第25話「君のために銃爪を」
ザッシュは自然と、自分も同じ顔をしていると感じる。
このアマミの街に集まり、謎の巨塔バベルを天へと進む冒険者……そんな
誰にも優しく、少し天然で、好奇心が旺盛なお姫様。
誰にとっても
「あーあ、なに? ちょっと、みんな! お
突然、ザッシュが座るテーブルの上に、ドン! と大きなジョッキが置かれた。中には、泡立つ
全てのテーブルへと今、酒が配られている。
山猫亭を取り仕切るネージュは、従業員達と共に働きながら声を張り上げる。
「アタシがこれからみんなで話したいのは、これからのこと! アンタ達は冒険者、明日も
挑発的な言葉で、意図的な演技さえ感じた。
それがわかっていても、一部の冒険者達は殺気立って椅子を蹴る。
「んなわきゃねえだろ! そういう話じゃなくて、リータちゃんがよう!」
「そうだ、そりゃ……親が結婚を決めるなんざ、珍しくもねえ。なあ?」
「だが、バベルの恩恵欲しさに、
そうだそうだと声があがる。
もう
ザッシュもつい、ジョッキに手を付け唇を濡らす。
苦味が迸って、
喉越しの爽やかさに、少し頭が冷えてきた。
激情に燃えていた思考が、冷静さを取り戻し始める。
「そうだ、リータは物じゃない。だからこそ!」
ザッシュは、意を決して立ち上がる。
注目を集めてしまったが、周囲の大人達を見渡した。
最後にドルクの
「俺は、リータを助けたい。少なくとも、ちゃんとリータの意思を確認して、それを尊重したい。彼女が自分の意志で一族のために嫁ぐなら、笑って送り出す。そうでないなら」
誰もがザッシュの言葉に聞き入っていた。
だから迷わず言葉を選んで決意を解き放つ。
「そうでないなら、彼女の自由のために俺は戦う。例え外の世界を敵に回しても……元から記憶喪失の俺には、このアマミとバベルだけが居場所だから」
そして、この場所はリータが得た安息の地だと思いたい。
ただただ
誰がも納得の声を
気付けば隣りにいたネージュが、満足げに背中をバシバシ叩いてきた。
「やるじゃん、ザッシュ! そういうのを待ってたのよ、アタシは!」
「ちょ、ちょっと、ネージュさん。痛いですってば」
「いい
「いやいや、それはチョロ過ぎるでしょう」
笑いが酒場に満ちる。
腕組み黙って、奥の席でドルクもザッシュの言葉を受け止めてくれた。その
ようやく誰の目にも、突然の苦難を払いのける力が戻り始めている。
もとより冒険者は、明日をも知れぬ危険な家業……やくざな商売だ。だからこそ、なんにでも
そのことをザッシュが再確認してると、聞き慣れた声が凛と響く。
「よく言った、冒険者達よ! ……
おいおい物騒な、と振り返って、ザッシュは
そこには、いつもの露出が激しい鎧姿が立っている。
剣と共に心を折られたが、自分の生き方を曲げられない女騎士が立っていた。リータの護衛を務める、ルーシアだ。
彼女なら本当に斬りかねない。
剣が折れれば短刀で、それがなければ噛み付いてでもリータのために戦うだろう。そして、一歩間違えればこの
「話は聞かせてもらった! 冒険者諸君! どうか、この通りお願い申し上げる……リータ姫様を救うため、このルーシアに力を貸してくれ」
あのルーシアが、人に頭を下げた。
信じられない光景に、皆が絶句する。
エルフ達は皆、気位が高く気難しい。
そして、懇願する美女に優しいのは、冒険者の男ならば誰だって同じだった。
「おいおい、
「そうだぜ、折角の美貌が台無しじゃねえか」
「言われなくたって、俺等でリータ様を奪い返す!」
「上手くいったらその時は、酒のお酌でもしてくれや!」
笑いが広がった。
笑顔が満ちた。
その中にザッシュも、笑っている自分を確かめる。
顔を上げたルーシアは、自信満々の表情で腰の剣を抜いた。
「ようし、それでこそ冒険者だ! ルーシア姫様の騎士として、私は誓おう! ここに――ここ、に……あ、ああ……そうでしたわ、剣は……折れてたのですわ、おほほほほ」
高々と掲げた剣は、折れていた。
そして、またルーシアのキャラがぶれ始めた。
慌ててザッシュは駆け寄り、急いで持ち上げ始める。なだめてすかして、そして
「ええ、いいのですよザッシュさん……私、今後は画家として生きますもの」
「そんな無理を言わないでくださいよ、あの絵じゃ……じゃなくて! 一緒にリータを助けましょう!」
「でも、
「すぐに追いますよ! 俺達は冒険者だ、バベルの中じゃ誰よりも強くて速い、そうですよね!」
「でも……でも、剣が……」
「あーもぉ、面倒臭い人だなあ」
涙目でキッとルーシアが
鼻先に折れた剣が突きつけられる。
「剣は騎士の
「ぶ、武器屋で新しい剣を……ほら、オリハルコン? とかの」
「高くて、買えません、でした……私、この間新しい絵の具を買ったばかりなので」
「と、とにかく! 剣をしまいましょう! 俺に突きつけないで! 折れてても、刺されば死んじゃいますよ、ほんとに……ん? ……死んじゃう?」
その時だった。
ふと、
このバベルの中では、死体はモンスターも人間も等しく消えてしまう。まるで、バベル自体に吸収されるように消滅してしまうのだ。そしてそれは、恐らくアマミの街中でも同じ筈。
そして、ザッシュは最後にリータと会った時を思い出す。
保存、した……ザッシュがリータの笑顔を心にいつも刻むように、彼女の中へ自分を保存したのだ。
「皆さん! 先に行きます……足止めするので、必ずあとから追いついてください! リータを救いに……行きますっ!」
腰の
ザッシュは迷わず、その銃口を額へと押し当て
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