬の間で話題になってたことがあるの。
あれは同じシーズーのチロちゃんとお散歩で逢った時だったわ。
「もこちゃん。知ってる?」
「え?なに?」
「最近ここらへんで玄関に黒い傘が置かれているうちが多いらしくてね。なんか不気味ねってママが話しててね」
「あ、それなら隣のおばさんがうちのお母さんに話してたわ、なんでも泥棒かもしれないって話ね」
「いやだわ、私が留守番中に泥棒が入ってきたらどうしよう」
「私は今なら我が子を守るためにクマとだって戦えるわよ。まあ、クマってみたことないけどね」
「ほんとにモコちゃん強くなったわね、お母さんなのね」
「大変よ、子育てって」
「でも綺麗になったわよ」
「やだ、あ。にいちゃんがチコちゃんのママとのおしゃべりが終わったみたい。じゃあまたね」
「じゃあね」
そんな話が終わると私は急いでおうちに帰ったわ。可愛いわが子がまってるもの。
私がおうちに帰るとお母さんが見たことのないおじさんとお話してたの。
私がおうちに入るとポワロが私のにおいをかいでのそのそと玄関まで歩いてきたわ。
あーとってもかわいいわが子。
その時おじさんの目が変わったのよ。でもそんなことわからなかった。
ただ迎えに来てくれる我が子がかわいくって。
「ママ~」って声に私は急いで我が子のもとに行ったわ。
その日私の内の前に赤い傘が置かれていたの。
にいちゃんが朝一番に新聞紙を取りに行くとき気が付いたみたい。
その日にいちゃんが私とポワロをつれて病院に連れて行ったの。
病院の台に乗ると思わずおしっこもらしちゃう私だけど息子の前でそんな姿はみせられないわ。
病院の先生の前でお口とか見られてお尻に体温計を入れられたわ。
緊張するポワロに「注射はいたいけど一瞬よ。大丈夫」
「うん、わかったよ、ママ」
病院の先生がにいちゃんに「二匹とも健康だよ。それにしてもオスの三毛猫は珍しいね。私も長い事獣医やってるけどオスの三毛猫は初めて見たよ」
「へーそうなんですか?」
「なんでも数万匹に一匹らしいよ。高値で売られることもあるらしい。」
オスの三毛猫ってそんなに珍しいのね。さすが我が子ね。
おうちに帰ってお布団に親子で寝ていると裏口から物音がしたわ。
その時おうちには私たち親子しかいなくって私は我が子を守るためパトロールに出かけたわ。
明らかに違った匂いだったわ。家族のだれでもない匂い。
私は「ワンワン」って叫んだ。
でもガチャッて鍵が開いて男が入ってきたの。
「シッシッ。あっちいけ。それよりも猫はどこだ?」男は言ったわ。
匂いと言い声と言い前にうちに来たおじさんだった。
私は「ワンワン」と吠えながらその男にかみついたわ。
息子を探してるんだわ。守らなきゃってね。
どうしよう、このままじゃあの子がさらわれちゃうっておもったわ。
男はどんどんうちの中に入っていってお布団で寝ている我が子を手にした時だった。
「ウっ」といって男が倒れたの。
見たら隣のおじいちゃんだったわ。
なんでも隣のおじいちゃん昔剣道の大会で優勝したくらいの腕前なの。
私があんまり吠えるから気になってやってきたら知らない男が家に入っていくので竹刀を持ってやってきたんだって。
「もこちゃん、良く闘ったな」とおじいちゃんは私を撫でてくれたわ。
やがてパトカーが来てにいちゃんも戻ってきておまわりさんに男は連れられて行ったわ。
なんでも男は悪徳ブリーダーらしくオスの三毛猫のポワロを海外に売ろうとしてたんですって。その取引の場所があの公園らしかったの。
その時相手が場所を間違えてたまたま通りかかったのが私たちだったみたい。
都会では目立つからって田舎の公園にしたのが悪かったのね。
黒い傘はセールスマンに化けた男がその家に三毛猫がいるかの合図だったらしいの。
赤い傘がある家に三毛猫がいるって仲間つたえる暗号だったらしいわ。
海外の人間だから住所がわからないから傘を置いたらしいの。
あとからやってくる仲間も逮捕されたわ。
そして私と隣のおじいちゃんは泥棒を捕まえたことを表彰され私にはドックフードがプレゼントされたわ。
なんでも新聞にも載ったらしいわ。
でも何よりうれしかったことは息子のポワロが私のところに戻ってきたこと。
「ママー」って甘えるポワロに私はぺロペロをしてあげたわ。
で今ポワロは私のそばで寝ているわ。
ほんとに甘えん坊なんだから。
でもポワロは私にとって宝石よりも大事な宝物よ。
紙袋の中の宝石 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
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