・謎を連れて、死闘へ
第18話「彼女の意外な生存戦略」
バベル第11階層に広がる、
薄暗い森が
それは、
そして、エルートを抱き上げた者の意外な声が走った。
「誰か、水! 水を
いつになく真剣な表情は、ベルティだ。
あの
直ぐにロアンが、飲水用の
そして、
「ベルティさん! これを使ってくださいな! それと、わたくしの水も!」
「あいよー! あとは……ちょっと痛いけど我慢しなよー?」
なんと、リータは自分の衣服を切り裂き渡してしまった。
もともと薄着で肌の露出も
下着が丸見えだが、リータは自分も血に汚れながら手伝い出す。
「サンキュ、リータ! ちょっと水持ってて!」
「はいっ!」
「派手にザックリいったねー、こりゃ
ベルティはバッグの荷物を出し、そこからオイルを手に取る。傷口は腹部を深く斬られているが、どうやら内蔵や骨には達していないらしい。それは運の太いことだと、ベルティは汗の光る顔を
傷口をよく洗って、オイルを少し塗る。
そして、ベルティは次に取り出したマッチの火を付けた。
傷口を焼かれて、エルートが絶叫を張り上げる。
だが、ベルティは手慣れた様子で彼女にハンカチを噛ませて、処置を続行した。
「リータ、
「ええ、でも人の肌は……いいえ、やってみますわ!」
「ん、よろしく! えーと、あとは……ああエルート、これも噛んどいて。この葉っぱ、いわゆる気持ちよくなるタイプの
涙目のエルートは、リータに傷口を塗られながら
その間に、水を汲んできたルーシアが戻ってきた。
彼女は、他の傷に塗り薬をつけてやるベルティを覗き込む。
「ベルティ、お前は
「んー、それな! わたし、あんまし神様信じてないからさ。こっちの方が確実だし」
とんだ
とても神職の言葉とは思えない。
そういえばベルティは、酒も
だが、足手まといかと思えば、応急処置の手際の良さはザッシュも目を見張った。
そうしていると、黙ってみていたシオンが「ふむ」と
「確かに、この者の信仰心は
「ちょっと、シオンさん! そんな言い方は」
「パラメーターとして見ても、あらゆる数値が低いが……取り立てて信仰心が低い。それに比べて運が以上に高いな。他には……体力や腕力は並、機敏さも無駄に高いようだ」
「……シオンさん?」
「ん、
シオンが不意に手を握ってきた。
その時、不意に意識に何かが流し込まれる。
頭の中を膨大な情報が駆け巡った。
「っ! な、何を」
「これで数値化したパラメーターが見えるだろう」
「え、それって……あっ!? こ、これは」
驚いたことに、ベルティの頭の上に光の文字が並んでいる。
腕力、体力、機敏さ、魔力、信仰心、そして……やけに数値の高い、運。他にも様々な数値がある。
そして、視線をスライドさせれば、エルートは
どうやら、このHPというのは命の総量……これが尽きると、死ぬのだろう。
そのことを聞かされた記憶はないのに、何故かザッシュは知っていた。
最後に、もう一つ驚きの声をあげる。
「あれ、リータが……リータの数値が、変だ」
「どれ。……ふむ、確かに。まあ、データの欠損かバグだろう」
「データ? 欠損……バグって」
「どうしてもシステム上、全てが完璧というのは難しいものだよ。これだけの規模のものは、有史以来初めてだからね。だが、問題はなかろう」
リータは言っていた。
普通の魔法が全く使えないと。
彼女の魔力の数値は、数字でも文字でもない、読めない記号が並んでいる。それはまるで、彼女自身に貼られたレッテル、イレギュラーの
だが、リータは額に汗して大きな傷を全部縫い上げる。
「これでもう大丈夫ですわ!」
「っし、血も止まりそうだね? あとはさっきのリータの布で」
「ごめんなさい、こんなものしかなくて」
「いーのいーの、それよか大丈夫? リータさ……ぱんつ丸見えだじぇ!」
ガハハと笑うベルティは、落ち着いている。
この非常時でも、いや、非常時だからこそ普通通りな彼女に驚いた。
能ある
そして、手当に夢中だったリータがようやく我に返る。
「あら、まあ……こっ、ここ、これは! いけませんの!」
慌ててザッシュはシャツを脱いで、それをリータの細い腰に巻いてやる。
因みにぱんつの色は、一点の
そうこうしていると、ようやくエルートが苦しげに喋り出す。
「すまない……っ! はぁ、はぁ……すまないついでに、頼めないだろうか」
「わたくし達にできることならば、なんなりと」
「姫様は……危険です。でも、どうか……私の、
震える手を伸べるエルートに、リータは
手を取って握り、更に手を重ねて彼女は
恐らく今、彼女はエルートを
熟練冒険者だからといって、特別扱いもできない。
彼女はベルティの応急処置に恵まれ、命を繋ぎ止めるかもしれないが……このバベルの迷宮では、命を落として吸い込まれる者達の方が圧倒的に多いのだ。
そのことに納得して挑むからこそ、冒険者は冒険者たりえる。
「姫様……ドルクを。彼は、109階の、登りの、階段の…さらに、上に……」
「わかりましたわ。最善を約束しますの。ルーシア、ロアン! そして、ザッシュ。危険ですが、このまま109階に上がって、その上を目指しましょう。ベルティさんは」
「わたしはパース! この人連れて戻るわ、にはは。んで……この子はどうすんの?」
皆の視線が、シオンに集中する。
彼女はぼんやりと一同を見渡して、溜息を一つ。
「同行させてもらおう。モノダイバーが破壊された以上、私もこの世界から出る
不可解な少女はそう言って、ふらりと歩き出す。
急いだ方がいいと感じて、ルーシアを先頭に一同は探索を再開させた。何故なら……110階は実質的に一部屋しか存在しない。そこは、この第11階層で最強のモンスター、誰もが見たことのない暗緑ノ樹海の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます