・動き出す運命の、その先には?
第23話「あの人はまだキャラがぶれていた」
激戦から一夜が明けて、ザッシュ達は一躍有名人になっていた。
ついに第11階層、
「よぉ、ザッシュ! もう寝てなくていいのかい?」
「やるじゃんかよ、ルーキー!」
「リータ様にも感心したわ! お高くとまったハイエルフの姫様かと思ったら、冒険者もやるのね」
「しかも、綺麗でかわいくて、お供の連中も強い! お前もな、ザッシュ!」
午後の日差しにもにた温かさの中、昼下がりのアマミは温かい。道行く誰もが声をかけてくれて、それに応じつつザッシュも歩く。
一つの冒険が、この街そのものに自分を根付かせてくれた気がした。
ただ、一つだけ気がかりがあって、ロアンに言われて向かっている。
「この場所は……」
アマミの街にいると、巨大なバベルの中だということを忘れる。
その中でも、町外れのこの場所は
絶景の中、少し歩くと小さな小屋が見えてきた。
なんでも、あのルーシアが昨夜遅くに借りて引っ越したらしい。
「えっと、ルーシアさん? いますか……って、ああ、いたいた。……ファッ!?」
目当ての人物を見つけて、ザッシュは思わず変な声が出る。
そこには、普段の露出度が嘘のようなルーシアの姿があった。見事な肉体美を惜しげもなくビキニアーマーでさらしていた女騎士は、ベレー帽にエプロン、そしてチュニックにスカートとおとなしめな印象だ。
それもあってか、二言目には「斬るか」が
椅子に腰掛けスケッチブックを開いていた彼女は、ザッシュを見て立ち上がった。
「まあ、ザッシュさん。ごきげんよう」
「いやいや、ルーシアさん。キャラがブレてますから。ブレブレですから」
「いいお天気ですね……絶好のスケッチ
「……あのー、ロアンもみんなも心配してるんですけど」
そう、昨日からルーシアが変なのだ。
以前から少し変な人だったが、今は違う。
凄く変だ。
とってもおかしくなってしまっている。
原因の半分は、恐らくザッシュなのだ。
「ルーシアさん、やっぱ怒ってるんですか? 俺がドラゴンにトドメをさしたから」
「そんなことありませんわ、うふふ……ふふ、ふ、はは……ははは! 違うのですわでしてよ、オーッホッホッホ!」
「わっ、ルーシアさんが壊れた」
「そう、壊れた……自慢の剣も、私の心も……ですから、わたくしはこれからは画家として生きていきますのよ? リータ様にも
暇乞い、つまりお暇を頂戴して第一線を退くというのだ。
ありえない。
先日まで、リータを守るためならなんでもこなす騎士だった。恐れを知らず、勇敢に立ち向かっていく女性だったのだ。なにより、自信家の彼女には確かな腕があって、アマミの冒険者達も一目置く存在だったらしい。
だが、今は愛刀と一緒に心まで折れてしまった。
あれからずっと、この調子なのである。
「参ったなあ……リータはリータでちょっと変だし」
「あら、姫様がどうかしたのですか? ……そう、わたくしがいなくなって寂しいのですわね。でも、わたくしはたかがドラゴン一匹倒せない女。
「あ、いや……その、なんか今朝からリータがよそよそしいというか、なんか」
ルーシアは実は、
絵心が壊滅的にない、別の意味で画伯様な夢とは違って、彼女はずっと胸に秘めてきた。いつかはリータの
そのルーシアだが、ザッシュの言葉に露骨に嫌そうな顔をした。
「まあ……ザッシュさん、昨夜はどちらにお泊りでした?」
「え? ああ、宿屋の
「そう、それです。あのシオンとかいう
突然のことで、ザッシュは思わず自分を指差し「へ?」と首を傾げた。
関係も何も、昨日会ったばかりだ。巨大な悪魔像から降りてきて、以降ずっとザッシュの近くにいる。ザッシュを
そのシオンだが、義務がどうとか言ってザッシュから離れようとしない。
ルーシアはスケッチブックに鉛筆を走らせ、手早く説明してくれた。
「いいですか、ザッシュさん。これは姫様とシオン、そしてあなたです」
「……えっと、ああ……お、俺達の絵ですか?」
「そうだと言ったでしょう。今日は上手く描けてます。筆が走ってるんです」
「えーと、まあ……続けてください」
酷い絵だが、逆にこれを絵だと言い張ることも酷い。
なんの仕打ちかと思ったが、平然とルーシアは話す。
キャラがブレるどころか真逆になったまま、話し続ける。
「姫様はザッシュ、あなたに……この矢印、なんだかわかりますか?」
「えっと……ああ、
「違います、これは恋です! 恋心!」
「……はぁ?」
「そして、新たに現れたシオンも……あの目は、恋する乙女の目!」
「眠そうな目ですよね。なんか
「姫様とて年頃の娘、まだ42歳なんです。
ルーシアは意外にも真面目だった。
それでザッシュは、なんだか自分が恥ずかしくなってくる。
ルーシアの様子を見るつもりが、自分が心配され、
初めての出会いに、初めての冒険。
パジャマパーティに、昨日の死闘……いつもリータは、ザッシュの隣で頑張っていた。
「そっか……えと、じゃあ……と、とにかく俺、リータと少し話してみます」
「それがいいですね、ザッシュさん」
「それと、ルーシアさん。武器屋に新しい剣、入荷してましたよ?」
「ふふ、わたくしはもう――」
「なんだっけ、オリ? オリ、オリ……オリハル、コン? とかいう金属の剣で」
「なんだとっ! オリハルコンの精製技術、加工技術を既に人間はもっているのか!? ……いや、ドワーフの名工達ならやりかねん。こうしてはおれん! ザッシュ、姫様に伝えておけ! 私はリータ姫様の守護騎士ルーシア! 騎士の誇りまでは折れていないとな! 善は急げ、買いに行かねば!」
それだけ言うと、目の色を変えてルーシアは行ってしまった。
どうやら、新しい生きがいをまだ騎士道に感じてくれているらしい。
そんな彼女の遠ざかる背中に、ザッシュは叫ぶ。
「それと、ルーシアさん! 俺に剣を教えてくださいっ! 俺は……俺は、もっとちゃんとリータを守りたいです!」
一度だけ立ち止まったルーシアは、振り向きグッと拳に親指を立てた。そうしてザッシュの頷きを拾うと、恐るべき脚力で武器屋のある中心市街地へ飛んでいってしまった。
どうやらロアンの心配の種は解消したようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます