第2話 承
「あいたっ」
「いてて、少しコブになってる」
ぶつけた
「ここ……どこ……?」
辺りを見渡す。床一面には
しかしそれとは対極的に、かすかに窓を叩く風の音や、エンジンのような音が響き渡っているのが気になる。
「僕、まだ寝てるのかなぁ」
頬を軽くつまんで感覚がある事を確認すると、次は力いっぱいつねってみる。
「うぅ、痛いだけだった」
「言っておくけど夢じゃないわよ、ノラジョン」
先ほど僕の部屋に現れたぽっちゃり少女が、腕を組みながら柱にもたれかかっていた。
「あの僕、ジョンじゃなくて純です、えっと……」
「ポンピング・メイデンよ。一回で覚えなさいよ、全く」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らされてしまう。
しかしこの少女、明るい場所で見ると随分と印象が変わる。
「いい?ノラジョン」
「あの、ジョンじゃなくて純……」
「んもう、どっちだっていいわよ。男なら細かいことは気にしないの」
ポンピング・メイデンは面倒くさそうな口ぶりで言い捨てると、もたれていた柱から身を起こし近づいてきた。
「ここはアンタのいた世界とは別次元の世界よ」
「べつ、じげん」
「アンタの世界で言う、そうね、アニメやゲームに出てくる異世界って言えば分かりやすいかしら」
そのまま僕を小さな円で囲うように、おもむろにぐるぐると歩いている。
言われれば妙に納得がいく。ほんの少し前まで自室だった場所が、まるで別の空間に丸ごと入れ替わったようだった。
「アンタはこの世界で、数々の試練に立ち向かっていくのよ!」
振り向きざまに大きく腕を上げると、人差し指をぴしっと伸ばして僕を差し、「決まった……」と得意気な表情を見せた。ツッコミどころは満載だが、あえて何も言わないでおこう。
「で、具体的に僕はこれからどうすればいいの?」
そう聞くと、ポンピング・メイデンは少しばかり考え込むように首を
「厳密には何が起こるか……」
ちらりと横目で僕を見て、「アタシにもいまいち分からないのよね」と両腕を八の字に広げ肩をすくめた。
「分からないって……だって
「あぁもう、うるさい。アニメやゲームみたいに、目的が決まってると思ったら大間違いよ!」
「その例えを出したのはきみじゃないかぁ」
僕の抗議の声を
「ちょ、ちょっと置いて行かないでよ」
それにしても、明らかに場違いなこの格好が今は恥ずかしい。気休め程度だが、シャツの
「ごきげんよう」
突然後ろから、
「どちらまで行かれるのかしら?」
「あ、あなたこそどちらまで?」
不覚。いくら緊張しているとはいえ、質問を質問で返すなんて。普段女子と接する機会がないことが裏目に出てしまった。
「うふふ、そうねぇ。沈む夕日に染まるヴェルヴェーヌ海を見に行くのもいいし、ミオソチス園で森林浴をしながらお散歩も素敵ね」
女性は特に気分を害した様子もなく、楽しげに続けている。なんとなく
ふと気づくと感じる視線。奥に見える柱の陰から、ポンピング・メイデンが見事な
「ごらんなさい、素晴らしい眺めよ」
女性はそう言うと、
「あの鳥、大きいなぁ」
遠方上空を
「まぁ大変、
「ドラ……うそでしょ」
自分が異世界にいるという事実に、どんどん現実味が増す。
「ノラジョン、こっち!」
ポンピング・メイデンの
「んんん、やっぱり圧力でロックされちゃってるわね」
どことない
「こうなったら、実力行使あるのみだわ」
足を扉に乗せて体重をかけると、両手で思いっきり手前に引っ張っている。何か手伝えることはないかと戸惑っていると、僕の方へ顔を向けニヤリと笑った。
「ね、ね。さっきの女の人、キレイだったね?」
「こ、こんな時に何言ってるんだよ」
「なーによ、デレデレしてたくせに。こーんな顔で」
そう言うと目尻を下げ、鼻の下を伸ばして見せた。僕の顔真似をするくらいの余裕はあるみたいだ。
「アタシ心は広い方だけど、浮気は許さないわよ」
「だからこの非常時に……うわぁぁぁ!」
扉が無理矢理こじ開けられた瞬間、身体が勢いよく宙に投げ出された。風圧で揉みくちゃにされながら落下していき、僕の意識は
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