第19話「神樹を見上げて、駆け上る」
第11階層、
そこでは、今までと全く違う世界が広がっていた。
余りに
「これは……あ、あの、ここバベルの中だよね?」
何度も自分に問うてきたことだ。
そして、今また改めて周囲に聞きたくなったのだ。
なぜなら……109階のフロアは、今までの
バベルという
そして……細い回廊が続く先に、見上げても見上げきれぬ巨木がそそり立っていた。
それを見たリータが、驚きに目を丸くした。
「まあ! あれは……まさか、
「世界樹だって? あ、あれが伝説の……しかし、どうしてここに!」
そう、目の前に天へとそびえる巨大な世界樹が枝葉を広げている。
その下は
だが、リータは再度世界樹と言葉を繰り返した。
「世界樹……この世の
「そう、なんだ?」
「ええ。ザッシュもわたくしも、そして皆様も……等しく生命は、世界樹に祝福されてますの。でも、どうしてバベルの中に」
その問に答えられる人間が、一人だけ存在していた。
彼女がもし、人間であるならばの話だが。
「そう、リータの言う通りこれが世界樹だ。この世界のデータ管理システムの一つだが……そうか、バベルの中にあったのか。基礎設計の段階とは随分違うな」
「えっ、シオン……君は」
「
そう、悪魔にしか見えない乗り物から出てきたシオンは、自らを世界の守護者だとうそぶく。だが、今はそんなことを議論している
周囲を警戒していたルーシアとロアンが声を張り上げる。
「姫様! あの世界樹……周囲に
「つまり、ですよ? もしかして……世界樹そのものが、この109階を構成する
疑う余地はなかった。
そして、ザッシュはその証拠を屈んで指で触れる。
「見て、血だ……まだ新しい。これは多分、逃げ延びたエルートさんの。いや、逃げてきたんじゃない……あの人は助けを呼びに戻ったんだ」
まだ、僅かに地面が濡れている。
乾ききっていない血を握りながら、再びザッシュは立ち上がった。
「行こう、リータ! みんなも! ……ドルクさんを助けなきゃいけない。エルートさんが命懸けで、俺達にそれを
リータが瞬きを繰り返し「それに?」とオウム返しに小首を傾げる。
ザッシュはいつになく逸る気持ちを抑えるように、胸に手を当て言葉を選んだ。
「それに、少し冒険者っぽくなってきたろう? リータ、これが多分君の求めていたもの……君が一生を過ごすと決めた、バベルの毎日なんだと思う」
目を丸くしたリータは、
だが、すぐに背後からポカリとザッシュはブン殴られる。
「おいザッシュ、斬るぞ? 姫様を妙な道に誘うんじゃない。だが」
「だが? えっと……ルーシアさん?」
「そうまで言うならお前が姫様を守れ。私は道を切り開き、敵を斬り伏せ、全てを切り裂き進む。遅れずついてこい! 姫様を守れなかったら、お前も
言うが早いか、世界樹へ続く一本道をルーシアが走り出す。
ここからは時間との勝負だ。
すぐに続いたロアンの背を追って、ザッシュもリータと駆け出した。
最後尾をぽてぽてと、澄ました無表情でシオンがついてくる。
肩越しに振り返って、ザッシュはその
「シオンさん! お願いがあります。さっきの、あの、ステータスがどうとかっての!」
「ああ、また必要か? どれ、手を」
「モンスターのステータスとかってのも、見れますか?」
「無論だ。全てのデータは、0と1で構成されている。それは、この世界から出られなくなった私も、本来この世界が封じて守るORI-GENE継承者も同じこと」
訳がわからないが、今は考えるのをやめる。
そして、シオンの小さな手を握った。
何故かリータがプゥ! と
そして、すぐに螺旋階段を登り始めれば、上からモンスターが押し寄せた。
「聞いてください、ルーシアさん! ロアンも!」
「なんだ、ザッシュ! 忙しいんだ!」
「
それでもザッシュは黙らない。
そして、
「僕には今、全てのモンスターが
「なるほど、つまり……叩き斬るってことだな!」
ルーシアはエルフとはいえ、
だが、そんな彼女にザッシュは各個撃破ではなく、一匹に一撃を連ねてもらう。
同時に、魔法を詠唱するロアンにも頼む。
「ロアン! 威力より攻撃範囲の広さで魔法を選んでほしいんだ。できるかい?」
「ザッシュ、馬鹿にしてるんですか!? 僕は姫様を守る術士……こうでしょう!」
あっという間に炎が広がり、分厚い壁となって階段の上を駆け上る。
ルーシアの剣技とロアンの術で、大半のモンスターは死んでゆく。オーバーキルする必要はない……丁寧に
そして、ギリギリで死なない敵を――
「リータ、お願いっ! 僕が援護するから」
「わかりましたの! つまり……わたくしがトドメを刺すということですわねっ!」
風がふわりと舞う。
リータは自分で
そして、美しき
このペースならば、どんどん上へと上がれる。
片手をシオンと握ってなければならず、銃での精密な射撃は難しい。だが、リータの邪魔をするモンスターを
そして、
隣のシオンも「ほう?」と目を細めた。
「確か、ザッシュとか言ったな……面白い。ステータスを見る分には、
「え? なんです、それっ! っと、リータ頭を下げて! そこっ!」
炎の魔法が飛び交う中で、リータが躍動している。
階段を駆け上がり、右に左にと舞い踊る。その
こうして一気に、一同は109階の螺旋階段を駆け上る。
その先に助けを求めるドルクと……恐るべき敵が待つとも知らずに。
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