実戦訓練本番

 1時間のIGNIS《イグニス》の諸動作確認後、僕と暁さんは機体を降りて集合場所に向かっていた。


「前にも言ったけど、作戦は開始直後にウチが機体を透明化して、あんたが射撃で倒すのよ。5分で片が付くわ。」


「了解。暁さん、もしもの時の提案があるんだけど……。」


「もしもなんてないわ。後にして。急ぐわよ。」


 クラス全員が集まったところで、佐伯教官から対戦のルールが告げられた。


「ルールの説明を行う。武器なんだが、こっちで用意したものを使用してもらう。1通り種類は揃っている。直接ダメージを与えないようになっているが、ダメージの代わりに機体の性能が落ちる仕様になっている。勝敗は相手を行動不能にするまでとする。制限時間は15分で、それ以上は引き分けとする。」


「それと清水・天上院は見学だ。お前達の才能センスは別格だからな。」


(紗夜ちゃん、やっぱ凄いんだな!)


 ふと、隣の暁さんの様子を伺うとなんだか顔を強張らせ、悔しそうな表情をしている。


(緊張してるのか?それとも……。)


 しばらくして、訓練が始まり、僕達は対戦に備え、IGNIS《イグニス》に乗り込んだ。僕は再び提案の話を切り出した。


「提案があるんだ。もし、5分で決着が着かない時は、僕の指示に従ってほしい。」


「なぜ!?5分もかからずに終わるわよ。」


「もしもって、仮定の話だよ。」


「わかったわ。」


 なんとかわかってもらえたな。何事も無ければいいけど。そして……。


「開始!」


 教官の合図で対戦が始まった。熊谷・谷口ペアは拳装着型の武器を装備している。すぐ様、僕らは機体を透明化し、相手の機体の後方へ回り込み、射撃を試みた。しかし、相手もすぐに振り返り、その弾丸を拳で防いだ。


「!?」


 暁さんは驚きを隠せない。


「もう一度よ!」


 もう一度、透明化し、相手の後ろに回り込み射撃を試みる。しかし、また防がれてしまってダメージにならない。暁さんは不意に口から言葉が出てしまった。


「なぜ、ウチの透明化インビジブルが通用しないの!?」


(やはり、対策済みか。)


 何かあるとは思っていたが、予想通りか。調子づいてきた熊谷が意気揚々と言い放つ。


「わいとの約束忘れとらんだろうな!」


「ちっ!忘れてなどいない!」


 暁さんは舌打ちをし、答えた。その表情に余裕はなく、焦りすら感じる。僕は近距離戦闘では勝ち目がないと思い、距離をとりつつ応戦する。しかし、徐々に押し切られてきている。攻め落とされるのも時間の問題だろう。そろそろ5分経過だ。


「暁さん、約束の5分だ!ここからは僕の指示に従ってもらうよ。僕が会話で時間を稼いでいる間に、機体の制御に切り替えて、スナイパーライフルからバックパックに収納してある小太刀に装備を変えてほしい。残弾が半分を切った。これ以上、無駄弾は使えない。」


「なぜ、ウチの得意武器を……、いつの間に!」


「それから、近距離戦闘に持っていき、約1分間耐えてくれ。準備が出来たら、合図を出す。そしたら、透明化インビジブルを発動して……。」


「待って!また見破られるだけよ。」


「次は大丈夫!僕を信じて!」


「わかったわ!ダメだったら、責任とりなさいよ。」


 少し小声で返事が返ってきた。いつもの暁さんに戻ったみたいだ。よーし、作戦開始!




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