佐伯教官の提案

「……。」


 佐伯教官と暁さんとの間に緊張が続き、痺れを切らした教官が口を開いた。


「暁、1週間我慢してくれ。1機対1機の実戦訓練を1週間後に予定している。」


「!?」


 教室内が一瞬ざわついた。まさか、1週間後に実戦とは……。シュミレーターでしか動かしたことがない。不安でしかない。ざわつきを気にせず、教官の話が続けている。


「すでに対戦カードも決まっている。とりあえず訓練までは綾野と行動を共にしてほしい。訓練終了後に気が変わらなければ、同乗者パートナーの変更を認めよう。暁、綾野、それでいいか?」


「わかりました。」

「了解しました。」


 諦めたのか、そう答えて席に座ると、前を直視して、こっちを見る様子も無い。僕は深いため息をついてしまった。


「はい!」


(このタイミングで!?)


 静寂を破るように、手を挙げた女子がいる。モジモジしながら、何かを言おうとしている。


(紗夜ちゃんだ!)


「アタシが同乗者パートナー代わります!」


 ちょっと待ってくれ。おかしいな話になってきた。おいおい、SSランクの才能保持者センスホルダーが自分なんかと組んだら、宝の持ち腐れと言われ兼ねない。自分の中で少しパニックに陥っていると、見兼ねた教官が返答を始めた。


「天上院、貴様はいいかもしれないが、清水しみずはどうなんだ?」


「俺は、それでもいいっすよ。」


 軽い感じで紗夜ちゃんの隣の男子が答えた。紗夜ちゃんの同乗者パートナーか。清水…?聞き覚えがある。


(清水涼介りょうすけか!)


 初めて名前と顔が一致した。灰髪に灰髪で絵に書いた様なイケメンだ。噂によると、学年に4人しかいない男子の才能保持者センスホルダーの1人らしい。最近は、才能保持者センスホルダーの男女比率が極端に女子に傾いていて、男子の才能保持者センスホルダーは貴重になっているために、制約もあるらしいが、優遇もされている。優遇されていることの1つに同乗者パートナーを自由に選べるというものがあるらしいが、清水はあまり気にしてないようだ。


 紗夜ちゃんは、気合いが空回りしている様子で立ったままだ。なぜか、少しだけ嬉しそう顔をしている。教官が話を元に戻した。


「では、実戦訓練後に暁の意志が変わらない場合、天上院と同乗者パートナーの入れ替えを実行する。他に異議のある者は?」


「……。」


 手を挙げる者はいない。とりあえず収まったみたいだ。それにしても、大変なことになったきたな。僕は一体どうなるんだ?


「いないようだな。今後の予定についてだが、午前は通常の講義、午後からはオフとする。1週間後の実戦訓練のミーティングをするもよし。寮に帰って休むもよし。自由にして構わない。最後になるが、机の上の資料を用意した。まず1ページ目に 対戦カード、2ページ目以降は、このクラス全員の能力や技量について、私が独自の判断で作ったデータを載せておいた。実戦訓練に役立てるといいだろう。それでは、ホームルームを終わりにする。」


「ふぅー。」


 教室に張り詰めていた重苦しい空気が開放された。そういえば、自己紹介やっていないな。時間が無くなったのか、資料を読めということなのか……。周りでは、雑談が起こり始めていた。だが、僕と暁さんの間には沈黙の時間が流れている。


(はぁー。気まずいなぁ。)


 彼女と一言も話せないまま、高等2年最初の講義が始まった。



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