・セーブポイントはじめました!
第8話「想いを込めて保存して」
冒険者達の
場所はアマミの街の中央、集会所だ。
ザッシュがこの世界に出現した時、リータ達がいたのもこの場所である。街の住人を集めての説明会で、彼女は突然ザッシュを再生したのだ。
そのことについてリータは、軽く説明してくれた。
「って言ってもなあ。何だか呼ばれた気がしましたの、って……他には何もわからないのか。でも、逆説的に考えると……俺もバベルで死んだ冒険者、なのか?」
ザッシュは長蛇の列を整理しつつ、小さくため息を
朝も早くから、集会所の前には大勢の冒険者が押し寄せていた。
当然だ……リータに会って話すだけで、自分という存在を保存できるのだから。そして、もし命を落としても再生してもらえる。それは命懸けでバベルを登ってゆく冒険者にとって、とてつもない恩恵に思えた。
リータの警護見習いであるザッシュは、列の最後尾を示す看板を持って立つ。
下からお
「おい、ザッシュ。姫様がお呼びだ、ちょっと行ってくれないか? ここは僕が代わろう」
「わかりました、ロアンさん」
「……僕のこともロアンでいい。さ、急いでください!」
「は、はいっ」
小さなロアンに看板を渡して、ザッシュは集会所の中へと進む。
奥には
彼女は出会った時と同じ、肌も
水着のような、レオタードのような……ザッシュが持っている記憶を
「ザッシュ、忙しい中ごめんなさい」
「いや、何かあったの? 俺にできることならいいんだけど」
「先程、自治会長さんがお見えになりましたの。それで、地上にも照会して頂いたんですけど……冒険者ギルドに、ザッシュという名の登録はなかったそうですわ」
「つまり……俺は冒険者じゃない、と」
「はいっ! なので、わたくしは思いついたのです。警護も兼ねて、わたくしの隣にいてくださいな。冒険者さんの中に、ザッシュを知ってる方がいらっしゃるかもしれませんの」
成る程、改めて見れば今日のリータは周囲にルーシアがいない。あのエルフの女騎士はどこへ行ったのだろうか? その事を聞いてみると、リータは「お買い物に行ってくれてますわ」と笑った。
どうやらルーシアは、リータが仕事場とするこの集会場が気に入らないらしい。
アマミの街で重要な話し合いをする時に使われる、講堂のような作りになっている。その奥に臨時の祭壇を設けて、リータはちょこんと座っているのだ。きらびやかな彼女に対してあまりにも殺風景で物寂しい。
「自治会長さんも今後は、わたくしのお仕事の場所を考えてくれるそうですの」
「そう、じゃあここはいわば臨時のセーブポイントだね」
「セーブポイント……?」
「あ、いや……気にしないで。それより、みんなが待ちきれないみたいだけど」
どんどん増える冒険者は、ざっと見ても百人をくだらない。
長蛇の列を改めて見て、ぱむ! とリータは手を叩いた。
「それでは始めますわね。最初の方、こちらにいらしてくださいな!」
のっそりと歩み出たのは、
ザッシュは自然と、腰に下がる
もし暴れるようなことがあったら、リータを守って戦う羽目になるかもしれない。
図体をそのまま表現したような野太い声で、戦士の男は喋り出した。
「ハイエルフのお姫様っつーから、どんなのかと思って来たら……まだガキじゃねえか」
「はいっ、今年で42歳になりますの! 至らぬ
「げっ、俺より年上かよ。……で? その、俺の
エルフは長寿で、その美しい容姿は全く変わらない。成人してからはずっと、何百年も老いとは無縁で生きてゆくのだ。
少し驚いた巨漢の戦士へと、リータは
「お名前をお伺いしてもよろしいですか? 冒険者さん」
「お、おう……俺ぁバング。フロアランクは105だ」
フロアランクとは、冒険者がバベルのどこまで登ったことがあるかを示すものである。この数値の高さが、そのまま冒険者の実力となるのだ。
このアマミがあるフロアが丁度、地上100階になる。
よって、ここにいるのはフロアランクが100位上の
現在、バベルは109階までが攻略されているという。
第11階層、
「バング様ですわね。では、バング様……わたくしに思い出話をしてくださいな」
「……は?」
「わたくしにバング様の存在を、その一部を想いにのせて
面食らったような顔になったが、バングはとぎれとぎれにもごもごと自分の過去を語った。かつて
リータは聞き上手で、何度も
そして、最後にバルクの大きな手を取り、そこに手を重ねる。
「では、バング様。貴方という存在をわたくしの中に保存しましたわ……どうか、これからの冒険も御無事で」
「お、おう。因みに俺が死んだら……?」
「その時は、わたくしがすぐに思い出して
「つまり、今この瞬間から稼いだ金や持ち帰った
「命を落とせば、失われます」
本当にゲームそのものだとザッシュは驚いた。
そして、ぼんやりと思い出す。
そう、やはりゲーム……それも、何かしらの機械を用いた電子的なゲームだ。プレイ時間が長くなるゲームには、必ずセーブとロードの機能がついていた。
だが、思い出せるのはそれまで。
そして、この世界にはそういったゲームはないように見えた。
「フン、まあいい……元より死ぬ気はねえよ。じゃあな、お姫様! ありがとよ」
「どういたしまして、バング様。いってらっしゃいですの!」
小さく手を振るリータに背を向けて、バングは行ってしまった。
後ろで見守っていた行列の冒険者達も、二人のやり取りを聴いてある程度理解したようだ。そして、俺が俺が早く早くと賑やかになる。
しかし、そんな冒険者の列を無視して……突然リータの前に少女が現れた。
並んでいる者達から文句が叫ばれる中、横入りした少女がリータを指差し叫ぶ。
「ちょっと、アンタ! 怪しい商売をはじめて……そっちの彼も! すぐやめて!」
ザッシュはリータと顔を見合わせ、首を傾げる。
リータは
「ええと、おはようございます。わたくしの保存と再生は
「じゃあ、なんなの! アンタのお陰で商売あがったりだよ!」
「言うなれば、義務……そう、使命ですわ。冒険者さんの安全のため、微力ながらお
女神のような笑顔に、少女は
そして、タジタジになりながらザッシュを
「……ちょっと、どういうこと? すっごいイイ
「うわっ、チョロい……えと、じゃあそういうことで」
「でも、話は終わってないわ! お姫様、アンタの使命はアタシの仕事を邪魔してんの!」
そう言って少女は、ズビシィ! とリータの鼻先に人差し指を突き出す。
それが、アマミの街で唯一の宿、
こうしてリータの前途多難なセーブポイント生活が幕を開けるのだった。
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