宣戦布告!

 新学期初日が終了し、教室内では席を立って帰ろうとする者、雑談を始める者、作戦・方針を話し合うペアが存在している。ちなみに僕の隣人は前者である。僕は気まずい雰囲気を修復するため、話し掛けることを決意した。


(僕のせいじゃないんだけどな。)


「あのー、この後なんだけど、対戦の傾向と対策を……。」


 言い切る前に返事が返ってきた。


「ウチ、トレーニングで忙しいから、1人でやって。それに対戦は、ウチが機体を消す、貴様が引き金をひく、これで終わり。対策は必要ないわ。」


(僕も対戦相手も眼中にない感じか。)


「ですよね。はははっ。」


 また、作り笑顔で対応してしまった。何やら前の席の方から大声が聞こえる。まさか……。面倒なことになりそうだ。


「わいらは、眼中に無しかい!さすがSランク様やな!もし、わいらが勝ったら、どないしてくれるんや!?」


 資料によると対戦相手の熊谷くまたに鉄平てっぺいみたいだ。体が大きく筋骨隆々で黒髪の四角い顔でいかにも番長的な感じだ。凄い剣幕だが、どこか冷静さを感じる。暁さんは、かったるそうに答えた。


「何でもしてあげるわ。万に一つもないでしょうけど。」


「皆、聞こえとったな!証人がいっぱいおるで!約束忘れんといてな!」


(熊谷は、一体何をしたいんだ?)


 暁さんは、熊谷の言葉にも動じずに教室を出ていってしまった。熊谷は満足そうだ。なぜか怪しげな笑みを浮かべている。


(何か、気になる。調べてみるか。)


 熊谷の後ろにポッツリと1人の女子が立っている。おそらく熊谷の同乗者パートナーだろう。資料を見ると、谷口たにぐち千明ちあきというらしい。熊谷とは正反対で体が小さく無口無表情だが、黒髪ショートで可愛いげだ。全然、迷惑そうじゃないなぁ。というか表情が読み取れない。僕は軽い挨拶をして教室を出た。


(1人になってしまったなぁ。熊谷・谷口ペアについて調べてみるか。)


 とりあえず高等1年からの親友の佐野さの達也たつや山口やまぐち祐二ゆうじに連絡を取ることにした。2人とも、整備メカニックに進んだと思われる。上手くいけば、熊谷のIGNIS《イグニス》の武装の情報が手に入るかもしれない。


「もしもし、達也、久しぶり!案の定、整備メカニック科か?」


「おう、久しぶり智晴!もちろん整備メカニック科だよ!それよりお前、操縦ハンドラー科だろ!凄いなぁ!カップル成立したか?」


「偶然だよ。カップルじゃない、同乗者パートナーだって。でも完全にシカトされてる。それより、調べてほしいことがあるんだ。……。」


 *


 新学期2日目、講義終了後、再び暁さんに声を掛けた。


「この後なんだけど……。」


「昨日も言ったけど、ミーティングなんて必要ないわ。暇なら機体のことは任せたわよ。詳しいんでしょ。ウチはトレーニングで忙しいから。さよなら。」


(へいへい。機体の整備頑張りまーす。)


 昨日よりひどい答えが返ってきた。それでも僕、作り笑顔で……。


「ですよね。はははっ。」


 と返してしまった。こうして僕は1週間フラれ続け、実戦訓練当日を迎えたのである。




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