・リータの小さな大冒険
第13話「そしてセーブとロードはああなった」
ネージュの話では、宿泊客が減った分を埋め合わせるだけの冒険者が
何より、リータの
保存後にバベルの
それでも命が助かると知って、集会所のセーブポイントには行列が絶えない。
「リータ、少し休憩しなくて大丈夫かい?」
リータの側に控えて、ザッシュは行列を整理しつつ彼女を
リータは朝からずっと、冒険者の相手をして思い出話を聞いていた。
彼女の中に自分という存在を
だが、ザッシュはリータの忙しさが気になる。
昼食の休憩を挟んで、朝から夕方まで大忙しだ。
それでもリータは、
そんな彼女が、ふと視線を外して天井を見上げる。
「まあ……ザッシュ、
「また? ……またなんだね……もしかして、今回も」
「ええ、そのようですわ」
本日、三度目だ。
まだ午前中だというのに、三度目の再生……それは、リータが感じた死の予兆。彼女が大事な思い出を預かった冒険者が、迷宮のどこかで命を落としたのだ。
そして、誰が死んだのかをザッシュは即座に予見した。
リータは普段通り、歌うように古代魔法の術式を組み上げてゆく。
ほのかに光る
「たっだいまー! いやあ、びっくりした! 魔物の不意打ちですよ、不意打ち! 卑怯だなあ……って、あれ? 拾ったはずの
現れたのは神官のベルティである。
そう、またベルティだ……朝イチで保存して出立した彼女が、こうしてリータに再生してもらうのは本日三度目である。
彼女は以前もそうだったように、
「ふう、お金は大丈夫……愛用のハンマーちゃんもオッケェ!」
「あの、ベルティさん」
「あ、ザッシュ! これ? このハンマーは『ブットバスター君8号』だよっ!」
「や、それはどうでもよくて……何ていうか、早くないですか? 死ぬの」
「しょーないじゃん? わたしはフロアランク108だけど、あそこ魔物が強いんだもん」
悪びれた様子もなく、ベルティは勝ち気な笑顔でザッシュの背をバシバシ叩く。
彼女と夜の宿屋で出会ってから、
以来、保存だけでなく再生も、集会所での活動時間に限ることにした。
週末に死ぬと、安息日を挟んだ翌週の朝になるまで再生されないのである。
だが、ベルティの死にっぷりは異常だ。
「108階にさあ、地図の空白地帯があんの。だーれも入ったことがない、むしろ入れない?
「ハイハイ、それはいいですから……ちょ、ちょっと、離れてくださいよ」
「わはは、照れるな照れるな! ほら、ここだよ、ここっ!」
ベルティは遠慮なく密着してきて、
だが、ザッシュはさり気なく抱かれた二の腕に、豊満な胸の感触を感じて落ち着かない。
リータが声を
「ベルティさんっ! 保存、どういたしましょう。後がつかえてるんですの! ザッシュもあなたにばかり構っていられませんわ!」
振り向けば、両耳をピンと立てたリータが
普段から笑顔の絶えない温厚な彼女の、珍しい怒りの表情らしい。どうしてベルティにだけ、こういう顔をするのだろうかと思ったが、ザッシュには当然にも思えた。セーブポイントと名付けられた仕組みの利用者で、ベルティだけが突出して死亡回数が多いのだ。
むしろ、リータがいなかった以前に、よく108階まで登れたものである。
こう
「ほら、ベルティさん。リータもああ言ってるし……それに、死に過ぎです」
「まあ、便利なもんは活用しないとね! わたし、ザッシュのお陰で前よりずーっと冒険、大冒険できるようになった! 死んでも大丈夫と思ったら、ガンガンいける! そして、
「いいから離れてください、神官なんですよね? 聖職者なんですよね?!?」
「まーね! でもほら、うちの神様は
そうこうしていると、リータがベルティとザッシュの間に両手を差し込み分け入ってくる。彼女は背にザッシュを守るようにして、ベルティに対峙した。
互いの形良い胸と胸とが触れ合う距離で、リータは
「ザッシュを誘惑しないでくださいまし!」
「誘惑? ああ、ザッシュ? だいじょーぶっ! 姫さんのは
「なっ……ザッシュは物ではありませんわ。
「ネコだってタチだって、物じゃないよん? モノぶらさがってなくてもいいしさ、わたし……やっぱこうして見ると、姫さんって綺麗だよね! どう? 今夜あたり、どう! 一緒にいいことしようぜっ!」
「どう、とは? いいこと、とは」
「安心しなよ、わたし優しいからさ! どっちもいけるクチだし!」
話が噛み合っていない。
困惑しつつリータは、ザッシュを守る母親のような顔をしている。ベルティから遠ざけようと必死で、その姿を見た冒険者達からも笑いが巻き起こる。
だが、その中から聴き覚えのある野太い声が叫ばれた。
「
誰もが振り返る視線の先に、鎧の塊みたいなドワーフが立っていた。
左手で巨大な
彼の名はドルク、歴戦の
歩み出るドルクに誰もが道を
「おう、ベルティとか言ったな……
「いやいや、照れる! 照れますってドルクの
「褒めてねえ! ったく……どうせお前さんのことだ、冒険用のアイテムをケチり、倒した魔物の素材は
「でへへ、仰る通りで……でもさあ、ドルクの旦那ぁ」
「そんな状態でド正論言われても、わたしはなんつーか……みんなもそうだよねえ?」
多くの冒険者達が
彼の右手は今、ダークエルフの美女の左手を握っている。
妻のエルートは、いつもの
「……だからよう、エルート。俺は嫌だって言ったじゃねーか。それを、こうやって引っ張ってきやがって。こ、これじゃあ俺ぁ、逃げられねえしよ」
「私はあなたにもリータ姫の保存の儀式を行ってほしいんです。あなたに死なれてしまったら……私はきっと、泣きます」
「わかった! わかったよ、それはわかった! ……わかっちゃいるんだ。だが、保険を掛けて進む冒険は、それは冒険とは言えねえ」
ドルクも
生きとし生けるもの、その全てが命は一つだ。
そして、その
それを差し引いても、エルートが
リータは両手を腰に当てると、周囲を見渡し身を僅かに乗り出す。
「わかりましたの! わたくしの保存と再生に、もう一つルールを
リータはちらりとザッシュを見た。
どうやら具体的な内容までは考えていなかったらしい。
彼女の助力を請うような視線に、ザッシュは大きく頷き進み出る。
「あとでルーシアさんやロアンに相談しますが……こういうのはどうでしょうか、皆さん。今後、再生された時は所持金の半分を頂戴します。くれぐれも軽はずみな行動は控え、リータの保存はあくまで緊急時の手段、ドルクさんの言うように保険だと考えてください」
ザッシュの提案はすぐに自治会長のアレンにも伝わった。そして、ルーシアやロアンが調整してくれて、その日のうちにほぼ全ての冒険者に伝わり広がった。
そうしている間に、ベルティは午後も二度程死んで、所持金を半分の半分まで減らす。
彼女にはなによりも散財が
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